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謎ブーム どうして「天狗にさらわれた少年の話」が売れているのか?

4/29(日) 7:00配信

文春オンライン

 この2月から異様な売れ行きを見せている文庫本がある。 『仙境異聞・勝五郎再生記聞』 (岩波文庫)。江戸後期の国学者、平田篤胤(ひらた・あつたね 1776-1843)による「天狗にさらわれて帰ってきた少年へのインタビュー」の記録だ。なぜ今、天狗少年の話? 篤胤の研究者でもある日本思想史家の子安宣邦さんに聞きました。

【写真】なぜか売れている『仙境異聞』の校訂に使われた貴重な和本

学者によって記録された「異界通信」みたいなもの

――子安さんが校注(校訂と注釈)した『仙境異聞』がツイッターを中心に大きな話題になり、相継いで増刷されるほどの売れ行きをみせています。

子安 いやあ、これはたしかに異常なことですね。「人の魂はどこへ行くのか」をテーマに記紀神話などによって考え続けた国学者篤胤の主著は『霊の真柱』(たまのみはしら)で、『仙境異聞』はその篤胤の著書としても風変わりなものです。言ってみれば、学者によって記録された「異界通信」みたいなものです。その『仙境異聞』をいま突然人びとが争って求め、読み始めているんです。

――なんとも不思議な記録集です。文政3(1820)年の秋の末、突如として江戸・浅草観音堂の前に現れた15歳の少年・寅吉。彼は天狗にさらわれた経験を持ち、天狗世界の情報を身につけていた。当時の知識人たちは興奮して、「異界からの帰還者」寅吉を囲んで「仙境はどんなところだ」「何食っているのか」「将棋はあるのか」と、あれやこれやと質問攻めにするわけですが、その騒動の様子がいちいち面白い。

子安 しかし、この本が今年になって突如として売れ始めた。これは「騒動」ですよ。僕がこの事態に気がついたのは、岩波書店からやたらとこの文庫本の「増刷通知」のハガキが届くようになってからです。

次々と増刷通知が届き「これは明らかに異常事態だと」

――「重版出来!」の知らせで、何か変だぞと。

子安 ええ。3月の初めに第6刷の通知が来たんです。この文庫は2000年1月に初版が出て、以来5刷で止まっていたんです。だから「ああ、やっと増刷か」ぐらいの気持ちでそのハガキを見ていたんです。ところが間をおかずに第7刷の通知が届いた。「へぇ」と思っていると、ほとんど日をおかずまたもや増刷の通知。これは明らかに異常事態だと。

――そんなハイペースで重版がかかっていったんですか!

子安 第6刷が1200部、7刷が1500部、8刷が3000部の増刷でした。今、9刷、3000部の印刷をしているようです。今年の2月から4月にかけて、たちまち1万部近くの増刷。岩波文庫でこういうことは珍しいんじゃないか?

――岩波文庫だと吉野源三郎『君たちはどう生きるか』もマンガとの相乗効果で話題ですが、しかし『仙境異聞』みたいなものが話題になるのは珍しいと思います。

子安 岩波からは増刷通知以外の連絡は何もないもんだから、増刷の原因が分からない。それでネットで検索して、はじめて『仙境異聞』をめぐる異常な事態を知りました。ツイッターでだれかが火をつけたのでしょう。ある書店員が「自分が火付け人だ」と名乗ったりしていますが、その当否は分かりません。しかしだれが火をつけたにせよ、これが燃え広がったこと自体が、校注者である私にとっても異常に思えたし、これは一体何かと考えこまざるをえない事態でした。「これは面白い読み物には違いないが、それにしてもなぜ、」とつぶやかざるを得なかったのです。

私の校注になる篤胤の『仙境異聞・勝五郎再生記聞』(岩波文庫)の第6刷が出たのが3月15日だが、間もなく第7刷刊行の通知があり、さらに昨日第8刷刊行の通知があった。何が起こっているのだろう。これは面白い読み物には違いないが、それにしてもなぜ、 pic.twitter.com/iBvdzXY7Ro

― 子安宣邦 (@Nobukuni_Koyasu) 2018年3月31日

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最終更新:4/29(日) 15:27
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