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オリンピック助成金を見込んだ東京・中野区の再開発で、1万7787本の樹木伐採

3/6(火) 8:50配信

HARBOR BUSINESS Online

 東京・中野区の「平和の森公園」は、戦後の米軍接収から中野刑務所を経て、区と住民の連携による払い下げ運動の成果として手に入れた、住民ゆかりの公園だ。2万5000本余りの樹々は猛暑の日差しをさえぎり、水辺にはカワセミが訪れ、ザリガニ釣りもできる。広々とした草地広場はシニア層や子どもたちにも貴重な場所となっている。発掘調査では、弥生時代、縄文時代、古墳時代の住居址や土器が多数出土している。

⇒【画像】東中野駅前で実施されたシールアンケートの様子

 そんな平和の森公園で今、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて体育館や陸上競技場の建設、野球場の拡幅といった再開発計画が進められている。そして、そのために公園内の樹木約2万5000本のうち1万7787本が伐採されようとしているのだ。

◆区は「伐採しない」と言っていたはずが「樹木1万7787本を伐採」に変更

 平和の森公園は広さ5万4700平方メートル。公園は大きく2つに分かれ、野球場と散策路のある多目的広場と1万1600平方mの草地広場が広がる。一人当たりの公園面積が東京23区で2番目に少ない中野区の住民にとって、大切な憩いの場になっている。

 中野区による公園整備構想案が持ち上がったのは2015年4月。当初は、体育館・少年野球場・陸上トラックを建設するにあたって「樹木伐採はせず、移植も極力しない」という設計だった。ところが区の整備計画は変更に変更を重ねることになる。

 結局、少年野球場はナイター設備を備えた大人用野球場になり、小さい子どもが安心して遊べる草地広場にはコンクリート製のすべり台、その近くにバーベキューサイトが追加で設置されることになった。その結果、中高木251本を含む1万7787本の樹木を伐採し、絶滅危惧種アズマヒキガエルなどが生息する水辺を工事することになり、当初55億円だった工事予算は108億円にまで膨らんだ。

「中野区にある大人用野球場は、すでに平和の森公園からそう遠くない哲学堂公園と上高田で計4面があります。もうこれ以上つくる必要はないでしょう」

「緑とひろばの平和の森を守る会」(以下、守る会)代表世話人の杉英夫さんは怒りを隠さない。

「すでにある球場には照明も敷設されており、利用率は6割程度。アンケート結果でも皆が『必要ない』と言っています。税金を無駄遣いして環境破壊することに、まったく同意できません」

 杉さんは同公園近くの平和の森小学校の卒業生で、公園とともに戦後を歩んできたうちの一人だ。

「この辺りは高齢化が進んでいて、シニア層が公園の東屋に毎朝集まって歓談するのを楽しみにしています。この計画で東屋が壊されると、高齢者たちの行き場が奪われてしまう」

 行き場を失うのはシニア層だけではない。4歳と2歳の子どもをもつA子さんは「下の子が保育園に入れず途方にくれていた時、唯一の育児場所だった児童館も閉鎖されることが決まりました。そのうえ平和の森公園の環境までなくなってしまったら、本当に行き場がなくなってしまう」と心痛の面持ちだ。

 しかし1月15日、平和の森公園の樹木伐採は始まった。チェーンソーが木を切りつける音が響くと、見守る住民たちからは嗚咽の声が漏れた。

◆東京オリンピック助成金を見込んだ再開発

 平和の森公園の再開発には108億円もの工事予算がかけられている。その財源はどこからやってくるのか。当初は中野駅北側の元第9中学校に体育館が建設されるはずだった。それが急きょ平和の森公園に変更になった理由は、2020年開催の東京オリンピック関連の助成金が関係していると思われる。

 施設建設を公園内で行えば、国土交通省の「社会資本整備総合交付金」から最大50%、東京都の「東京オリンピック・パラリンピック競技大会等施設整備助成」から最大25%の助成金が見込めるのだ。

 オリンピック助成金の本来の目的として、オリンピック機運醸成のためや、オリンピック後も有効活用できるものであれば問題はないはずだ。しかし平和の森公園に整備されるのは、すでに供給過剰のナイター設備つき大人用野球場、中途半端な300mのトラック。パラリンピック選手も利用する体育館には、スロープがないことなどが明らかになっている。

「通常の陸上競技で使われる陸上トラックは400m。300mだなんて、区の体育大会も開けやしない」と岩村信弘さん(「守る会」世話人)は首をかしげる。

「そもそもスポーツ公園の基準は広さ15ha以上。6.5haの平和の森公園は、あくまで地域住民のための公園で、防災林としての役割を担っている。そこにむりやり建設しようとするからおかしくなる。そのために樹齢100年のヒマラヤスギを含む1万7787本の木が切られるのはまったくおかしいし、バーベキュー場は煙や臭い、ゴミや騒音など公害をまき散らす。区民の生活環境の破壊ですよ」

◆東中野駅前でも桜並木を伐採!?

 行政による住民無視の環境破壊を伴う再開発はこれだけではない。昨年12月19日、中野区の東側に位置するJR東中野駅前では、市民から親しまれてきた16本の桜並木が、一枚の通知だけで伐採されようとしていた。中野区とJRの指示で深夜から工事車両がやってきたが、伐採に反対する住民50人が朝4時30分まで工事車両の進入を防いだ。

「この桜並木沿いにあるレストランで、春になると満開の桜を眺めながら食事をいただくのが楽しみ」と話すB子さんは、いわゆる「住民運動」(東中野西口の桜並木を守る会・サポーターグループ)に参加するのは初めてのこと。

「(住民運動に参加する)きっかけはその店主から木の伐採の話を聞いたこと。ここ東中野に30年暮らしてきて、桜並木を次世代に残したいという思いからです。住民の大多数が伐採に反対で、『伐るならせめて替わりの苗木を植えてほしい』と言っているのに、区は皆の声を聞こうとしないのです」

◆駅前シールアンケートでは大多数が「伐採に反対」

 そこで「桜並木を守る会・サポーターグループ」が中心となり、JR東中野駅前で道行く人々を対象にシールアンケートを実施。駅利用者の関心は高く、200人以上から以下のような回答を得た。

●平和の森公園の樹木伐採について

知っているか……「知っている」103人、「知らない」89人

伐採への賛否……「賛成」5人、「反対」237人

●東中野駅前の桜並木伐採について

知っているか……「知っている」67人、「知らない」92人

伐採への賛否……「賛成」1人、「反対」198人。

 シールアンケートを行ったメンバーは、「多くの方にシールを貼っていただき、『頑張ってください』『応援します』という声も多数いただきました。途中でシールが足りなくなって買いに走ったほど。シールアンケートの結果は明白です。中野区は、この声を真摯に聞くべきです」と語る。

 今回の整備計画に対して、住民たちはただ反対しているわけではない。平和の森公園の樹木を移植することや、バーベキューサイトやコンクリート製すべり台の建設中止などを提案しており、何よりも中野区との話し合いを要求している。

 中野区役所・都市基盤部の公園整備担当に問い合せたところ、「平和の森公園の再整備については、『暗くて危険』『道路へ枝がはみ出していて危険』という課題解決のためもあって行っている。区民からの反対意見があることは知っているが、すでに必要な手続きを経て決定されたもの」と回答した。住民の声に耳を傾ける予定はなさそうだ。

 昨年11月、「守る会」は工事の中止を求めて住民監査請求を申し立てた。しかし今年1月に「違法・不当な措置、決定とは認められず、請求には理由がない」として却下されたため、現在は住民訴訟の準備を始めている。

◆2年半にわたるシニア層の住民運動に、若者たちも加勢

 平和の森公園の再開発が発表されたのは2015年4月。地域住民たちの動きは速く、2か月後の6月には「守る会」を発足させていた。当初、中野区は野球場の拡幅のための伐採本数は226本と説明していたが、住民らが情報公開請求をしてみると1万7787本であることが判明した。

「守る会」では1万筆を超える署名を厚め、1600人余りの住民アンケート、400人を超える集会やデモ行進、勉強会、トーク会、ニュースレターの発行、100万円を集めた募金活動のほか、議会の傍聴や都議会議員への働きかけなど、さまざまな活動を行ってきた。

 メンバーの中心は現役を退いたシニア層。そこに昨年から若いメンバーが加わってTwitterで投稿を行うと、しだいに若い層も加わるようになった。インターネットを使った電子署名(change.org)を呼びかけたところ、4645人の賛同が集まっている(3月5日現在/今も継続中)。

 さらに記者会見を開くと、市民メディアのほか大手新聞社も取材に訪れた。すでに伐採は始まっているが、「1本でも守りたい」という住民の熱意は衰えるどころか、ますます大きな広がりを見せている。

<取材・文・撮影/中山貴久子>

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