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休日の家族連れを直視できない女性。押された「不可」という小さなハンコ

9/21(木) 10:30配信

BEST TIMES

産んでも産まなくてもこれでよかったと思える人生のために。女として「自分が主語」の人生を楽しむためのヒントがある。34歳で子供が欲しくなり、40歳で不妊治療をやめたコラムニスト吉田潮の体験。妊娠した時のこと、そしてその後のこと。『産まないことは「逃げ」ですか?』より紹介する。

家族連れを見るのがツラかった

 休日は、日本全国どこでも、家族連れを見かける機会が増える。人がいないところであっても、日曜日のニュースでは「全国の行楽地は家族連れでにぎわっていました」という文言を聞くことになる。

 父と母の間に子供、あるいは小さな赤ちゃんを抱いた母親、あるいはおなかの大きな妊婦さんとその夫、あるいは子供と母親と祖母の3人組。生殖に成功した人々のユニットは、しばらくまぶしくて見られなかった。家族連れが自分の視界に入ると、すぐに視線をずらしていた。

 同じ顔をしたユニットに対して、「私はそのユニットを組むことができなかったよ……」とやるせない気持ちになったからだ。同じ事務所所属なのに、人気グループに入れなかったような感覚。自分はスポットライトを浴びることができないんだなと、打ちのめされた感じかな。

 

「不可」という小さなハンコがチクッと押される

 この心根、非常に説明が難しいのだけれど、「幸せそうだなコノヤロー」と、嫉妬や逆恨みする感覚とはちょっと違う。だって、嫉妬するほうが簡単だし、ラクだ。
「同じ顔して並んじゃって。マトリョーシカか!」

 なんて茶化したり、毒づけばいいのだけれど、そんな軽口で済むものではない。

 私はそこに行けない、到達できないんだ、という感覚で、「不可」というハンコを押されるような思い、といったらわかるだろうか。家族連れを見るたびに、私の下腹部に「不可」という小さなハンコが押されるのだ。押されるとチクッとする。

 頑張れば、ある程度のモノは手に入る。信念をもって努力していれば、いつか報われる。それは「やる気がない人を鼓舞するための惹句(じゃっく)」であって、実はこの世の中には不可能なことがいくつもある。頑張っても手に入らないものもあるし、努力が報われるというのも確率は非常に低い。

 そんな「救いようのないネガティブ」なことを考えたりして、精神衛生上よろしくなかった。だから、子連れが多い場所や、込み合う休日は外出を避けたりしていたかも。そうなると、徘徊するのがたいてい夜の街になるんだよね。子連れがほとんどいないから。

 今? 今はそんなことない。

 行きたいところへ行きたい時期に行きたい人と出かける。家族連れを見ても、ネガティブなことを考えなくなった。逆に、子連れのお母さんが困っていたら手助けしたいと思うようになったし、お父さんが小さな子供を抱っこして連れているのを見て、微笑む余裕も出てきた。普通に外出できますぜ。笑顔で闊歩できますぜ。

 でもひとつだけ拭えないのは、小さなハンコである。チクッと押される、例のヤツ。以前はチクッとして、じわじわと広がっていたのがとてもイヤだった。最近はその時間も短くなってきているが、ハンコはしばらく続くみたい。45歳になった今でも。

〈『産まないことは「逃げ」ですか?』(著・吉田潮)より構成〉

文/吉田 潮

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