ここから本文です

ゾウの「ジャンクDNA」にがん抑制のメカニズムが存在することがわかった

3/14(水) 19:10配信

ニューズウィーク日本版

機能や役割が明らかになっていない象の「ジャンクDNA」にがん抑制の機能が存在することがわかった

哺乳動物のゲノム(全遺伝情報)のうち、タンパク質を生成する配列はわずか2%にすぎず、残りの大部分は「ジャンクDNA(ガラクタ遺伝子)」と呼ばれ、その機能や役割はいまだ明らかにされていない。

動画はこちら

■ 動物のジャンクDNAを解析

米ユタ大学のクリストファー・グレッグ准教授を中心とする研究プロジェクトは、「ジャンクDNAの中に、疾病をコントロールする役割を担うものがあるのではないか」という仮説のもと、陸生哺乳類のゾウとジュウサンセンジリス、空中哺乳類のコウモリ、海洋哺乳動物のシャチとイルカ、地下哺乳類のハダカデバネズミを対象に、それぞれのジャンクDNAを解析し、その成果を米学術雑誌「セル」で発表した。

ゾウの巨体や、コウモリの翼のように、種の特徴は、急速な進化を遂げ、種独自の特性と関連するDNA領域、すなわち「AR(加速した領域)」によってもたらされている。

この研究プロジェクトでは、ジャンクDNAの解析により、種ごとのARを特定。DNA修復と関連するゾウのゲノムをはじめ、手足を変形させて翼に発達させたコウモリのゲノム、高圧環境に適応させるシャチやイルカのゲノム、肌の色素沈着と関連したジュウサンセンジリスのゲノム、弱視と関わりのあるハダカデバネズミのゲノムが明らかとなった。

■ 3つのゾウのゲノムを特定

とりわけ、この研究プロジェクトが特定したFANCL、VRK2、BCL11Aという3つのゾウのゲノムは、DNA修復と関連するものとして注目されている。

ゾウは、ヒトと比べて、腫瘍を抑制する「p53遺伝子」の数が非常に多いことがわかっているが、これに加えて、ゾウのARに突然変異やがんを抑制するゲノムが少なくとも3つ存在することになるわけだ。

ヒトの100倍もの細胞を持ち、70年程度生存するゾウは、その巨体と寿命を維持するための細胞分裂も大量となるため、突然変異への耐性を必要とし、がん抑制の機能が強化されたと考えられている。

■ ジャンクDNAはまだ手つかずのジャングル

このほか、コウモリのゲノムは手足の異常、シャチやイルカのゲノムは血液凝固障害、ジュウサンセンジリスのゲノムは白皮症や遺伝性疾患のひとつであるレオパード症候群、ハダカデバネズミのゲノムは緑内障といったように、このプロジェクトで特定されたそれぞれの種のARは、疾病の診断や治療への新たなアプローチの発見につながる第一歩として期待が寄せられている。

「タンパク質に翻訳されない領域はジャンクDNAと呼ばれてきたが、私にとっては、まだ手つかずのジャングルのようなものだ」とグレッグ准教授が述べているとおり、医療の観点に限っても、ジャンクDNAから学ぶべきことはまだまだ潜んでいるようだ。

松岡由希子

記事提供社からのご案内(外部サイト)

ニューズウィーク日本版

CCCメディアハウス

2018-6・26号
6/19発売

460円(税込)

他の日本のメディアにはない深い追求、
グローバルな視点。
「知とライフスタイル」のナビゲート雑誌。