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日大アメフト事件。ラグビー大西先生の教えに思う「指導者の資質」

5/23(水) 18:31配信

webスポルティーバ

 つらい会見だった。22日、東京・日本記者クラブで開かれた日本大学アメリカンフットボール部の宮川泰介選手の記者会見である。無数のフラッシュがたかれるなか、黒いスーツ姿の20歳は深々と頭を下げた。

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 会見場には約300人のメディアが押し掛けていた。これほどまでに社会問題となった悪質プレーだが、いち学生が顔と名前を出して登壇せざるを得ないとは。日大の対応のまずさは言うに及ばず、大学においてスポーツ指導に携わる人のあり方が問われることにもなった。

「ご自身にとって、監督、コーチに信頼はありましたか?」と問われると、宮川選手は数秒の沈黙の後、言葉を絞り出した。

「井上(奨・つとむ)コーチに関しては、自分が高校(日大豊山)2年生の時からの監督をやっていただいていたので、その頃から信頼はしていたのかもしれないです。内田(正人)監督については、そもそも、お話をする機会が本当にないので、信頼関係……というものは、わからないです」

 宮川選手は6日の関西学院大との定期戦で、関学大の選手に悪質なタックルをし、負傷退場させた。自身も反則行為で退場させられた。直後、テントの中で声を上げて泣いていた姿を見た井上コーチから、「”優しすぎるところがダメなんだ。相手に悪いと思ったんやろ”と責められました」と明かした。常軌を逸したコーチの言動である。

 問題の試合から、2週間あまりが過ぎている。日大、およびアメフト部は会見を開いていない。会見で配布された「本日の記者会見の趣旨と、開くに至った経緯」によると、「大学の対応が遅いこと、部としての事情の聞き取りの予定がないことから、記者会見を決意」したと記されている。

 宮川選手はなぜ違反タックルをしたのか、その状況を真摯に説明した。「やる気がない」として、定期戦の3日前に練習から外されたこと。コーチから、試合出場と引き換えに「相手を潰せ」と言われたこと。定期戦の当日、試合のメンバー表に名前はなく、監督に「相手のQBを潰しにいくんで使ってください」と伝えたこと……。

 監督、コーチから突然、プレッシャーをかけられ始め、宮川選手は精神的に追いつめられて悩んでいた。問題の核心。なぜ、悪質プレーの指示を拒否しなかったのか。「あの時、あなたに違反行為をしないという選択肢は?」と質問されると、「なかった」と答えた。

――それを拒否したらどうなっていたと考えますか?

「どうなっていたかは、はっきりわからないですが、今後、ずっと練習には出られなくはなりたくなかった気持ちです」

 試合や練習に出られなくなる。そういう状況に追い込まれた20歳の学生の心中は察して余りある。

――監督はどういう存在だったのか。

「(学生の)『日本代表にはいくな』と言われても、『なぜですか』と意見を言えるような関係ではなかったと思います」

 それだけコワい存在だったということですか、と聞かれると、「はい」と小声で答えた。

 ここにコミュニケーションも信頼関係も、ない。強いカリスマ性とスパルタ指導で黄金時代を築いた故・篠竹幹夫監督の流れを汲む62歳の内田監督。絶対的な存在で、学生に対してのリスペクトが欠如していたのだろう。

 小生が大学時代にラグビーの指導を受けた故・大西鉄之祐先生は、日本代表も率いられた大監督でありながら、学生をリスペクトされていた。愛情を感じていた。

 戦争体験を持つ大西先生は自身の指導哲学を著した『闘争の倫理―スポーツの本源を問う』において、こう書かれている。

<何かアンフェアな行動をする前に、「ちょっと待てよ」とブレーキをかけることのできるような人間にする、そういう教育が重要ではないかと考えるのである>

<私がスポーツにおける闘争を教育上一番重要視するのは、例えばラグビーで今この敵の頭を蹴っていったならば勝てるというような場合、ちょっと待て、それはきたないことだ、と二律背反の心の葛藤を自分でコントロールできること、これがスポーツの最高の教育的価値ではないかと考えるからである>

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