ここから本文です

ドイツ新時代の象徴「ラップトップ監督」 世界的名将でも意外と高い“無名選手率”

1/31(水) 21:50配信

Football ZONE web

世界で台頭する、プロ選手としてトップレベルの経験を持たない若き指導者たち

 ユリアン・ナーゲルスマンが、ホッフェンハイムの監督に就任したのは28歳の時だった。縦横18メートルの巨大スクリーンを練習場のピッチ脇に置いてホワイトボードの代わりに使い、認知力を高めるための大がかりな装置(へリックス)を導入するなど、斬新な指導法で話題になった。同世代のドメニコ・テデスコ(シャルケ)ら、30歳台のブンデスリーガ監督たちは「ラップトップ監督」と揶揄されもしたが、ドイツの新しい流れを作りつつある。

【一覧】英誌選出、2017年「世界の監督ベスト50」

 若くして指導者を志した監督たちに共通するのは、プロ選手としてトップレベルの経験がないことだ。アリゴ・サッキ(元ACミランほか)やジョゼ・モウリーニョ(マンチェスター・ユナイテッド)がその代表格と言えるが、アンドレ・ビラス=ボアス(元チェルシーほか)やレオナルド・ジャルディム(モナコ)も選手経験がない。

 ブラジルでは名選手が監督に就任するケースもあるが、体育大学を卒業してフィジカルコーチとなり後に監督になった人が多い。1994年アメリカ・ワールドカップ(W杯)でブラジル代表が優勝した時のカルロス・アルベルト・パレイラ監督がそうで、歴代のセレソンにフィジコ系の監督は珍しくない。Jリーグで指揮を執ったオズワルド・オリヴェイラ(元鹿島アントラーズ)、ジョアン・カルロス(元鹿島ほか)もフィジコから監督になった。

 ポルトガルとブラジルにプロ選手経験のない監督が多いのは、国情とも関係しているのだろう。かつては大卒のプロサッカー選手はほとんどいなかったし、新聞を読めない、自分の名前さえ正確に書けない選手すらいた。プレーヤーとしては素晴らしくても、監督は務まらないようなタイプが多かったのだ。大学で理論を学んだ指導者が重宝されたのは、そうした事情があったわけだ。

“二頭体制”は抜擢への移行期にありがち

 ただ、そもそも選手としての能力と監督としての能力は、全く別と言っていい。たまたま両方を持っている人もいるけれども、むしろ例外かもしれない。有名選手でも監督として成功しないケースは多く、逆に有名監督における“無名選手率”は意外と高い。

 もちろん、素晴らしい選手が監督として上手くいかないと限ったわけではなく、単に選手と監督は違う仕事だというだけである。選手時代の実績は、監督としての能力にはあまり関係がない。

 イングランドやドイツでは、トップレベルの選手経験がない監督は信用されていなかった。2006年ドイツW杯のドイツ代表監督は名選手だったユルゲン・クリスマンだったが、戦術面で実質的な監督だったのはヨアヒム・レーブだった。レーブは現在のドイツ代表監督だが、いきなりレーブを監督に据えるのではなく、クリンスマンを表に立てた。似たような例はイングランドにもあり、一種のメディア対策とも言える。“二頭体制”は、無名選手の監督抜擢への移行期にありがちな手法だ。

 ドイツでは有名選手への優遇をやめて、無名選手にもトップリーグの監督への道を開放すると、「ラップトップ監督」たちが台頭した。日本はようやく、現役時代にJリーグやW杯でプレーした経験のある指導者が出てきたところだが、より優秀な監督を輩出するためには選手としての実績ではなく、監督としての能力を評価できるシステムを作らなくてはならない。

西部謙司●文 text by Kenji Nishibe

最終更新:1/31(水) 21:50
Football ZONE web

記事提供社からのご案内(外部サイト)

Football ZONE web

fangate株式会社

日本代表や欧州各国リーグなど、国内外のサッカー情報を毎日更新