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ドイツ「大連立」交渉が破綻すればEUのカオスが始まる

2017/11/27(月) 15:14配信

ニューズウィーク日本版

大連立に失敗すれば、EUは統合の求心力たるドイツを失うかもしれない

[ロンドン発]9月のドイツ連邦議会選挙から2カ月余が経ち、キリスト教民主同盟(CDU)のアンゲラ・メルケル首相と社会民主党(SPD)のマルティン・シュルツ党首が3度目の「大連立」を組むか否かの交渉に入る。下手をすると解散・総選挙という事態に追い込まれるかもしれない。

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議席数だけを見れば、もともと大連立の継続がメルケル首相にも、ドイツにも、そして欧州連合(EU)にとっても最も望ましい選択肢だ。がしかし、大連立を組むたび社民党は恐ろしいほど票を減らし、9月の連邦議会選挙では史上最低の得票率20.5%まで落ち込んだ。

メルケル首相との対決姿勢を鮮明にしたいシュルツ党首が「下野する」と断言。このため、政党カラーがジャマイカ国旗と同じになる「黒(CDU)」、「黄(自由民主党=FDP)」、「緑(90 年連合・緑の党)」の「ジャマイカ連立」交渉がずっと行われていたが、難民家族の受け入れに反対する自由民主党が最後の最後になって離脱した。

■CDUとの一体化を警戒する若手

連立協議は社民党出身のフランクワルター・シュタインマイヤー大統領の主導により大連立の継続を交渉するという振り出しに戻った。しかし社民党の若い支持層はCDUとの一体化がさらに進むことを警戒している。最終的な決断はシュルツ党首ではなく、12月の党大会に委ねられる可能性が強い。

オランダ総選挙とフランス大統領選でEU崩壊を目論む極右政党を抑え込み、「EU防衛戦争」の勝利は確実になったかに見えたのだが、肝心要のドイツが足をとられた。「EUの女帝」とまで呼ばれるメルケル首相の終わりが始まるのか。

世界金融危機に続く欧州債務危機で、メルケル首相は「ノー・オールタナティブ(それ以外に他の選択肢はない)」というフレーズを繰り返し、ユーロ導入国を支援した。

ドイツの主要政党がユーロとEUの防衛を最優先課題に位置づけた時点でドイツの有権者は選択肢を失ってしまったのだ。メルケル首相のこのフレーズに反発して誕生したのが反ユーロの新興政党「ドイツのための選択肢」だった。

2015年100万人を超える難民が押し寄せた際、メルケル首相は他に選択肢がないとばかりに超法規的措置として門戸を開放した。これがドイツ国民やハンガリーやポーランドなど旧東欧諸国の強烈な反発を買い、「ドイツのための選択肢」やEU域内の右傾化を加速させた。

メルケル首相とシュルツ党首は党利党略を超えて3度目の大連立を組む以外に選択肢はない。ましてやシュルツ党首は欧州議会の前議長である。自分たちが撒いた種は自分たちで刈るしかないのだ。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領の任期は22年5月まで。メルケル首相とシュルツ党首が大連立を継続させれば少なくとも21年9月までドイツとEUは時間を買うことができる。その間、独仏協調を軸にイギリスのEU離脱を円滑に進める一方で、EUというシステムの信頼回復に全力を注がなければならない。

第二次大戦の荒廃から見事に欧州を蘇らせた統合の歴史の針を巻き戻してやる必要がある。たびたび戦争の原因になってきた石炭と鉄を共同管理することで平和と繁栄の礎にしようという高邁な理念はいつしか大きく歪められてしまった。

EUは世界金融危機のあと大きく開いた富者と貧者の二極構造の中で、経済的強者をさらにリッチにさせるだけの巨大システムとみなされるようになってしまったのだ。

■搾り取るシステム

社会保障や教育を犠牲にした巨大バンクの救済。資産バブルを生み出した量的緩和。グローバル企業の悪質な租税回避を助長しているのはEU加盟国の銀行や弁護士、公認会計士なのだ。

極めつけが、世界金融危機と欧州債務危機の際、欧州委員長を務めたジョゼ・マヌエル・バローゾ氏の米ゴールドマン・サックスへの天下りである。EUとは一事が万事この調子なのだ。

EU離脱交渉でも「良いとこ取りは許さない」とイギリスをぎりぎり締め上げるが、それがどれだけイギリスとEU双方の企業や労働者、消費者を苦しめているか考えたことがあるのだろうか。

政治家もEU官僚も、庶民がどんなに苦しもうと何一つ困らない。EUというネオリベラリズムを極端にしたシステムの中でますます権力を強大化させているのだ。それはバローゾ氏の件を見るだけでも明らかだ。

メルケル首相にも、シュルツ党首にも、マクロン大統領にも選択肢はない。EUの信頼を取り戻す以外に道はない。

木村正人(国際ジャーナリスト)

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