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食事改革をも要した異質な戦術。J2千葉・2年目のエスナイデル監督が描く青写真

2/6(火) 11:11配信

フットボールチャンネル

 就任2年目のシーズンに臨むアルゼンチン人のフアン・エスナイデル監督(44)のもと、10年ぶりのJ1昇格を目指すジェフユナイテッド千葉が改革を加速させている。ピッチ内の改革の象徴がハイライン&ハイプレスならば、ピッチ外のそれは徹底した食事改革。2月6日発売の『フットボール批評issue19』(カンゼン)で行った指揮官へのロングインタビューと、飛躍的にパフォーマンスを向上させている両ベテラン、キャプテンのDF近藤直也(34)、最年長のMF佐藤勇人(35)の言葉から食事改革の効果を紐解いた。(取材・文:藤江直人)

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●「食事改革」実行に至った経緯

 前半と後半とで、ジェフユナイテッド千葉がまったく異なる顔をのぞかせた。昨シーズンから継続しているハイライン&ハイプレスが機能した前半は、両サイドからのカウンターだけでなく、真ん中からの崩しでも敵陣に迫った。一転して後半は足が止まり、特に最後の15分間で立て続けに失点した。

 AFCチャンピオンズリーグ(ACL)のプレーオフを先月30日に戦った関係で、早目に仕上げていた柏レイソルとスコアレスで折り返した前半。そして、4度もゴールネットを揺らされた後半。4日にホームのフクダ電子アリーナで行われた、恒例のちばぎんカップで見せたあまりにも激しい落差を、キャプテンのDF近藤直也はある意味で想定内だったと受け止めている。

「全員がキャンプで45分間しか実戦をやっていないので。初めての90分間ということで、まず(最後まで)もたないだろうな、というのがみんなのなかにあった。とりあえず前半から飛ばしていって、どこまでできるか。そういう意味で前半はそれなりに手応えがありましたし、だからこそ良い形のときにしっかり点が取れていれば、というところがありますけどね」

 ハイリスク&ハイリターンと置き換えることもできる、日本サッカー界のなかでも異彩を放つ戦い方だけではない。昨シーズンから指揮を執るアルゼンチン人のフアン・エスナイデル監督のもと、ジェフにはさまざまな改革のメスが入れられてきた。

 ピッチを離れた部分で言えば、クラブハウスや遠征先で提供される食事が全面的に変えられた。メインのおかずは魚か、もしくは牛肉あるいは鶏肉の一品のみ。それも脂身はすべてカットされたうえで素焼きされたものが出され、パスタもゆでるだけ。極めつきとして白米が玄米へと変更された。

「いま現在の状況に慣れてしまったので、何をどう変えたのかよく覚えていないくらいだ」

 指揮官は人懐こい笑顔を浮かべながら、他のJクラブではまず見られないと言っていい、微に入り細の食事改革に至った経緯を振り返る。すべては就任間もない昨年1月、沖縄でのキャンプ中に出された食事内容が始まりだった。

「驚いたというか、これは違うと思った。サッカーのように、ハイパフォーマンスが求められるアスリートが取る食事として、僕が理解しているものとは違うと気がついたからこそ変えた。消化が遅くなるようなものは避けたし、その分だけ野菜やフルーツを摂取させるようにした。

 サプリメントを取らなくても、ビタミンを摂取できるメニューもそろえた。一日に必要な栄養分を、回数を分けて食べることで消化をよくする。そういう意味で食事の回数も4回に変えた。現役時代の経験を、僕はジェフの選手たちにすべて伝えたいと思っているので」

●基盤構築の1年目。疑心暗鬼のスタートから掴んだ手応え

 クラブ側の理解を得たうえで、母国に在住する旧知の食のスペシャリストのアドバイスを受けて徹底的に変えた。当然ながら、スタート直後は混乱が起こった。キャンプや遠征で宿泊するホテルの厨房はもちろんのこと、一日の楽しみである食事の光景が激変した選手たちも困惑した。

 開幕直後の来月12日には36歳となる、チーム最年長のMF佐藤勇人が苦笑いを浮かべながら1年前を振り返る。

「なかなか経験したことがなかったので、慣れるまで時間がかかりましたし、どうなるんだろうと最初は疑いながら入った部分もありますけどね」

 エスナイデル監督が掲げるハイライン&ハイプレスは、豊富な体力が必要とされる。未知の戦い方に抱いていた疑心暗鬼な思いは、時間の経過とともに手応えへと変わっていく。開幕直後の昨シーズンのJ2戦線で、新生ジェフの存在はいい意味でカルチャーショックを与えた。

 ときにはハーフウェイライン付近に最終ラインが陣取るがゆえに、圧倒的なボールポゼッションで試合を支配する。ツボにはまったときはめっぽう強いものの、レイソルとのちばぎんカップのように、後半に入って一気に崩れて0対4で負けた横浜FC戦の惨敗もあった。

 さらにはエスナイデル監督をして「調子が乱高下して悪い結果が続き、それまでの戦い方に迷いを生じさせた」と言わしめた中盤戦における苦戦も味わわされた。それでも終盤戦は快進撃を演じ、クラブ新記録となる7連勝でフィニッシュ。6位に食い込み、J1昇格プレーオフへ駒を進めた。

 最終的にJ1へ昇格した名古屋グランパスに逆転負けを喫した準決勝で、スリルと興奮とに満ちあふれたチャレンジの軌跡はいったん幕を閉じた。それでも指揮官は、シーズンを通してハードワークを実践できた土台となった、食事改革の効果に絶対の自信を寄せている。

「選手たちが目に見えて変わった。フィジカル的な部分がまず変わった。僕が要求するトレーニングの内容や強度に対応できる体になってきたし、けがをする選手が圧倒的に少なくなった。常にいいコンディションで試合に臨めるし、疲労の回復も早くなったので」

 ならば、最も変貌を遂げた選手は誰なのか。エスナイデル監督は目を細めながら最年長の佐藤と、就任と同時にキャプテンを任せている、2016シーズンにレイソルから完全移籍で加入していた34歳の近藤の名前をあげている。

●「自宅でも監督が求めることを継続させるべきだと思った」

「2人ともベテランと呼ばれる年齢だが、シーズンを通して非常に素晴らしいパフォーマンスを演じてくれた。その要因は彼らの徹底したセルフケアと、そして食事だと思っている。体脂肪が減って筋肉の量が増えてくれば、年齢に関係なく良いコンディションを維持できるからだ」

 エスナイデル監督は体脂肪率も12%以下を厳命するなど、強さ、速さ、持久力などのフィジカル能力を高いレベルで常に発揮できるように、食事面を含めたコンディション管理を徹底してきた。たとえば近藤の体脂肪率は最初に測定された12%に近い数字から、いまでは7%にまで下がっている。

「体脂肪も減って、見た目は変わりましたよね。だいぶいいですよ。食事ですか? もう慣れちゃいましたけどね」

 笑顔で振り返る近藤は昨シーズンのJ2で38試合に出場し、フィールドプレーヤーでは最長となる3306分間にわたってプレーしている。レイソル時代の近藤とともにプレーした経験をもつ下平隆宏監督は「体もよく動いていた」と、敵味方の垣根を越えてベテランにエールを送る。

「プレーヤーとして、まだまだいけるという感じを受けました。こういう(食事)改革をすることで、もしかすると選手寿命というものも延びるんじゃないか、とも思いますよね」

 レイソル戦の後半開始とともにアンカーの位置に入った佐藤は、自宅で午後4時に取る軽食、同8時の夕食でも指揮官に伝授されたレシピを継続。脂身をそぎ落とし、白米を玄米に変えるなど、クラブハウスの延長線上に日常生活のすべてをすえたと笑顔で明かす。

「実際に体がすごくフィットしてきたので、これは続けたほうがいい、自宅でも監督が求めることを継続させるべきだと思ったので。クラブ以外のところでも個人的にやれるかどうかで大きく変わってくるはずだし、ドゥ(近藤)と自分はプライベートの部分でしっかりやれたと思っています」

●開幕前に得られた収穫。完敗から見すえる進化の予兆

 昨シーズンから継続させるチャレンジを、さらにグレードアップさせて臨もうとしている今シーズン。結果的には完敗だったレイソル戦では、ポジティブな収穫もあった。

 レイソルでもセンターバックを組み、2011シーズンのJ1制覇を支えた32歳の増嶋竜也の豊富な経験は、リーグで9番目に多かった58失点を改善させるはずだ。サンフレッチェ広島から期限付き移籍で加入した、MF茶島雄介のテクニックと豊富な運動量は、中央からの攻撃にも厚みをもたせる。

 何よりもハイラインの背後に広がる広大なエリアをカバーするうえで、指揮官の母国の名門インデペンディエンテやロサリオ・セントラルで活躍した実績をもち、足元の技術にも非常に長けた11番目のフィールドプレーヤー、守護神ロドリゲスの加入に伴う波及効果は大きい。

 レイソル戦で利き足の左足から正確なロングキックが繰り出されるたびに、フクダ電子アリーナのゴール裏を埋めたファンやサポーターからあがったどよめきは、もちろん近藤の耳にも届いていた。

「彼の強みはそこだと思うし、監督も昨シーズンはバックパスをけっこう制限していましたけど、今シーズンは積極的にキーパーを使っていいとなっているので」

 敵地で東京ヴェルディと対峙する、25日のJ2開幕戦が目前に迫ってきた。「修正点がないままいってしまうのは、逆によくないと思うので」と完敗にも前を見すえた近藤の脳裏には、10年ぶりのJ1復帰へ向けて、レイソル戦で見せた前半の戦いを順次延ばしていく青写真がはっきりと描かれている。

(取材・文:藤江直人)

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