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日本の野菜流通の評価基準には「味」がない?

1/20(土) 12:30配信

Forbes JAPAN

人生80年あったら、1日3食、合計8万7600回の食事がある。すべての人のすべての食事が美味しくて、身体にも良くて、地球にも良かったら、世界はなんて幸せに溢れているだろう。そこはきっと、パラダイスだ。

そんなパラダイスが作りたくて僕は、茨城県鹿嶋市の霞ヶ浦のほとりに「鹿嶋パラダイス」を立ち上げた。僕らは自然栽培で米や野菜や麦や大豆など、すべて素材をつくることから始めている。

僕らが行う自然栽培は、農薬も、化学肥料も、有機肥料も使わない。ただ、そこにある土、水、太陽で育てる。土は自然のままだ。ただし、僕らは生産性を上げるために、トラクターで耕すこともするし、品目によっては雑草の管理のためにマルチや除草シートも使用する。

自然栽培の歴史は古い。というより、農耕が始まったとされる2万3000年前からつい100年前ほど前まで人間は、自然栽培か、堆肥を使った有機栽培しかしていなかった。化学肥料が登場してくるのは19世紀末、農薬に至っては第一次世界大戦後である。

安価に肥料や農薬が製造されるようになり、同時に作物の品種も改良されてきた。しかし残念ながら、改「良」されたのはより早く、より安く、より大量につくることのできる能力であった。

「この品種に、この肥料、この農薬を使えば、手間がこれだけ軽減され、収量は従来の2倍になります」と、農薬と肥料と種をセットで販売する。これは「緑の革命」といわれた。小麦や米の収穫量が増大し、人口増加の要因にもなった。現在では、遺伝子組換え作物と除草剤、殺虫剤がセット販売されている。

美味なるものとの出会い

僕は2008年に就農するまでの8年間、農業生産法人で働いていた。そこは、テレビ番組『どっちの料理ショー』の特選素材に何度も選ばれるほど、美味しい野菜を作っている有名な農業法人。そこの野菜は、成分や糖度の数値でも、ベロメーター(味覚)でも、明らかな差異が確認できる、特別なおいしさを持っていた。

今の僕の農法と違い、必要に応じて化学肥料も堆肥も農薬も使用する慣行農法だったが、他の農家との明確な違いは「品種」だった。葉物でも、根菜でも、みんなが食べ慣れている普通の野菜でも、大量生産農業で作られる野菜とは、品種が違うのだ。

米なら、コシヒカリ、ササニシキ、あきたこまちなど多数の品種があることは知られているが、野菜にもいろんな品種があることはみんな意外に知らない。例えばキャベツの品種は、「サカタのタネ」のカタログに載っているだけで30種類くらいある。

昔は普通に作られていた野菜でも、育成が難しかったり、収量が少なかったり、農協が除外したりで、栽培する農家がなくなっている品種が多くある。この農業法人は、そんな珍しい品種の中から、とびきり美味しくて珍しい品種を探し当て、栽培していたのだ。

僕はそれまで、作物に品種があることは知っていたが、作物によってこれほどまでにおいしさの違いがあるというのは新鮮な驚きだった。品種というものに興味を持った僕は、ある大手種苗会社が主催するイベントに、農業生産法人の一員として参加した。そこでは種を作る人、通称ブリーダーが自分たちの育種した品種の売り込みに躍起になっていた。

「この品種は〇〇タイプの病気に耐性を持ち、収量も多く、形も揃い、安定して長期間収穫できます」

しかし、あることが気になった。なぜか味についての話は全くでなかったのだ。僕はお話が終わったブリーダーに「味についておっしゃっていませんでしたけど、品種つくる際の味の優先順位ってどれくらいなんですか?」と尋ねた。答えはこうだった。

「んーーー、あまり大きな声で言えないけど4、5番目かねえ」

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最終更新:1/20(土) 12:30
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