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ひふみんが「負けた」と言ったとき、妻は…エピソード明かす〈週刊朝日〉

2/12(月) 11:30配信

AERA dot.

「神武以来の天才」と呼ばれ、お茶の間では「ひふみん」の愛称で人気の加藤一二三九段。奥様への感謝や引退時のエピソードを作家の林真理子さんが聞きました。

* *  *
林:プロ棋士でクリスチャンの方は、先生お一人ですか。

加藤:確かめていませんけども、1人か2人はいます。

林:先生が約2500回の対局に心血を注ぎ、魂を込めてやってこられたのは、信仰によるところが大きいですか。

加藤:それと、なんと言いましても妻の支えです。対局前日の食事はメニューが決まっていまして、いかなるときも妻が手抜きすることなく食事をつくってくれました。私が2505局戦ってこられたのは、明らかに妻の支えがあってのことです。

林:先生は、今日もそうですけど、その長いネクタイがトレードマークですよね。

加藤:私は平成29年6月20日に負けて引退したんですけども、その前に、報道陣に私は「6月20日の対局は、いかなる結果になっても記者会見をしません」と言っていたんです。そして6月20日、どうしても勝つ見込みがなくなった段階で将棋会館を去ることを決めまして、しかるべき手順を踏んで家に帰りました。長年苦楽をともにしてきた妻にまず「負けた」と伝えるべきだろうと思って、そのとおりにしたんです。そうしたら妻が「お疲れさま」と言ってネクタイをプレゼントしてくれました。妻もある程度覚悟していましたから。

林:素晴らしい奥さまです。

加藤:私、よく勝っていますけども、負けることも多かったんですね(1324勝1180敗)。後から聞いてわかったことですけれど、私が対局を終えて、自宅に帰って「負けた」と言うと、妻は自分のことのように「次は頑張ろう」と思ったのだそうです。妻が落ち込んでいると私もつらいですけども、「次は頑張ろう」という気持ちを妻が持ち続けてくれたことはありがたいですよね。

林:「素晴らしい」としか言いようがありません。

加藤:あるとき妻から「あなたは棋士なんだから、どんなことがあってもいい将棋を指さなければいけない」と言われたんです。才能はそこそこあるわけだから、「よし、名人になろう」と思って頑張りまして、ついに42歳で名人になったんです。われわれ将棋には棋譜というのがありまして、音楽でいうと……。

林:楽譜ですね。

加藤:名人になったときの棋譜を、その後何回か研究したんですよ。そうしましたら、95%負けている将棋で私が勝ったことに気づきました。

林:そういうことがあるんですね。

加藤;素晴らしい戦い方をして勝ったんだったら、自力で名人になったと言えるでしょうけども、95%負けている将棋、正確に言えば99.9%負けている将棋に勝ったんですから、これは神様のお恵みですよね。神様を信じ、よりすがっておりますと、神様のほうから助けを与えてくださることもあるんですね。

(構成/本誌・直木詩帆)

※週刊朝日 2018年2月16日号より抜粋

最終更新:2/12(月) 14:28
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