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世界一の美男子、 アラン・ドロンがいた時代【前編】

2/13(火) 18:11配信

GQ JAPAN

「二枚目」の代名詞だった男が、2017年、スクリーンからの引退を発表した。世界の心を撃ち、魅了し続けたフランス人俳優アラン・ドロンへのインタビューとともに、英版『GQ』がその栄光を振り返る。

【ギャラリー】「映画界でもっとも魅惑的な男」の栄光を振り返る。

感情のかけらもない

ルネ・クレマン監督がパトリシア・ハイスミスの人気小説を映画化した心理スリラー『太陽がいっぱい』(1960年)には、不穏なシーンがある。椅子に座った主人公のトム・リプリーが、手にしたワイングラスからゆっくりとワインをすすりながら、犯したばかりの殺人に酔いしれる場面だ。カメラが捉えた、透き通った青灰色の瞳はクリスタルのように美しく、そしてまた、冷淡でもある。この空虚で感情のかけらも感じられない美しい瞳の持ち主が、フランス人俳優アラン・ドロンだ。

男性版ブリジット・バルドーとも称されたドロンは、『太陽がいっぱい』の好演で世界中にファンを獲得したのと同時に、”映画界でもっとも魅惑的な男”の称号をも手にした。ドロンが持つ無関心な風情や冷淡さ、そして物憂げで、無邪気ともいえる横柄さは、フランスの犯罪社会と関わりのあった過去に身につけたものに違いないが、それが稀有な魅力だった。ドロンは「美しい顔をした暗殺者」という唯一無二の存在になった。

『太陽がいっぱい』と同じ年に、ルキノ・ヴィスコンティ監督の『若者のすべて』にも出演し、その後、巨匠ミケランジェロ・アントニオーニ監督の『太陽はひとりぼっち』(1962年)に、さらに再びヴィスコンティと組んだ『山猫』(1963年)に、そしてジャン=ピエール・メルヴィル監督の『サムライ』(1967年)、ジャック・ドレー監督の『太陽が知っている』(1969年)等々、名作への出演が続き、ドロンのキャリアは絶頂期を迎える。その端正な美貌と、底知れぬ闇を感じさせる雰囲気は、どの作品でも際立っていて、ドロンは俳優としてもプレイボーイとしても名を上げていく。オーストリア出身でのちにフランスきっての女優になるロミー・シュナイダーをはじめ、ドイツ人シンガーでモデルのニコ、パートナーともなったフランス人女優のミレーユ・ダルクなどと浮名を流し、ドロンのファンはフランスにとどまらず、ヨーロッパやアジア圏にまで拡大した。

出演作の興行成績は記録破りをつづけ、ドロンは、フランス映画界で最高額のギャラを手にするトップスターとなっていったが、しかし、彼はハリウッドには進出しようとしなかった。自身の魅力を損なうとして、英語のセリフのある役を断っていたし、アメリカの大物プロデューサー、デイヴィッド・O・セルズニックといったんは契約したものの、その契約も途中解除している。

60年にわたりスターとして君臨したドロンは、80本以上もの作品に出演した。フランス映画界の最高峰であるセザール賞を受賞し、映画界での功績を讃えてレジオンドヌール勲章も授与されている。その華やかな俳優人生は、なおも続くと思われぬでもなかったが、81歳になった2017年、彼はついに引退を決意した。誰もが経験したことのないほど輝かしい過去と、そしてごくごく平凡なものにならざるを得ない未来が、彼のまえにはあった。迷うまでもない。最後にあとひとつの舞台に出て、ジュリエット・ビノシュとともにパトリス・ルコント監督の映画『L’art du compromis』(妥協の芸術)に出演すれば、それでカットだ。エンド・マークを出す、と決意したのである。

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最終更新:2/13(火) 18:11
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