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中国の宇宙ステーションが地球に落ちてくる?「正しく恐れる」ために大切なこと

11/7(火) 8:50配信

HARBOR BUSINESS Online

「制御不能に陥った中国の宇宙ステーションが地球に落ちてくる」――。そんな話が昨年ごろからたびたびささやかれ、つい最近も英国のメディアなどが報じ、そのたびに話題になっている。

⇒【画像】参考として欧州の無人補給船「ATV」が大気圏に再突入した際の様子

 その多くで、「制御不能でどこに落ちるかわからない」、「燃え残った部品が降り注ぐかもしれない」といった、危機感を煽るような内容が散見された。

 実際には、明日にでも頭の上に降ってくることを心配するようなものではない。しかし、この中国の宇宙ステーションに限らず、大きな人工衛星をどう処分するかをめぐっては大きな課題があることも事実である。

◆中国の宇宙ステーション「天宮一号」

 今回「落ちてくる」と話題になっているのは、中国が2011年に打ち上げた小型の宇宙ステーション「天宮一号」である。

 中国は近い将来に、大型の宇宙ステーションの建造を目指しており、天宮一号はそのために必要な技術の開発や、試験を目的として打ち上げられた。

 まずは無人の状態で運用され、機能の確認などが行われた後、2012年に3人の宇宙飛行士が乗った宇宙船「神舟九号」がドッキング。天宮一号の中に飛行士が入り、1週間あまりにわたって宇宙滞在の試験や宇宙実験などが行われた。2013年には「神舟十号」もドッキングし、3人の飛行士が2週間ほど滞在している。

 天宮一号を使った試験はこれをもって終了となり、2016年には改良型の「天宮二号」が打ち上げられ、2人の飛行士が訪れて30日ほど滞在。2017年10月現在は無人での運用試験が続いている。

 また天宮を改造した、「天舟一号」という無人の貨物補給船も開発され、今年の4月に打ち上げられて天宮二号にドッキング。燃料の補給など、将来の宇宙ステーションの運用に向けて、必要な技術の試験を行っている。

 現在のところ、中国の本格的な宇宙ステーションの打ち上げは2018年以降に予定されている。そしてこれまでのところ、その実現に向けた準備は順調に整いつつあるのは間違いない。

 ところが、その歩みにとって少しばかり汚点となりかねない出来事が起きた。天宮一号が”制御不能”に陥ったのである。

◆制御不能になった天宮一号

 2016年3月、中国の国営メディアなどが、「天宮一号からのデータ送信が終わった」と報じた。このとき、文言のニュアンスがやや曖昧で(英語メディアへ転載される際の翻訳の問題などもあった)、運用者が意図して機能を止めたのか、それともトラブルで止まったのかはわからなかった。しかし、のちに出てきた情報で後者、すなわち故障だったことが明らかになった。おそらくはバッテリーが故障し、電力を失ったものと考えられる。

 このトラブル以降、天宮一号からのデータも届かず、地上からの指令も届かない、”制御不能”の状態に陥っている。

 ただ、この制御不能という言葉は、間違いではないものの、やや誤解を招くものである。アニメのロボットのように、暴走して制御できないというようなものではなく、実際にはうんともすんとも言わない、ただの”塊”となっているにすぎない。

 天宮一号は現在、高度約300kmを少し超えたあたりの軌道を回っている。高度300kmというと十分に宇宙と呼べる場所ではあるものの、ごくわずかに大気があるので、その抵抗を受け、少しずつ少しずつ高度を落としている。今後、やがてある限界を超えると、高度がぐんぐん落ち、そしていわゆる「大気圏再突入」の状態になり、燃えながら地上に向かって落下することになる。

 これを大げさに捉えたいくつかのメディアが、地球のどこかに宇宙ステーションが落下するなどといった、やや危機感を煽るような報じ方をしているのである。

◆地上に落下する可能性は?

 実際のところ、どこに落下するかはわからない、というのは事実である。ただ、人家のある地域に落下し、誰かの頭上に降り注ぐ可能性は限りなく低い。

 まず、天宮一号は宇宙ステーションとはいえ、全長約10m、直径3mと、宇宙に打ち上げられた物体の中ではそれほど大きなものではない。そのため、機体の大部分は再突入時の熱で燃え尽きると考えられる。

 ただ、部品の中には熱に強い素材を使っているものもあり、また再突入時の機体の姿勢によっては、機体の内部や後部にある部品が熱を受けにくくなる可能性もある。つまり、いくつかの部品は燃え尽きずに、地表まで到達する可能性があるのも事実である。

 しかし、天宮一号が回っている軌道の傾きから、落下するのは北緯約43度から、赤道をまたいで南緯約43度までの間に限られる。この時点で、それよりも北、あるいは南にある地域は除外される。また、地球の大部分は海や何もない大地が大半であり、都市はもちろん、人家のある地域に落下する可能性を考えるときわめて小さい。自分の頭上に降ってくる可能性を考えるくらいなら、交通事故や毎日の食生活に気をつけたほうがよほど有意義であろう。

 また落下時期も、現時点では、今年の年末から来年初めにかけてのどこかというくらいで、いつ大気圏に再突入し、万が一燃え残った部品があったとして、それがどこに落下するか、ということはまだわからないが、それも時間の問題で、今後落下までの時期が近づいてくれば予測は可能になる。これは、人工衛星の軌道が下がるペースは主に大気の状態によって左右され、その大気の状態は太陽活動などによって時々刻々と変わっているためである。

 つまり、あくまで現時点では予測できないというだけであり、今後落下までの時期が近づいてくれば、その時点での大気の状態などを計算に加えることで、いつ、そしてどこに落下するか、ある程度範囲が絞れるようになる。もし万が一が当たり、大都市などに落下する可能性が濃厚になったとしても、避難などの対策を取るだけの時間はある。

◆宇宙ゴミ落下の危険をなくすためには全世界の努力が必要

 こうしたことから、頭上に宇宙ステーションが落下してくることを、過剰に心配する必要はない。

 とはいえ、こうした事態は中国が意図していたものではないだろうし、そもそもこうした事態にならないのが望ましいのはいうまでもない。

 これまで天宮一号よりも大きな人工衛星はいくつも打ち上げられているが、その多くでは「制御落下」と呼ばれる処分が行われている。これはエンジンを噴射して、機体を太平洋上などのなにもない地域に狙って落下させるというのもので、万が一燃え残った部品があっても海に落ちるので、人や建物に被害が出ることはない(もちろん事前に付近を通る航空機や船にも警告を出す)。

 中国ももともと、天宮一号の運用終了時には、南太平洋に制御落下させることを計画していたことが、公式の資料から明らかになっている。ただ、2016年に起きた故障によりそれができなくなったのであろう。これ自体は中国の落ち度ではあるものの、打ち上げから5年も経った人工衛星が故障することは珍しいことではない(なお、天宮一号の設計寿命は2年と想定されていた)。

 また、中国の宇宙局は天宮一号の軌道や今後の予測を広く公表しており、どこかに落下する危険がある場合は警告も出すことになっているため、この落ち度に対する責任は取っているといえよう。

 また、これまでも故障や、そもそも最初から考えていなかったという理由で、制御落下できずに大気圏に再突入した人工衛星はいくつもある。その中には海ではなく人の住んでいるところに落下したものもあり、ソ連/ロシアは宇宙用の小型原子炉や、放射性物質をそのまま落下させたこともある。

 もちろん、他国もやっているから中国も許される、という話では決してない。あくまで、今回のような事態は、これまでも起きており、そしてこれからも、そしてどこの国や企業の人工衛星であれ起こりうることであり、中国だからという理由で騒ぎ立てることではないということ、そして今回のような事態をどのように減らし、地上に落下する危険をなくすかということは、宇宙開発にかかわっているすべての国や企業にとっての課題である、ということである。

 今回の天宮一号を通じて、宇宙から人工衛星が落下することに対する正しい知識が広がり、こうした事態を減らすための前向きな議論が始まることを願いたい。

<文/鳥嶋真也>

とりしま・しんや●宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。

Webサイト: http://kosmograd.info/

Twitter: @Kosmograd_Info(https://twitter.com/Kosmograd_Info)

【参考】

・http://www.cmse.gov.cn/art/2017/10/24/art_810_31907.html

・China’s 1st space lab Tiangong-1 ends data service – Xinhua | English.news.cn(http://news.xinhuanet.com/english/2016-03/21/c_135209671.htm)

・China’s Tiangong-1 space lab to fall to Earth between October 2017 and April 2018(https://gbtimes.com/chinas-tiangong-1-space-lab-fall-earth-between-october-2017-and-april-2018)

・Tiangong 1 brought down by dysfunctional battery charger – China Space Report(https://chinaspacereport.com/2016/09/30/tiangong-1-brought-down-by-dysfunctional-battery-charger/)

・Tiangong 1 – China Space Report(https://chinaspacereport.com/spacecraft/tiangong1/)

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