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ハイウェイ脇のモーテルに見るアメリカの現実 ──『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』

5/11(金) 12:12配信

GQ JAPAN

2018年5月12日に公開する映画『フロリダ・プロジェクト』。アメリカの隠れホームレスを描いたドキュメントタッチの作品だ。なぜこの題材を取り上げたのか、ショーン・ベイカー監督に訊いた。

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■夢の国の隣で

映画『フロリダ・プロジェクト』で、ショーン・ベイカー監督が題材に選んだのは“Hidden homeless(隠れホームレス)”だ。この言葉は耳慣れないかもしれない。しかし“隠れホームレス”の実態は今やアメリカ国内で広く認知されつつある。本作の舞台はその当事者たちが暮らすフロリダ州キシミー。世界最大のアミューズメントリゾート、ディズニーワールドの目と鼻の先のモーテル群のある地域だ。

つい10年ほど前まで観光客で盛況だったこのあたりの宿泊施設が、軒並み家賃が払えなくなった低所得者層の駆け込み寺となっているらしい。家族連れの“ホームレス”もいる。彼らについてベイカー監督が知ったのは、脚本を共同執筆したクリス・バゴーシュがある光景に遭遇したのがきっかけだった。

「はじまりはクリスがディズニーワールドへ向かうハイウェイ脇で子どもたちが遊んでいるのを目にしたことだった。当然彼は思った。どうしてこんなところで遊んでいるのかとね。それで調べると、実は“hidden homeless”の子どもたちだということがわかった。この隠れホームレスという言葉もそのときはじめて聞いた。衝撃だったよ。子どもたちのために作られた夢の国のすぐ隣で、”その日暮らし“をしている家族がいるという悲しい皮肉が胸に刺さった」とショーン・ベイカー監督はいう。

■フロリダ発ドキュメンタリー・タッチ・フィルム

それから約3年間におよぶリサーチがはじまった。フロリダに何度も訪れ、モーテルに滞在し、現地での出会い、経験をストーリーに反映した。

物語はシングルマザーの母親と暮らす少女ムーニーと仲間の2人の子どもたちの目線で進む。モーテル周辺のアイスクリーム屋や土産物店も遊びと冒険の舞台だ。遊園地の延長のようなカラフルな建物と青い空。大人たちの窮状に対し、子どもたちの世界はフロリダの日差しのように明るい。毎日が悪気のないいたずら感満載で(やがてそれは深刻な問題をもたらすのだが)、パワフルなまでの天真爛漫さは見る者に子ども時代の記憶をフラッシュバックさせる。

「このストーリーを創り出すために、クリスも僕も7歳に戻らなくちゃならなかったよ(笑)。その年齢の感じ方、考え方に立ち戻ることが必要だった。物事はずっとシンプルだったし、“センス・オブ・ワンダー”というのかな。何もかもフレッシュで、世界は目を見張るようなワンダー(驚異)にあふれていた。観客の皆さんにもあの頃に返って見てほしいと願っているよ」

しかし現実のドリームランドは永遠には続かない。夏が終わりに近づくにつれ現実が影を落としはじめる。職がみつからず隣人からの援助も絶たれたムーニーの母ヘイリーはある決断を下す。それと同時に完璧と思えたムーニーの世界の歯車は少しずつ狂いはじめる……。

「今回のテーマは“住宅”だけど、僕に言わせれば家というのは人権に等しい。たとえ中央政府が正規雇用の上昇をアピールしようと、現実問題としてフロリダにシェルターは少ないし、低所得者用の住宅も十分ではないんだ」

ここに描かれる住宅問題を通じて、私たちはアメリカの実像を目の当たりにする。現実がそうであるように、スクリーンのなかの物語はドラマチックに完結してしまわない。そのため主人公たちの行く末をいつまでも考えざるを得なくなる。

■スター誕生の予感

本作はキャストの顔ぶれも魅力のひとつだ。フロリダでオーディションを行い、子どもたちのひとりに選ばれたのは実際にモーテルに住む当事者だったという。サブヒロインであるヘイリー役のブリア・ヴィネイトはインスタグラムで発見された。“ストリート・キャスティング”と呼ぶベイカー監督お得意の手法だ。「新しい人たちが作品をきっかけにスターになっていくのを見られるのは素敵だよね」と語る。

そのなかにあって今回3度目の助演男優賞にノミネートされた名優ウィレム・デフォーの果たした役割は大きい。撮影現場で新人たちと各々のキャラクターを探求し、深めていくプロセスには感嘆すべきものがあったという。デフォー演じるモーテルの管理人ボビーこそ、モーテルの住人たちの庇護者であると同時に、観客にとっても救いとなる存在なのだ。

■アメリカを撮りつづける

最後に次回作の舞台はどこになりそう? と尋ねると「どんな国、街も僕にとっては魅力的でポテンシャルを感じる。けれど次の作品も99パーセント、アメリカが舞台になるだろうね」との答えが返ってきた。記者からの「なぜ?」との問いに「アメリカにはこれと似た問題がまだまだある。すべての人が人間らしく暮らせるようになるまでの道のりは遠いと言わざるを得ないからだよ」

監督のモチベーションは現代アメリカの歪みを描き出すことにあるようだ。本作は観客に夢を観せる類のハリウッド映画とは真逆の体験をもたらしてくれるだろう。久しぶりに劇場に足を運んでみることをすすめたい作品である。

※2015年、ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートはフロリダ州オーランド地区のホームレス問題に対して、HOMELESS IMPACT FUNDに50万ドルの寄付を行った。

『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』
2018年5月12日(土)新宿バルト9ほか全国公開
監督・脚本・編集:ショーン・ベイカー
出演:ブルックリン・キンバリー・プリンス、ウィレム・デフォー
配給:クロックワークス
(C)2017 Florida Project 2016, LLC.

文・松本あかね

最終更新:5/11(金) 12:12
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