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中島翔哉は最も「ポリバレント」な選手だった。日本代表選外、西野監督の基準への違和感

5/20(日) 11:14配信

フットボールチャンネル

 ロシアワールドカップに向けた27人の日本代表候補メンバーが発表された。驚きだったのは、今季ポルトガルで大ブレイクを遂げたFW中島翔哉の名前がなかったことである。「ポリバレントではない」というのが西野朗監督からの評価。仮に指揮官の言葉が嘘偽りない真実だったとしたら、その見方は適正だったのだろうか。(取材・文:舩木渉)

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●化学用語からサッカー用語になった「ポリバレント」

「ポリバレント」とは特殊な言葉だ。

 もともとは英語の《polyvalent》で、これは「多価」という意味の化学用語である。「多価」とは「イオン・酸・塩基・アルコールなどの価数が二以上であること」(『大辞林』三省堂刊より)と定義されている。

 それがサッカーの世界で注目されるようになったのは、2006年から2007年まで日本代表を率いたイビチャ・オシム元監督が「複数のポジションをこなすことのできる選手」という意味で使い始めてからだろうか。

 いまでは「ポリバレントな選手」などと言えば、何となく意味が通じてしまう。そして今、この化学用語から派生した不思議な言葉が再び日本サッカー界におけるホットワードとなっている。

 日本代表の西野朗監督は、ロシアワールドカップ前の国内で最後に行われる強化試合に向けた招集メンバーを発表した18日の記者会見の中で「ポリバレント」という言葉を2度使ったと記憶している。おそらくこの「ポリバレント」は「ユーティリティ(役に立つ、使い勝手がいい)」と同義で用いられたと想像している。

 そして、「ポリバレント」はロシアワールドカップを戦う日本代表のキーワードとなった。

「(状況やバランスに応じた)対応力が間違いなく求められると思うので、固執したシステムやポジションだけではない。『ポリバレント』な能力を持った選手たちがこのリストの中にもいると思っています。そういう戦い方、戦術的な柔軟性を選手たちに持ってほしい。選手たちにも、たくさんのオプションを考えて選手にも伝えていきたい」

 西野監督はそう述べて、「ポリバレント」が選手選考の一つの基準であったことを示唆した。そして、「ポリバレントではなかった」として日本代表から漏れたのが、ヴァイッド・ハリルホジッチ体制最後の活動となった3月の欧州遠征でA代表デビューを飾り、ゴールも挙げていたFW中島翔哉だった。

 2年前のリオデジャネイロ五輪で日本代表の10番を背負った23歳のアタッカーは、今季のポルトガル1部リーグで10得点12アシストという好成績を残した。リーグ内で二桁得点と二桁アシストを同時に記録したのは、中島だけ。当然ポルトガル国内で注目を集める存在となり、ポルトやスポルティングCPといったビッグクラブからも関心を寄せられる存在になった。

●ポンテも猛反論。日本代表選外は適正な評価だったのか

 しかし、西野監督からの評価は「彼はポリバレントでは、1年間なかった」。ハリルホジッチ監督が得点力のあるジョーカー的な存在として活躍を期待して抜てきしたにもかかわらず、実際に結果を残している点に関して新指揮官はそれほど高く評価しているわけではないようだった。

 ガーナ戦に向けた日本代表メンバーが発表される2日前、中島はメディアの取材に応じて「今年1年ポルトガルでプレーして、すごく楽しかったですし、成長もできたと思います。すごくいいチームで1年間プレーできてとてもよかった」と振り返ると同時に、「選ばれたら本当に日本のためにプレーしたい」と日本代表への思いも語っていた。サッカーの話をする23歳の“少年”の目は、キラキラと輝いていた。

 中島が始めてワールドカップを意識したのは、小学2年生だった2002年の日韓ワールドカップだった。横浜で行われたアイルランド対サウジアラビアをスタジアムで観戦した中島は、試合内容こそあまり覚えていないというが、「日韓ワールドカップのときはすごく盛り上がっていましたし、そういう中で選手としてプレーするというのは一つの夢だった」と話す。

 だからこそ、初めてその大舞台に立つチャンスでもあったロシアワールドカップは中島にとって「自分にとってもそうだし、周りの人たちにとってもすごく大事な大会」だったのである。

 もちろん中島の落選はポルトガルでも驚きをもって伝えられた。『Maisfutebol』は「中島翔哉の不在は大きなニュースだ」と伝え、『zerozero』も「才能にもはや疑いの余地はなく、すでにビッグクラブから注目を集める選手」として、予想外の落選を報じた。

 中島をポルトガルに熱心に誘って移籍を後押ししたポルティモネンセのポンテTD(テクニカルディレクター)も自身のフェイスブックを更新して「中島が(日本代表から)外れたのは全くもって理解できない。西野監督は大きなミスを犯した。私は35年間サッカーの世界にいるが…あのコメントは信じられない」と憤りをあらわにした。

 かつて浦和レッズでもプレーしたポンテ氏が指摘した「あのコメント」とは「中島はポリバレントではない」という部分。それに対して「彼は今季、4つの違うポジションでプレーしていた。リーグのアシストランキングでも4位で、10ゴール12アシスト。リーグのベストイレブンだ」と反論する。

 さらに「クラブにはパリ・サンジェルマン、ポルト、ベンフィカ、スポルティングCP、シャフタール・ドネツク、ドルトムントという6つのビッグクラブから公式オファーが来ている。さらに10以上のクラブが彼に関心を示している」と明かし、「ミスター・ニシノは中島のパフォーマンスと価値を本当に理解しているのか? 不正を働いたのではないか?」と西野監督の決断に疑問を呈した。

●実は「ポリバレント」だったポルトガルでの中島翔哉

 では、本当に中島は「ポリバレント」ではなかったのか。ポンテ氏が「4つの違うポジションでプレーしていた」というように、複数の役割を柔軟にこなしていたのではないだろうか。

 それを示すデータもある。中島は今季のポルトガル1部リーグで29試合に出場し、その全てで先発メンバーに名を連ねた。基本的には[4-1-4-1]あるいは[4-3-3]の左ウィングでの先発出場だったが、2トップの一角で起用されたこともあった。

 リーグ最終節のパソス・フェレイラ戦。トップで先発出場した背番号23の小柄なアタッカーは、少し下がり目の位置から絶妙なスルーパスを通して先制点を演出すると、ポルティモネンセが挙げた全得点に絡む活躍を披露した。中島のシュートのこぼれ球が2点目につながり、中央に走り込んで右サイドの味方からのパスを受け、ワンタッチで左に流したプレーが3点目を生んだ。最終的にポルティモネンセは3-1で勝利を収めた。

 今季の中島は29試合中21試合がフル出場だったが、そのような試合の多くでは他のポジションの選手交代にともなって、左ウィングから2トップの一角やトップ下、右ウィングに移った。試合ごとに違う戦術の中でも、監督の信頼を得てピッチに立ち続け、ポンテ氏の言うような「4つのポジション」以上に多くの役割を果たしていたとも言える。

 言わずもがな、中島は「ポリバレント」だったのだ。西野監督は「私が(代表選手の)リストを作る段階で(ピッチ状の)ボードの上に(スタート)ポジションを載せたことは一度もありません」と述べていたが、この言葉が真実なら、もともとハリルホジッチ前監督が起用を想定していた左ウィング以外に中島がうまくハマる場所があるかどうかすら検討されなかったのかもしれない。

 そもそも「ポリバレント」という言葉の意味が再検証されなければいけない時期にきていることにも触れておきたい。オシム元監督は「ポリバレント」を「複数のポジションをこなす」という解釈で用いたが、これは10年以上前のことだ。

 それからサッカーは急激な進歩を遂げ、いまや「フォーメーション」や「ポジション」というのは単に形式的なものであって、ピッチ状の事象において意味を持たなくなってきている。便宜的に選手の大まかな立ち位置という意味での「フォーメーション」や「ポジション」は存在するが、それよりも選手個々の能力に応じて与えられている「タスク」の方が重要な意味を持つ。

 中島も左ウィングという「ポジション」がメインだったのは間違いないが、与えられる「タスク」は試合によって異なる。多岐にわたる「タスク」を柔軟にこなしてゴールやアシストという結果を残していることも、ある意味で「ポリバレント」と言えるのではないだろうか。

●サッカーを言語化する必要性。「日本化した日本のサッカー」とは?

 これまで何となく使われていた「ポリバレント」や「ユーティリティ」という言葉の意味は、「システム」や「フォーメーション」「ポジション」と「タスク」が別物であるという前提に立ちつつ、その意味を再検証しなければならない。

 現代サッカーの進歩は、細かく言語化されることで可視化されつつある。その中で「ポリバレント」という用語は「システム」や「フォーメーション」「ポジション」と「タスク」がそれぞれ別の意味を持つ前の時代に使われていたもの。今では使い方によって非常に危うい言葉になってしまった。

 ハリルホジッチ前監督には代表選手の明確な選考基準があった。例えば「公式戦で継続的にプレーしているか・していないか」「コンディションは万全か・そうでないか」「ゴールを決めているか・決めていないか」といったハッキリとした線引きがなされていた。リーグの格やレベルに左右されず、純粋なパフォーマンスの質が重視された。だからこそ納得感のあるメンバー選考になっていたことが多かったように思う。

 一方、西野監督による日本代表選手の選考には明確な基準が見えてこない。「ポリバレント」という言葉で何となく片付けられてしまっている印象すらある。「何でも器用にできる」というのは裏を返せば「突出した武器がない」「全てが一流ではない」などと捉えることもできる。それらは紙一重の差だ。

 ハリルホジッチ前監督は、中島にここぞの爆発力とゴールに絡める力を期待して抜てきした。しかし、西野監督の日本代表は「没個性」の集団になってはいないだろうか。「出る杭は打たれる」ということわざもあるが、もし「徹底的に個性を消して組織力にフォーカスすること」が「日本化した日本のサッカー」だとするならば、中島のような突出した武器を持つ将来性豊かなタレントをワールドカップという4年に一度の大舞台から排除したことが、日本サッカー界の未来に深刻な打撃を与えるかもしれない。

(取材・文:舩木渉)

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