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井上尚弥が断言「WBSS、真の世界一決定戦に出ますよ」

5/25(金) 16:00配信

現代ビジネス

 WBA世界バンタム級王座を6度防衛中の王者、ジェイミー・マクドネルに日本ボクシング界の星・井上尚弥が挑む。バンタム級に階級を上げての初の試合だが、彼の心中に不安はないのか。東京新聞運動部記者で、「ボクシング・マガジン」で井上にインタビューを行った森合正範氏が、本人の言葉とともに、井上尚弥のこれからを探る――。

それまでとは違う尚弥がいた

 そこにいたのは、これまでと違う井上尚弥だった。表情は明るく柔らかい。自然と頬が緩む。3階級制覇が懸かる大一番の9日前となる公開練習。本来なら疲労のピークと減量が重なり、ピリピリして周りを寄せ付けない時期だ。

 しかし、疲れや緊張感は微塵も感じられなかった。練習後には10分以上、囲み取材に応じ「(試合前の)ホテル暮らしはヒマですよ」と報道陣の笑いを誘う。対戦するWBA王者は6度防衛中で10年以上負けがないジェイミー・マクドネル(英国)。井上には「自分が闘ってきた中で一番強い」という強豪と闘える喜びがある。

 体全体からワクワク感があふれ、こぼれ落ちてしまっている。「自分はマクドネルを高く評価しているし、楽な相手じゃないと思っている」。そう嬉しそうに語る姿を見たとき、専門誌「ボクシング・マガジン」から依頼された2カ月前のインタビューを思い出した。

複雑な気持ち

 井上の世界戦は他のタイトルマッチとは何か違う、不思議な感覚を覚える。ボクシングに「絶対」はない。だが、井上に関していえば、試合前から限りなく「絶対」に近い。類いまれなスピード、軽量級離れしたパワーは群を抜いている。その結果、世界戦独特の、あの緊張の糸がピンと張り詰めたような空気を感じられない。一方的な展開で終わり、世界戦でさえ「噛ませ犬」との試合のような錯覚に陥る。

 あらためて、プロ15戦(全勝13KO)の映像を見直してみた。井上はKO勝利を挙げても、ニコリともしない時がある。対戦相手に歯ごたえがなく、達成感を感じていないのだろう。体全体で歓喜を表現したのはWBC世界ライトフライ級王座を獲得したアドリアン・エルナンデス(メキシコ)戦とWBO世界スーパーフライ級に挑んだオマール・ナルバエス(アルゼンチン)戦の2試合だけだった。

 晴れ舞台である世界戦。最高の勝ち方であるKO。それでも心の底から喜べない。それはボクサーにとって、ある種、不幸なことではないか。強すぎるがゆえの苦悩を聞いてみたかった。

 ――これまで試合後に喜んだのはライトフライ、スーパーフライの王座をとった2試合だけじゃないですか。

「確かに心の底から喜べたのはその2試合だけですね。あとはケガから復帰した初防衛戦の(ワルリト・)パレナス(フィリピン)とやったときは安心感があったかな。(試合中に拳を痛めた)ダビド・カルモナ(メキシコ)の試合は思い切り打てないにしろ、12ラウンド動き切れた。あの試合が一番パンチをもらったし、やっていて楽しかったですね。それ以外の世界戦は相手のレベルもあるし、『勝てた』という満足感は正直ないですね」 ――世界戦でも高揚感はなかったのですか? 
 「お客さんと一緒ですよ。会場に見に来てくれるボクシングファンと気持ちは同じだと思います。勝って喜ぶことはできますよ、それは。テレビに向けてとか、喜んだ方がやっぱり絵になるし。でもそれをすると、こんなに喜んでいていいのか、という気持ちになるだろうし」

 ――勝敗に対するドキドキ感より、「井上が勝つだろうな」というファンの気持ちも分かっているんですね。

 「試合が決まったときとか、ファン目線で見たりするので。ボクシングにそれほど詳しくない人なら『ああ井上強いな』と思うかもしれないけど、詳しい人なら『勝って当たり前』と思っている。それではあまり面白くないでしょう」

 ――ボクサーとして、世界戦の度にそう思われるのはつらくないですか。

 「だから統一戦を求めたり、強い相手とヒリヒリするような試合をしたいと言い続けているんじゃないですか」

 挑戦者は命懸けで向かっていく。王者はなんとかして食い止めようとする。世界戦とは紙一重の闘いのはずだ。しかし、井上に限っていえば、そうではない。しかも1試合だけでなく毎試合のように「勝って当たり前」と思われる。もし、判定までもつれ込むようなことがあれば、「期待外れ」と思われる可能性もある。そんなボクサーは世界中を見渡しても、ごく一握りしかいないだろう。

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最終更新:5/26(土) 1:05
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