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虐待か冤罪かを見極める、臨床法医学の「恐い」現状

5/17(木) 6:00配信

ダイヤモンド・オンライン

 法医学といえば、遺体の解剖を行って死因を決定する学問だと思う人も多い。しかし実際には、法律に関しての医学的諸問題を広く扱うもので、医学的に公正に判断を行うための学問であり、対象には生きている人間も含まれる。臨床法医学の現状について取材してみた。(医療ジャーナリスト 木原洋美)

● 「死人に口無し」だが 話せないのは死人だけではない

 千葉大学附属法医学教育研究センターの医師、本村あゆみさんが診察するのは、ご遺体だ。警察や海上保安庁等から依頼を受け、異状死体(確実に診断された内因性疾患で死亡したことが明らかである死体以外の、全ての死体)を解剖し、死因を究明する。

 「もちろん、死因を明らかにしても、そのご本人に対して、してあげられることは何もありません。でも、原因を究明することで、次に似たような状況の人が救命救急に搬送されたとき、より適切な治療が行えて、命を救うことができるかもしれません。私は、亡くなられた方の死因を究明した結果を、生きている人や社会に還元していく医学だと思っています」

 本村さんには忘れられないご遺体がある。

 「数年前になりますが、無理心中で、お母さんにマンションの高層階から突き落とされて亡くなったお子さんのご遺体を解剖したことがありました(医学的な死因とは別に)。『なぜ、この子たちは殺されなければならなかったのだろう。こうなる前に、できることがあるはずだ』と思いました。このような経験から、当教室では小児科の臨床医などと協力して、心中や虐待死が起きる前に察知して、保護するような活動をしています」

 昔から「死人に口無し」というが、世間には死者以外にも、自分の身に起きたことを訴えられない人がいる。幼子や認知症を患った高齢者などだ。法医なら、そういう人たちの言葉にできないピンチを察知し、手を差し伸べることができる。

● 臨床医はケガを治す 法医学は原因を判断する

 2014年、同センターが立ち上げた「臨床法医学」部門は、“生きている人間”も扱う法医学だ。

 大学内に臨床法医学を専門にした研究・教育部門ができたのは全国初。海外、特に欧州などでは、このような臨床法医学は、確立された一つの分野として認識されているが、日本においては、実務的にも学問的にも、まとまった体系をなしていないのが現状だ。センター長の岩瀬博太郎教授は説明する。

 「例えば虐待を受けた可能性があるお子さんについて、実際に虐待を受けたのかどうかをケガの状態から判断し、保護に結びつけたり、診察記録をもとにセカンドオピニオンを提供したりします。千葉大病院の小児科医とも連携し、ネグレクト(育児放棄)による虫歯や栄養不足の見逃し防止などにも対応するほか、実際に診察することもあります。

 今のところ、児童相談所の依頼による虐待対応がメインにはなっていますが、それプラス、千葉地検や警察から持ち込まれる傷害事件の鑑定にもあたっています。傷害事件の被害者でも、うそをつく人もいます。殴られてもいないのに殴られたという人もいるので、客観的な証拠保全をしておく必要があるのです」

 生きている人間のケガや健康状態を診るのなら、法医でなくともよいと思われがちだが。

 「臨床医はケガを治すのが仕事ですが、解剖を通じて死者から学ぶ法医は、人体に傷ができた原因を探ることに慣れている。そこは大きな違いです」

● 冤罪のリスクが高い 揺さぶられっ子症候群

 こんなニュースに、覚えはないだろうか。

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