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中国による知的財産侵害、副作用伴うトランプの対応

9/20(水) 8:11配信

Wedge

 トランプ大統領は8月14日、中国による米企業への知的財産の侵害について調査を命じました。この件について、同日付のウォール・ストリート・ジャーナル社説は、トランプ政権の対応の根拠となっている1974年通商法第302条b項は副作用を伴い危険であり、よりWTOに合致したやり方で報復すべきである、と言っています。要旨は次の通りです。

 トランプの通商政策は、選挙戦中のレトリックよりかなり抑制されているが、8月14日、中国による米企業への知的財産の侵害について調査を命じ、対中圧力を高めた。危険なのは、トランプが振りかざしている1974年通商法第302条b項が、米製品への市場開放の努力を損ない得ることである。

 中国が2001年のWTOへの加入に際しての約束を破っているというトランプの主張は正しい。中国は、自由貿易を受け入れず、胡錦濤、習近平の下、輸入代替を目指してきた。

 習が2015年に発表した「中国製造2025」計画は、8年間で中国製品の占有率を70%に高めることを目指している。同計画は、外国企業の市場からの閉め出しや政府投資により、10の産業分野で中国企業をトップに押し上げることも要請している。

 中国の貿易相手である先進諸国は、こうしたやり方を受け入れないことで一致しており、中国も批判に応じてある程度軟化している。しかし、歴史は、中国が自動車メーカーやテクノロジー企業に対し、最先端技術を政府や合弁パートナーに渡すよう圧力を掛け続けることを示している。

 問題なのは、302条b項が、副作用をもたらしかねない危険な武器だという点だ。というのは、同条項は、米行政府に裁判官、陪審員、執行者の役割を許し、大統領が適切と判断すればいかなる措置も執ることも許しているからだ。

 1980年代の日米貿易摩擦は、1995年のWTO設立、条約義務違反を判断する上級審の設置に繋がった。

 トランプ政権が中国製品への関税を引き上げたら何が起こるのか。第一に、中国は、被害者を装って、米国をWTOに提訴し得る。紛争がエスカレートすれば、両国の企業が機会を失い、消費者は多くの支出を余儀なくされ、経済は減速するだろう。

 紛争は、ルールに基づくWTOの制度の尊重を弱めることにもなろう。それは、中国にとり有利に働き得る。中国は、東アジア各国の主要な貿易相手国としての地位を利用し、地域における優位を固め、米国と同盟国との貿易関係を排除するかもしれない。米国は、自らが構築を支援した、ルールに基づく貿易システムの維持に大きな利害を有する。

 中国の貿易黒字は、外国資産への投資が必要ということでもある。中国は、投資を米財務省証券以外に分散させることを望んでいる。トランプ政権が互恵待遇を強調するのは正しい。規制は、特に先端技術分野での中国の投資を阻止する力を米政権に与える。

 中国が米企業の対中投資を制限し続けるならば、よりWTOに沿ったやり方で報復をすべきであろう。米国と他の先進国がこの問題で協力し、中国に自らが署名した貿易法に従うよう要求し得る。

出典:‘Trump’s China Trade Sally’(Wall Street Journal, August 14, 2017)

 米政府は、中国による知的財産侵害の疑いがあるとして、通商法に基づき調査を始めることとなりました。8月14日にトランプ大統領が米通商代表部(USTR)に対する覚書で調査が妥当かどうかの検討を命じ、18日USTRが正式に調査を開始したと発表しました。

 調査の根拠法は、社説の言う通り米通商法302条b項であり、同項は、外国が米国に対し不公正な貿易慣行を実施していると判断した時は、関税の引き上げなどの制裁措置を取ることを定めた米通商法301条を適用すべきかどうかを調査するものです。

 日本では、今回の調査は米通商法301条に基づくものと報道されましたが、正確には、手続き的にはまず302条b項に基づいて調査が行われることになります。

 301条に基づく制裁は、WTOの規定にそぐわない一方的なものであり、米国が主導してきたルールに基づく貿易システムを弱めるうえに、中国の報復を招き、米中貿易戦争に発展する恐れがあります。

 ただし、中国の知的財産侵害の実態が、米国の許容限度を越えていることは事実です。USTRは、1)中国政府が、技術と財産権を移転させるため、いろいろな手段により在中の米企業の活動に対し、規制ないし介入をしていること、2)中国政府が、在中の米企業が技術を支配するのを妨げるために種々の措置を講じていること、3)中国政府が、中国の企業が在中米企業から最先端技術、知的財産を得るため、在中米企業に投資し、または在中米企業を買収するよう図っていること、4)中国政府が知的財産、貿易機密などを窃取するため、米国の商業コンピューター・ネットワークをサイバー攻撃していること、を調査の対象とすると述べています。

 確かに、調査の結果に基づき米国が制裁措置を取れば、中国が報復し、貿易戦争になる恐れは十分ありますが、USTRは調査開始から12ヶ月以内に結果を出すこととされています。

 したがって、制裁が実施されるとしてもだいぶ先のことであり、その間、米中間で貿易摩擦がエスカレートしないよう協議する時間があります。両国とも貿易戦争は望んでいないはずであり、知恵を絞って摩擦の拡大の阻止に努めることが求められます。

 そして、協議の結果、調査が撤回されることが望ましいです。301条の援用は1980年代末の日米貿易戦争時以来、再び悪しき前例となるからです。

 ただ、中国の重商主義的戦略は、「中国製造2025」計画をはじめ、習近平政権の経済政策の根幹の一つであり、容易なことでは修正に応じないでしょう。中国のこのような戦略は、米国のみならず、日本をはじめ他の先進経済諸国、そして途上国の利益にも反するものです。これらの国は、中国に政策を変更させるべく、国際的な連携を取るべきでしょう。

岡崎研究所

最終更新:9/20(水) 8:11
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