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「考えるサッカー」はもう古い!? 選手の“人工知能化”を求めるサッカー戦術

5/15(火) 19:23配信

footballista

林 舞輝(ボアビスタU-22アシスタントコーチ)インタビュー

「システム」と「ポジション」というサッキ・パラダイムから「シチュエーション」と「タスク」というペップ・パラダイムへ。サッカーそのものの枠組みが大きく変わる中で、それを構成する選手の個人戦術はどう進化していくのか――?指導者養成の名門、ポルト大で最先端理論を学ぶ林舞輝氏にこの疑問をぶつけてみた。
「タスク化する戦術」「ディープラーニング型の育成」「スキーマセオリー」……。未来のサッカーを読み解く鍵は、サッカー界の外側にあるのかもしれない。

インタビュー・文 浅野賀一


「日本人は個人戦術がない」は本当?


── 今回のテーマは「戦術のパラダイムシフトを通して、選手の個人戦術はどう変わっていくのか?」です。議論の前提として、個人戦術をどう定義するか、から始めたいのですが、林さんはどう考えますか?

「イングランドでもポルトガルでも個人戦術という言葉はあまり使わないですが、あえて自分が定義するならば、『チームのゲームモデルに沿った個人の戦術的判断』とします。例えばCLラウンド16第1レグ、セビージャ対マンチェスター・ユナイテッドで、ユナイテッドはモウリーニョらしくガチガチに引いて守ったのですが、ユナイテッドの選手がもしシャルケやRBライプツィヒのようなボールを狩りに行く守備をしたら、モウリーニョにすごく怒られると思うんですね。『俺は1対1に自信があるから前から行く』というような個人の大義名分で判断したらダメ。まず大枠となるチームのゲームモデルがあって、その枠組みの中で個人の最適な答えを選んでいくのが個人戦術ではないでしょうか」


── よく日本人選手は個人戦術が課題と言われますよね。

「ただ、個人戦術ってチームのゲームモデルだけでなく、国や文化によっても違う気がします。個人常識と言った方がいいかもしれませんが。例えば、日本ではDFに飛び込むな、とよく言うじゃないですか。でも、イングランドはピッチのどこであれ1対1ならば絶対にボールを奪いに行きます。そうしないと『臆病』と言われます。私がイングランドでプレーしていた時の話ですが、自分よりもはるかに大きな相手に何も考えないで飛び込んでも勝てるわけがないと思って、取りに行かず遅らせるだけの守備をすると、めちゃくちゃ批判されました(笑)。それには表裏があって、例えばアザールがあれだけ3人、4人と抜いて行けるのはプレミアリーグだからですよ。1人目が全力で飛び込んで行って抜かれて、2人目も全身全霊で奪いに飛び込んで行って抜かれて、3人目も行って抜かれて、これはさすがにまずいと思った4人目がファウルで止める、みたいな……(笑)。日本的な考えだと、1人目が飛び込まないで2人目がカバーに入って、それで対峙すればOKです。どちらかと言えばポルトガルもそっち側の考えですね。日本人はリスクを取らないというか、相手DFが低い位置でボールを持っているとして、10回ボールを奪いに行って9回抜かれるぐらいなら行かない。イングランド人は10回行ってそこで1回でも取れたら1点なので行く、という考え方な気がします。クライフには『イングランドサッカーはエキサイティングだ。たくさん危険を冒し、たくさんミスをするからね』と皮肉を言われていましたが、そうした危うさもプレミアリーグの魅力ですし、それはそれで攻守が頻繁に入れ替わってダイナミックなので見ている人も楽しいと思います」


── ポルティモネンセで大ブレイクしている中島選手が活躍できるのも……。

「個人的には、ポルトガルは日本人が活躍しやすいのではと思います。日本とポルトガルはそうした無意識に根付いている個人戦術というか、個人常識のようなものが似ているからです。逆に私が最初に行ったイングランドは、日本とまったく違い過ぎてカルチャーショックを受けましたし、コーチするのも大変でした。次から次へとボールホルダーに全力で飛び込んで奪いに行く子供たちを見て、こりゃどうすりゃいいんだ、と(笑)。ポルトガル人は協力的ですし、民族的にもサッカー的にもコレクティブです。良い意味でも悪い意味でも相手をよくリスペクトする印象があります。やれと言われたことを責任を持ってやり切る日本人のキャラクターも戦術好きのポルトガル人監督には好まれる気がします。個人戦術のギャップが少ないので、日本人選手は比較的やりやすいはずです」


── 個人戦術は「高い/低い」の尺度だけでなく、個性に属する部分も含まれているんでしょうね。

「日本には日本の、イングランドにもポルトガルにも、バルセロナにもユナイテッドにも、その国やそのチーム固有のサッカースタイル、言うなれば『無意識の文化的ゲームモデル』のようなものがあります。それを支える個性に良い悪いはありませんし、その個性によって個人戦術も変わってくるとも思います。料理にたとえてみましょう。ゲームモデルや戦術を料理のレシピだとすると、選手は食材。高級食材だけあってもおいしい料理になるとは限りませんし、お肉がなくても他の食材の組み合わせとレシピ次第で意外とおいしいカレーが作れたりもします。食材をどう生かすかがシェフである監督の腕の見せどころであり、そのためのレシピがゲームモデルや戦術だったりするわけです。他の食材とのバランスを見極めながら、同じ玉ねぎという個でも、チームのためにある時は炒めたり、ある時は煮たり、ある時は蒸したり。これが個人戦術になるのではないでしょうか。なので、個性の話をすると、じゃがいもの方がニンジンより優れているとか、そんなのはナンセンスですよね。もちろん、ずっとお肉がないカレーを作り続けるのはまずいので、足りない食材・個性があるなら牛を畜産するなりして長期的な視点で育てていかなければなりません。これが育成ですね。でも、監督の役目は今ある食材の個性をレシピという戦術で最大限に引き出し、おいしい料理を作ることです」


── 日本は「個」の能力が足りないという定番の話題がありますが、個人戦術は個の能力に入りますか?

「入ると思います。ゲームモデルに支えられたチームを構成する要素として選手がいて、選手個々の能力として足が速いなどのフィジカル能力、ボールコントロールがうまいなどの技術的能力と同じように、よく戦術理解度と言われる言葉に近いのかもしれませんが、『チームのゲームモデルに沿った個人の戦術的判断ができる=個人戦術能力がある』と言えます。なので、個人戦術能力も大事な『個の能力』の一つに分類されると思います」

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最終更新:5/15(火) 19:23
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