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イギリスで知らない間に広がっていたギャンブル汚染 - コリン・ジョイス Edge of Europe

9/14(木) 19:00配信

ニューズウィーク日本版

<ギャンブルの弊害がじわじわと広がっているイギリスだが、特に依存性が高いと言われるゲーム機「FOBT」に関しては関連犯罪や中毒症状が社会問題になっている>

ギャンブルについて、僕は今まさに「目からうろこが落ちた」ように感じている。人々はもう何年も前からギャンブルの危険性を口にしていたのに、僕個人は全く興味がなかったので(ギャンブルは僕が手を染めていない唯一の悪行だ)、今になるまで気付かなかった。

ギャンブルは、アルコールや薬物とは違い、はまり込んでしまってもふらついたりプンプン臭ったりするわけではないから、ある意味「隠れ中毒」だ。他人からは簡単に分からないし、中毒状態のギャンブラー本人もそれを隠そうとするだろう。

前回のコラムを書いて以降も、僕が以前なら見過ごしていたようなギャンブルについての話題は相変わらず続いている。

9月6日、英労働党はギャンブル広告に対する規制を求めた。プレミアリーグ全20チーム中、なんと9チームものユニフォームにスポンサーのギャンブル企業のロゴが入っている。子供たちはそうしたロゴ入りユニフォームを目にするだけでなく、レプリカユニフォームを身につけもする。

ほんの数週間前には(アーセナル対ストーク・シティの試合が行われたときだ)、ストーク・シティのホームスタジアムが、ギャンブルサイトの名前にちなんで「bet365スタジアム」と名付けられていたことに気付いた。卑しいし品位に欠けるし、普通にスポンサー企業の名前を付けるよりずっとひどいし、スポーツ発祥の古代ギリシャの精神からもかけ離れているように感じられた。

【参考記事】大学も就職も住宅も「損だらけ」のイギリスの若者たち

悪習から抜け出せない仕組み

あるギャンブルサイトでは、顧客が自主的に退会してもアカウントは生きていて、いつでもギャンブル生活に戻れるようにアクセス可能な状態になっている、という報道もあった。そのサイトの運営会社が罰金刑を受けたという日に、僕はその記事を目にした。罰金の額が予想よりかなり少なかったので、その企業の株価は急騰した。

他にも、ギャンブルサイトの賭けに負けた人々から巻き上げた賭け金から、予想屋が利益をむさぼっていたという記事もあった。予想屋は勝ち目がないほうをユーザーに勧め、サイト側から報酬をもらっていた。その予想屋の悪評が広がらないようにするため、過去の悪質お勧め情報をネット上から完全消去する巧妙な手法も存在したらしい。

先日の夜、僕はテレビを見ながらうたた寝をしてしまった。ふと目を覚ますとITV(イギリスで史上最も人気のある放送局)がギャンブル「番組(らしきもの)」を放送していた。ルーレットが回り、テクノミュージックが流れ、賭け終了のカウントダウンが始まり、電話番号と、タックス・ヘイブン(租税回避地)のチャネル諸島の企業名が流れる......。僕は見るに堪えなかったが、でもその気になれば、夜中の1時に自宅から、90秒かそこらごとに回されるルーレットに賭けることだってできるわけだ。通話はもちろん無料。番組は何時間も続いていた。



身を滅ぼす「FOBT」

FOBTという言葉をよく耳にする。「固定オッズ発売端末(Fixed Odds Betting Terminals)」というこの機械は、損すること請け合いのゲーム機だ。最低掛け金は1ポンドだが、1スピンごとにその何倍も賭けることができる。ただ1つ確かなことは、定期的に利用すれば絶対に胴元が勝つ仕組みになっている、ということ。依存性が高いため、この機械はギャンブルの「クラック・コカイン」だと批判されている。いつでも手軽にできて、一度で数百ポンドが吹っ飛ぶこともある。

僕が最近見たテレビドラマ『ブロークン』は、女性がこの「悪癖」につぎ込むために勤め先から巨額のカネを横領した挙げ句、自殺するという内容だった。それを見たときはちょっと現実離れした話だと思ったけれど、そのすぐ後に、ロンドンの会計士がギャンブル代欲しさに勤務先から35万ポンドを横領し、(驚いたことに)実刑を免れたという記事が新聞に載った。

FOBTを規制する措置がいくつかとられている。政府は店舗ごとに設置できるゲーム機の数を(最大4台までに)制限した。だが店舗数が増えるだけとの見方もある。あまりにうまみのある商売なので、店舗を増やすのが理にかなうからだ。現に、ゲーム機を増やすため、1つの店を仕切りで2つに分け出入り口も2つに増やして「2店舗」にするところが出てきた。

規制強化を求める声は大きいが、ギャンブル業界は、これ以上の規制は雇用を犠牲にする! 税収を減らす! とロビー活動を展開している。

【参考記事】「持ち家絶望世代」の希薄すぎる地域とのつながり

最近リバプールで、男が数週間にわたりゲーム機をハンマーで粉砕し、店舗にペンキをぶちまけたとして有罪になった。以前この男は、この店のゲーム機で1時間に数百ポンドをすったため、自分がFOBTを利用するのを禁止にしてくれないかと店に頼んだのに止めてくれなかったのだという(店側は顧客を締め出さなくとも、店頭での操作で機械を止めることができる)。

もちろん、分別ある人なら、この男や他のギャンブラーたちがなぜ自制心を見せられないのかと不思議に思うだろう。僕や、何百万人の人がするように、なぜ普通に賭け屋の前を通り過ぎないのか、と。もちろんほとんどのギャンブラーは自らの行動を抑えることができるが、中にはそれができない者もいて、ギャンブル業界はそうした人からカネを巻き上げているのだ。

ゲーム機破壊男の言い分が、なかなかふるっていた。男はバーテンダーで、泥酔した客への酒の販売は法律で禁じられている。それなのにギャンブル業界は、自制心のない人間の自己破壊的行動を止める責任を免れているじゃないか、と。


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