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安倍総理の賃上げ3%要請が「働き方改革」に矛盾する理由

1/24(水) 6:00配信

ダイヤモンド・オンライン

● 安倍総理が打ち出した 春闘の賃上げ率3%要請

 アベノミクス5年間の成果として、大幅な金融・財政の拡大による企業利益の増加と株価水準の高まりが挙げられる。他方で、安倍政権の公約したデフレ脱却は十分に進んでいない。これには賃金水準の低迷も大きく、毎勤ベースの平均賃金水準は2017年(11月まで)で0.4%増と横ばいにとどまっており、「企業は潤っているが労働者には還元されていない」という批判を受けている。

 このため安倍総理は、企業収益の拡大を労働者の処遇改善に結び付けるため、経済団体に対して春闘の賃上げ率3%を「社会的要請」として求めた。これは昨年の2%強の水準を大きく上回るもので、これを実現した企業には大幅な法人税減税というアメまで用意されている。

 たしかに企業収益の増加と失業率の2%台への低下にもかかわらず、平均賃金が低迷していることは奇異であるが、それを単純に企業経営者の強欲さや所得分配の歪みと見なすことは妥当ではない。これについては『人手不足なのになぜ賃金が上がらないか』(玄田有史編、慶應義塾大学出版会)等、多様な説明があるが、そのうち最大の要因は、過去10年間で、もっとも賃金水準の高い大企業の中高年男性の年功賃金の是正が同時に進行していることがある。

● 賃上げ率の低迷は 定昇部分の低下が原因

 これは高齢化にともなう若年労働者の不足と中高年労働者の相対的な過剰という、労働市場の需給バランスの変化が、企業内部の賃金決定にも反映しているためである。他方で、パートタイムの時給や、正社員でも女性の賃金は高まっており、労働者間の賃金格差の是正が着実に進みつつある。

 これを反映して春闘の賃上げ率のうち、年功賃金に当たる定期昇給部分が徐々に低下している。2017年度の春闘賃上げ率は2.11%であったが、過去4年間で定昇部分は1割減となっており、企業利益増等を反映したベースアップ部分の高まりを相殺している。この傾向は、今後、むしろ強まる可能性が大きく、2018年度の3%の賃上げ率の実現は困難ではないか。

 引き続き労働者間の賃金格差の是正を目的にした賃上げを実現するには、労働需給のひっ迫を反映したベースアップを主にしたかたちが望ましい。しかし現実には、春闘賃金の大部分を占める定期昇給部分に依存した賃上げを、政府が減税等の手段で奨励することになろう。それで3%の賃上げ率を実現したところで、それは経済社会環境と労働市場の変化に対応した年功賃金是正という、本来の目的に逆行するものとなる。

● 「同一労働同一賃金」を目指す 働き方改革との矛盾

 また、賃上げ3%という目標達成のために春闘賃上げの定昇部分を維持・拡大させることは、安倍政権の掲げる「働き方改革」とも矛盾する。

 働き方改革の大きな柱のひとつは、世界の労働市場に共通する「同一労働同一賃金」への改革である。現在の日本の労働市場では、類似の仕事でも大きな賃金格差がある。例えば企業内部の正社員と外部の非正社員、大企業と中小企業、大企業内でも男女間等の賃金格差が大きい。この主因は年齢とともに高まる賃金上昇の程度の差であり、若年層で小さく、中高年層でもっとも大きくなる。

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