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市川海老蔵による新しい織田信長像が話題に 『おんな城主 直虎』“忖度”が生んだ悲劇

2017/12/11(月) 18:17配信

リアルサウンド

 12月17日の最終回に向けて、さらに物語の勢いが増している『おんな城主 直虎』(NHK)。日本史上、もっとも有名な事件と言っても差し支えないであろう「本能寺の変」。天下統一直前の信長が家臣・明智光秀の謀反により命を落とすという大事件だが、光秀がなぜ謀反を起こしたのか、なぜ信長が狙われたのか、その理由は未だにはっきりとは解明されていない。だからこそ、フィクションを通して多種多様なエピソードがこれまでも描かれてきたが、12月10日放送の第49回「本能寺が変」ではまた新しい信長像が、この事件を通して描かれた。

 市川海老蔵演じる信長は、どこにも焦点が合ってないと思わせる視線と、唸るようなそのしゃべり方、南蛮衣装の似合い具合など、どこを切り取っても“魔王”らしさが滲み出ており、誰がどう見ても“恐ろしい信長”になっていた。その魔王ぶりに視聴者からも「海老蔵信長、神々しすぎ」「いろんな信長を見てきたけど、一番ハマってる」と絶賛の声があがっていたように、『おんな城主 直虎』においては“外側”の人物にも関わらず、圧倒的な存在感を放っていたのだ。

 正室・瀬名(菜々緒)、嫡男(平埜生成)を相次いで喪った家康(阿部サダヲ)。ふたりを喪う過程には様々な出来事があったが、その中心にいたのは信長だった。しかし、信長自身の口からは一度も「殺せ」の一言は発せられていない。事実だけを見れば、信長の家臣たち、徳川家の各々が、“忖度”をして、信長に罰せられぬように先回りをして行動を取っていただけ。信長が恐ろしいことに間違いはないが、思い返せば彼は合理的な選択をしてきただけであり、決してその場の気分だけで行動を決めてはいなかったのだ。

 しかし、その恐ろしすぎる存在感が、“忖度”を生み、悲劇を呼び起こす。居城・浜松にて安土への帰途の途中の信長をもてなした家康は、そのもてなしのお礼として、「重臣と一緒に来てほしい」と信長から安土に招待される。信長の家臣・明智光秀(光石研)は、このもてなしは家康と重臣たちを皆殺しにするためと言い、代わりに信長を一緒に討とうと持ちかけたのだった。

 が、家康一行が安土に訪れると、信長は、家康のために自ら御膳を運び(その際の所作も非常に美しかった)、熱心に茶器を選ぶ。家康をもてなしたいという純粋な気持ちゆえの行動に、これまでの恐怖の魔王像は一変、海老蔵信長を“イイ奴”と感じてしまったのは筆者だけではないだろう。家康もその姿を受けて明智の言葉が嘘だったと悟る。家康を“弟”と呼び、光秀ら部下のことも信頼している信長。しかし、その想いは届くことなく、光秀に討たれることになる。

 想いが伝わらないすれ違いの悲劇は、小野但馬守政次(高橋一生)の死をはじめ、本作で一貫して描かれてきたテーマだ。本能寺の炎に包まれながら舞を踊り、命を落とす…という定番のシーンではなく、家康への配膳を信長像の象徴として映し出したところに、森下脚本のすごみがあると言えるだろう。ついに次回は最終回、信長亡き世を秀吉が受け継ぎ、徳川がどう打破していったのか。最後に訪れるであろう直虎(柴咲コウ)の死を、どう描ききるのか、固唾を呑んで見守りたい。

石井達也

最終更新:2017/12/11(月) 19:36
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