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慰安婦像が世界各地に増え続けるのはなぜか

3/20(火) 11:48配信

ニューズウィーク日本版

<なぜ慰安婦問題は今も解決しないのか。コロンビア大学のキャロル・グラック教授が解き明かすプロセスと背景。多国籍の学生と対話したグラック教授が問題の本質を語った。本誌3月20日発売最新号「『慰安婦』の記憶」特集より>

1月25日に行われた第3回の講義では、学生たちの慰安婦についての見方の違いが浮き彫りになった。多国籍のグループと今回のような対話形式で慰安婦について話すことは貴重な経験だったと振り返るキャロル・グラック教授に、本誌ニューヨーク支局の小暮聡子が話を聞いた。

歴史問題はなぜ解決しないか(コロンビア大学特別講義・第1回)



――慰安婦の回を終えて、参加した学生たちの反応をどう振り返るか。「記憶の作用」というグラック説に基づいて考えたとき、学生たちの答えは想定の範囲内だったか。

まず、学生たちが慰安婦についてこれほど多くを知っているということに驚いた。大学の東アジア史の授業で習ったという人が何人もいたが、20年前ではおそらくあり得なかったことだろう。ほかに、新聞や雑誌を通じて慰安婦の話に触れたという人たちもいて、共通の記憶を形成する上でメディアが重要な役割を果たしていることが明確になった。

もちろん、この講義シリーズに参加している学生たちは一般的なアメリカ人、つまり第二次世界大戦というとパールハーバーとヒロシマ以上のことはあまり知らない層に比べて日本や東アジアの歴史についてより多くのことを知っている。アメリカでは、慰安婦は90年代にアジア系アメリカ人やフェミニスト、人権活動家たちの間で知られるようになったが、それよりもっと幅広く一般的に広がったのはここ数年のことだろう。特に、サンフランシスコやアトランタ郊外などに慰安婦像が建ち、それをめぐる論争を通じて知られていった、とも言えるだろう。

――慰安婦についての見方はもちろん国籍に限らず一人一人違うだろうが、あえて国ごとに考えたとき、韓国人と日本人とアメリカ人の学生たちにそれぞれ特徴的な態度は見られただろうか。

戦争の記憶はどれも「国民的な」ものであり、自国の経験に特化して語られるものだ。時間がたつなかでは、戦時中の敵国や同盟国など他国の見方を内包していくというように変化することもあり得る。しかしそのようなときでさえ、戦争と国家のアイデンティティーは切り離せるものではなくむしろ物語の中心に据えられる傾向にあり、その物語は戦争体験者だけでなく戦後世代にも引き継がれていく。

講義に参加した中国人、韓国人、日本人、韓国系アメリカ人、アメリカ人の学生たちはそれぞれの出自に結び付いた見方を語っていた。それは、彼らがその見方を中国、韓国、日本、もしくはアメリカで習ったからかもしれないし、自分たちの親から受け継いだものかもしれない。韓国系アメリカ人の学生は慰安婦の記憶を日本の植民地時代と結び付けて語っていたが、アメリカで育ちながらも韓国の国民の記憶をなぞっていたと言えるだろう。

東アジアの諸国で和解を目指そうという場合には、国民の記憶というのは後の世代にまで受け継がれていく力があるという事実を考慮に入れる必要がある。

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