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「ピッチャーは走り込め」論は完全に時代遅れなのでいい加減やめるべき理由

5/6(日) 8:50配信

HARBOR BUSINESS Online

 先日、エンゼルスの大谷翔平が足を捻挫した。するとまた、球界のご意見番こと張本勲氏が『サンデーモーニング』(TBS系)内で、走り込み不足が原因だと指摘した。

 まただ……。長い距離を走り込むことで実戦向きの筋肉がつき、怪我のリスクも減る……。そんな効果があると言われている走り込みだが、正直な話、完全な時代遅れ。同じくメジャーで活躍するダルビッシュ有選手も否定的な見解をツイートしている。

 無論、日本だけではなくアメリカで議論にはなるようだが、フィットネスやコーチング系の専門家によれば、否定的な意見がほとんどだ。

◆走り込みは投球パフォーマンスに影響なし

 アメリカのトレーナーでありプロ野球選手への指導数も多いエリック・クレッシー氏は、自身のサイトで「ピッチャーは長距離を走るべき?」と疑問を投げかけている。

 同記事では、長距離ランニングと走らない状態での有酸素運動が投手に与える影響を比較した修士論文を紹介しているのだが、その論文によれば、走り込みとスプリントを行っていた投手を比較した場合、シーズン中にスプリントを行っていた投手の下半身の力が大きく向上したのに対して、長い距離を走り込んでいた投手の場合は低下していたという調査(*1)もあったとしている。一方で、長距離ランニングを行っていた投手と、その場で有酸素運動を行っていた投手の間には、ほとんど違いがなかったという。つまり、“走り込みでしか鍛えられない”という考えは根拠がないということだと指摘している。

 ベースボールアカデミーも運営している「TEAMSトレーニングセンター」も、「長い距離の走り込みはパフォーマンスを高めない」とバッサリ。その理由を次のように説明している。(参照:「Should Baseball Players Run Long Distance?」)

・走り込みは関節に負担がかかるため怪我に繋がる可能性がある

・投球の際はお尻の筋肉に負荷がかかるが、走り込みではほとんどその筋肉を使わない

・投球後はほとんど乳酸が蓄積されないので、走り込みをしても意味がない

 野球に特化したトレーニングキャンプ運営などを行う「TOPVELOCITY」に至っては、「長距離にNOと言おう」と走り込みを完全否定。投球は瞬発力を使うため無酸素運動に近いとしている。ゆっくりとしたペースで長時間トレーニングした場合、筋繊維が有酸素運動向けになってしまうというのだ。その代わりにスプリントなど爆発力を活かす運動を取り入れ、各セットの間で2~3分休むことで、体が無酸素運動に適応していくと主張している。

◆スプリント系のトレーニングが効果的

 しかし、当たり前だがメジャーリーガーもまったく走らないわけではない。注目するべきは走り込みの是非ではなく、その質や内容だ。いったいどのようなトレーニングが適しているのか? ストレングス&コンディショニングコーチのフィル・トグネッティ氏は、「STACK」に、6つの効果的な野球向けコンディショニングを紹介している。

 それによれば、野球の試合ではゆっくりと長い距離ではなく、瞬発力を使って短い距離を走る機会が多いと指摘。そのうえで次のようなトレーニングが効果的だという。

―異なる距離のスプリント―

 ファールラインを起点に約18、36、54メートルの距離を走る。スプリントを終えるごとにスタート地点まで歩き、戻ったタイミングで再び走る。メニューは以下のとおり。

・18メートル×2 (75%程度の力で)

・36メートル×2 (全力で)

・54メートル×2 (全力で)

・36メートル×2 (全力で)

・18メートル×2 (全力で)

―フライングスタート―

 すでに動いている状態からスプリントを行う。ファールラインを起点に、途中までは50~75%程度の力で走る。スプリントを終えるごとにスタート地点まで歩き、戻ったタイミングで再び走る。メニューは以下のとおり。

・27メートル×2 (50%程度の力で)

・54メートル×8 (最初の27メートルは75%程度の力で走り、残り半分は全力で)

―ベースランニング―

コンディションを整えるだけでなく、同時にベースランニングの技術も鍛えることができる。メニューは以下のとおり。

・本塁から一塁までスプリント。二塁まで歩く

・二塁から試合中と同程度の距離のリードを取り、本塁までスプリント。シングルヒットで生還する想定。一塁まで歩く。

・一塁からリードを取り、三塁までスプリント。本塁まで歩く。

・二塁打を打った想定で、本塁から二塁までスプリント。三塁まで歩く。

・三塁からリードを取り、内野ゴロで生還する想定で本塁までスプリント。一塁まで歩く。

・一塁からリードを取り、本塁までスプリント。

・完全に回復するまで休み、上記のメニューを1~3セット行う。

―シャトルラン―

機敏さや、急な方向転換をする力を鍛えられる。約9から18メートルの距離で2つのコーンを置き、その間でスプリント。メニューは以下のとおりで、各セットの間に1~2分休みを入れる。

・27メートル×2 (コーンの間は9メートル)

・54メートル×2 (コーンの間は13メートル)

・54メートル×2 (コーンの間は18メートル)

・54メートル×2 (コーンの間は9メートル)

―スレッドプッシュ―

 スレッドとよばれる負荷の掛かったソリのようなトレーニング器具を押すことで脚の動きを鍛える。重いものを載せ、強さを鍛えてもいいし、軽い重量でスピードを鍛えるもよし。約27メートルの距離で、3~6セット押す。

―ラテラルスレッドドラッグ―

 ロープやストラップ、ハンドルなどをスレッドに付け、横向きになって片手で引く。約18メートルの距離で3~6セット引く。

 このように、負荷を掛けた短距離のダッシュや、インターバル的なラントレーニングが効果的だとしている。

 また、ある日本人のトレーナーは「ラントレーニングで足腰を鍛えるというのは完全にお門違い。足腰を鍛えるのなら、スクワットやデッドリフト、クリーンなどのフリーウエイトトレーニングや、あるいはタイヤフリップ(巨大なトラックのタイヤをひっくり返すトレーニング)などを行うべきです」という。

 しかし、いつまでたっても日本の球界、いやスポーツ界全体が、金科玉条の如く「走り込み」を押し付けたがるのは、ラントレーニングというものを何らかの「懲罰」や「根性育成」のようなものだとしか考えていないからではないだろうか。

 このような旧態依然とした考えの指導者が居なくならない限り、無駄な根性論やただ単に辛いシゴキが横行し、時折天才的な選手が活躍はするけれど、「辛いけど合理的で効果があるトレーニング」によって優れたアスリートが継続的に育たないという状況は続いていくのかもしれない。

<文・翻訳/林泰人>

(*1)Rhea, M., Oliverson, J., Marshall, G., Peterson, M., Kenn, J., & Ayllon, F. (2008). Noncompatibilty of Power and Endurance Training Among College Baseball Players. The Journal of Strength and Conditioning Research , 230-234.

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