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「STAP細胞はあります」から4年、地獄をさまよった小保方氏の今

5/16(水) 11:00配信

現代ビジネス

他人事とは思えない

 STAP(Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency、刺激惹起性多能性獲得細胞)なるものが発見されたと2014年1月に理化学研究所が発表し、たいへんな騒動になった。

 その渦中にいたのが小保方晴子氏だ。この騒動については、毎日新聞科学環境部記者の須田桃子氏が2015年1月に文藝春秋から上梓した『捏造の科学者―STAP細胞事件』(第46回大宅壮一ノンフィクション賞受賞)で真相が詳しく解明されている。

 ちなみに評者は当時、大宅賞選考委員をつとめており、この作品を強く推した経緯がある。その後、小保方氏は、2016年1月に講談社から『あの日』を発表したが、感情的に須田氏に反発するだけで『捏造の科学者』が具体的かつ実証的に提起した問題には何一つ答えていなかった。

 それだから、『小保方晴子日記』については、たいした期待をせずに読み始めたのだが、内容が実に面白い。科学者としてではなく、人間の心理の描写に関して、小保方氏には類い稀な才能がある。

 評者も鈴木宗男事件に連座して、メディアスクラムの対象になったことがある。あの辛さには経験者にしかわからないところがある。小保方氏の逃亡中の姿が実は他人事とは思えない。

 小保方氏は、ペットのカメ「ぽんちゃん(本名ぽんすけ)」を連れて逃げる。2015年1月12日(月)の日記にはこう記されている。

 〈少し眠れたような気がする。朝ご飯も少し食べた。今日はまた移動日。雪が積もりすぎていて、車で走るというより目的地まで滑った。もはや車でなくソリ。ここは寒すぎる。寒すぎてつらい。

 目的地付近でぽんすけを預けた。ぽんすけの水槽はいつのまにか私の体の一部になっていた。手と腕に感じていたぽんすけの重みがなくなった途端に体のバランスが取りにくくて、立っていられなくなった。

 すごく寂しい。泣いた。

 それでも、ぽんすけの安全が確保できたことに安心する気持ちが、日ごとに濃度を増す心の不安をほんの少し中和してくれたような気がする〉。

 ペットは餌をやり、世話をする主人を裏切らない。今まで信頼していた人が次々と掌返しをする中で、爬虫類のカメであっても人間よりはずっと信頼できるパートナーであるという心情が評者にはよくわかる。

 さらに組織の冷酷さについては、同年3月20日(金)の記述が興味深い。

 〈理研が私に論文の投稿料60万円を返還請求することを発表したと連絡を受けた。

 内臓が突き上げられるかのようにこみ上げる悔しさ。血を逆流させるほどの「信じられない」という思い。抗えない感情の渦は、似た感覚を持った時の記憶を連鎖的に呼び覚まし、苦しみの濁流に変わる。

 「研究の状況を常識的に考えたら、理研が小保方さんにお金の返還を求めることは絶対にありえない」と私に説明をした理研の事務方の幹部がいた。騒動中、大将と名乗っていたのに、いつのまにか本陣を去ってしまった人。思い出すことを避けていた人の顔が頭に浮かび、目の奥で赤い光が弾けた。頭の中も、目に映るものも、すべてが赤い。

 沸騰した濁流で体が破裂しそう。それでも、心の痛みを感じる体の芯は氷を詰め込まれたように冷えきっている〉。

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最終更新:5/16(水) 11:00
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