ここから本文です

J2岡山の敏腕社長がJ専務理事に。仰天人事から見える村井チェアマンの青写真

2/28(水) 11:36配信

フットボールチャンネル

 Jリーグがサプライズ人事を内定させた。2月27日の月例理事会で、空席となっていたナンバー3の専務理事ポストに、J2ファジアーノ岡山の木村正明代表取締役(49)を大抜擢した。世界最大級の投資銀行ゴールドマン・サックスで培われた知識と経験をフル稼働させて、ファジアーノを急成長させるとともに来場者満足度でもトップに引き上げた東京大学出身の敏腕経営者の手腕に期待を託し、実質的なヘッドハンティングで迎え入れた村井満チェアマンが描く青写真に迫った。(取材・文:藤江直人)

2018年シーズンJ1リーグ新加入・移籍選手一覧

●Jリーグで驚きの人事。1年以上空席だったポストに収まったのは…

 予定されていた17時半から10分ほど遅れて始まった、Jリーグの村井満チェアマンによる27日の月例理事会後の定例記者会見。東京都・文京区のJFAハウス内に集まったメディアに同時進行で配布された、報道資料の3ページ目に仰天ものの人事が記されていた。

 終わったばかりの理事会で内定が承認された、2018年度のJリーグ理事・監事および特任理事の顔ぶれ。リストの中でも「新任および役職変更」の一番上に、意外な名前があったからだ。

<専務理事 木村正明(きむら・まさあき) 株式会社ファジアーノ岡山スポーツクラブ 代表取締役>

 現在はアルビレックス新潟の代表取締役社長を務める中野幸夫氏(62)が退任した2016年末から空席となっていた機構内のナンバー3にあたるポジションで、実務面における最高責任者となる専務理事へ、Jクラブの代表取締役が転身する人事が内定した。

 ただ、専務理事職は常勤となり、クラブの代表取締役と兼任することはできない。ほぼ時を同じくして、ファジアーノ岡山スポーツクラブも公式ホームページ上で3月27日付けの役員人事を発表。2006年から代表取締役を務めてきた木村氏が、前日の同26日に退任することがファンやサポーターに報告された。

 今後は3月27日に行われるJリーグ社員総会および臨時理事会を経て、この日に内定した人事案が正式決定する。木村氏はファジアーノの筆頭株主でもあるため、近いうちに株式譲渡に関する承認申請が理事会に諮られる。

 いわばヘッドハンティングと言っていい木村氏のJリーグ専務理事就任は、村井チェアマンの強い希望に導かれて実現した。先月30日にチェアマンとしての続投が決まり、3期目へ向けた執行部のメンバーの人選に着手したなかで、真っ先に木村氏へ連絡を入れた。2月に入ってからのことだった。

「ぜひとも彼に来てほしいという思いがあったので、私が『お願いします』と言ったら、最初は『エッ』とかなり驚かれたような感じでした。それでも、すぐに『少し時間をください。明日のお昼まで』と言ったんですね。普通ならば1、2週間後とするところを、集中的に考えてくれました。

ただ、どうしても丁寧に対応しなければいけない顧客がいる、ということで数日間動かれていましたが、私自身も木村さんが首を縦に振るまでは動かない、というほどの強い気持ちでしたので。そこを感じていただき、想像するに非常に早い意思決定をしていただいたと感謝しています」

●岡山をJ2に引き上げた敏腕社長の地道な努力

 リクルートの執行役員を務めていた2008年に、Jリーグの理事に就任した村井氏。そのときから、JFLを戦っていたファジアーノ、そして運営会社の代表取締役として陣頭指揮を執る木村氏が気になる存在だったのだろう。第5代チェアマンに就任した2014年1月に、木村氏もJリーグ理事に就任している。

 川崎製鉄水島サッカー部OBが中心となって結成されたリバー・フリー・キッカーズを中核として、Jクラブが不毛だった地に、ファジアーノ岡山が産声を上げたのが2003年。将来のJリーグ参入を目指して、運営会社となるファジアーノ岡山スポーツクラブも2006年に設立された。

 そして、地元の熱烈なラブコールを受けて、まさに乞われるかたちで代表取締役に就任したのが岡山市出身で、東京大学法学部卒業後は世界最大級の投資銀行ゴールドマン・サックスで、マネージングディレクターとしてらつ腕を振るっていた木村氏だった。

 しかし、代表取締役に就任した当時のファジアーノはスポンサーがわずか6社で、年間活動予算は400万円だった。500万円の資本金に対して負債が1000万円を超えている絶望的な状況で、木村氏をして「地道な活動に尽きる」と言わしめた、ピッチの内外で小さな努力を積み重ねる日々が始まる。

 その年にうちに1200万円に増やした年間活動予算は、地域リーグからJFLへ昇格した2008シーズンには2億3000万円にまで増額。スポンサーも260社に増えた結果、収支も初めて黒字に転じ、ピッチ内でもJFLで4位に食い込んで2009シーズンからのJ2参入を決めた。
 
 当時から究極の目標として「日本一の市民クラブ」が掲げられてきた。トップチームの強化だけではなく、桃太郎スタジアムからkankoスタジアムを経て、いま現在はシティライトスタジアムと呼ばれる本拠地を訪れたファンやサポーターに、いかにしてリピーターになってもらうか。

●岡山の空気を変えたファジアーノの成功

 JR岡山駅からバスで約5分、徒歩で約15分とまずまずのアクセスにある同スタジアムは、2005年の岡山国体に合わせて整備されていて清潔感にあふれていた。ならば、訪れてよかったという付加価値をつけるしかない。

 スタジアム前広場にずらりと並んだグルメ店の数々は、いまでは「ファジフーズ」と呼ばれ、全国のスタジアムの中でも屈指の美味しさという評価を受けている。そして、サポーターを表す特別なクラブ創設「12」年目の2015シーズンと、株式会社設立から10年の節目となる2016シーズンを『Challenge1』と位置づけた。

 ホームの平均入場者数を1万人に到達させる一大プロジェクトは果たして、ザスパクサツ群馬を迎えた2016年11月20日のJ2最終節に1万5204人が駆けつけたことで見事にクリア。この試合を引き分けたファジアーノは6位に食い込み、クラブ史上初のJ1昇格プレーオフ進出を決めた。

 準決勝で松本山雅FCを撃破した快進撃の軌跡は、決勝でセレッソ大阪に惜敗して幕を閉じた。土砂降りの雨が降り続いたキンチョウスタジアム。無念の表情を浮かべていた木村氏に、どうしても聞きたいことがあった。岡山の街は変わってきているのでしょうか、と。

「それは確かに感じます。もっともっとこの輪を広げていくのが、僕らクラブの務めだと思っていますし、この幹が大きくなればいつかはセレッソを倒せるクラブになると思います」

 決戦のキックオフを数時間後に控えていた中で、木村氏は練習拠点である政田サッカー場の周囲をジョギングしている。実はそれまでもジョギングした時は、だいたいファジアーノがリーグ戦で勝利している。いわゆる験担ぎの思いも込められていたが、そのときは周囲の状況がいつもと違っていたという。

「ファジアーノへの期待が、いたるところから聞こえてきたんです。いままで地域リーグからJFL、JFLからJ2へ昇格するときには、おそらくほとんど興味を持たれなかった。それがJ1へ昇格間際のところで、あるいは昇格した後に興味をもってくださっていると思わずにはいられませんでした」

●「現場と理事会が遊離しない深い関係が築ける布陣」(村井チェアマン)

 わずか10年の間で岡山という街を変えつつあった軌跡を、村井チェアマンは「地域クラブにおけるひとつの模範」と位置づけ、木村氏の手腕へ称賛を送ってきた。

「Jリーグは毎年観戦者調査を行っていますが、来場者顧客の総合満足度のランキングで、ファジアーノは2011年から昨年までの7年間で、2015年を除いてすべて1位なんですね。J1とJ2を合わせた全40クラブの順位が出される中で、6度も1位を獲得している状況です。

お客様に対するサービスの大切さを、クラブをいわばゼロから立ち上げた木村さんが実証されていた。中野さんが専務理事を退任された後は、いわゆるクラブを経営した手腕や豊富な経験をもつ方が、Jリーグのボードのなかに常勤ではいなかったので」

 加えて、複数の女性職員に対してパワーハラスメント及びセクシャルハラスメントを繰り返していたとして、常務理事だった中西大介氏が辞任した昨年6月以降は、マーケティングや事業という領域に対して見識をもつ人材も欠いていた。

 顧客を対象とした『B to C』だけでなく、企業間取引である『B to B』のノウハウにも長けた理想の人材が木村氏だったと村井チェアマンは言葉に力を込めた。

「個人顧客に対する事業活動のみならず、いわゆる『B to B』においてもずっと私との間でディスカッションを重ねてきましたが、大変見識が深い方ということもあり、木村さんを招へいすることになりました。代表取締役と筆頭株主を降り、Jリーグのために身を投じてくださることに感謝しています」

 内定した人事案では、理事(非常勤)としてサガン鳥栖の竹原稔代表取締役社長、FC町田ゼルビアの下川浩之代表取締役、水戸ホーリーホックの沼田邦郎代表取締役社長も新任された。木村氏を含めて実行委員を4年以上務めた、地域密着を謳うクラブのトップを登用した理由を、村井チェアマンはこう説明する。

「クラブの経営経験が豊富な方々に木村さんを交えて、現場(のJクラブ)と理事会が遊離しないような、非常に深い関係が築ける布陣にしたつもりです」

 若手の育成を含めたフットボール部門は、浦和レッズとFC東京で監督を務めた経験をもつ原博実副理事長が引き続き指揮を執る。そして、実務面を司る専務理事として大抜擢された木村氏が加わることで車の両輪と化して、3期目に入る村井チェアマンのもと、Jリーグをさらに力強く前進させていく。

(取材・文:藤江直人)

フットボールチャンネル

記事提供社からのご案内(外部サイト)