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西野ジャパン、3バック導入への「3ヶ条」。攻撃のための守備を作りあげよ

5/27(日) 15:31配信

フットボールチャンネル

 日本代表の西野朗監督は、ついに戦術練習を開始した。ロシアワールドカップ開幕まで3週間ほどとなった今、新たに取り組むのは3バックの導入である。グループリーグで対戦する強豪国に打ち勝つため、新布陣を急ピッチで完成させなければならない。(取材・文:藤江直人)

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●西野監督が求める3バック像とは

 10人のフィールドプレーヤーが、4分の1ほどに狭められたピッチに散らばっていく。千葉県内でスタートさせた国内合宿の6日目にして、初めて行われた戦術的なトレーニング。最終ラインに目を移せば、槙野智章(浦和レッズ)と吉田麻也(サウサンプトン)が左右に大きく開いていく。

 そして、第2次岡田ジャパン時代の2008年5月から、実に10年間にわたってボランチを務めてきた長谷部誠(フランクフルト)が、槙野と吉田の間にポジションを取った。初陣となる30日のガーナ代表との壮行試合(日産スタジアム)を前に、西野ジャパンが26日に初めて3バックをテストした。

 4月7日に電撃解任されたヴァイッド・ハリルホジッチ前監督が指揮した38試合において、3バックで戦ったことは一度もない。時計の針をさらに巻き戻して3バックを探していくと、後半の途中から十数分間だけトライした、ザックジャパン時代の2013年11月のベラルーシ代表戦までさかのぼる。

 しかし、右ひざの故障で離脱したMF青山敏弘(サンフレッチェ広島)を除いた、今合宿に招集した26人の選手全員が初めて顔をそろえた前日25日に、西野朗監督は3バックに関して「それも考えています」と明言。一夜明けた練習で、主力組と見られる選手たちを3バックでプレーさせ続けた。

 現役時代はクロアチア代表のボランチとして活躍したニコ・コヴァチ監督のもと、長谷部は2016/17シーズンから3バックの中央で新境地を開拓。地元紙から「高いサッカーIQとクオリティーで、ハイレベルのパフォーマンスをコンスタントに発揮している」と称賛されたこともあった。

 その長谷部を含めて、ボランチでプレーできる選手が今月18日のメンバー発表時で実に8人を数えた。長谷部を1列下げた新たなシステムを視野に入れているのでは、と思われたなかでついに指揮官が動いた。慣れ親しんだ4バックから、3バックにスイッチする意図はどこにあるのか。

 この日の練習のほとんどで主力組の左ストッパーを務めた槙野は、「浦和の3枚はちょっと置いておいてほしいです」と、サンフレッチェおよびレッズで長く経験してきた3バックとは一線を画すと強調した。

「代表で求められる3枚の仕事は、攻撃のところよりも守備のところだと思っています。僕がボールをもって前線へ駆けあがることはないと思いますし、守備のところで言えば、マッチアップする相手選手に対してガッチリといけるようなシステムだと思っています」

●西野流3バックで意識すべき「3ヶ条」

 槙野が経験してきた3バックは、攻撃時にはボランチの一枚が下がって[3-4-2-1]から[4-1-5]へとシフト。ミハイロ・ペトロヴィッチ監督(現北海道コンサドーレ札幌監督)と森保一監督(現日本代表コーチ、U-21日本代表監督)が採用した、いわゆる「可変システム」のもとで左サイドバックの役割を与えられた槙野は、右ストッパーの選手とともに積極果敢にオーバーラップして攻撃に厚みを加えた。

 しかし、槙野と右に入る吉田が守備に比重を置くからと言って、西野ジャパンが導入しようとしている3バック=守備的になるとは限らない。練習前のミーティングで西野監督から告げられたコンセプトを、槙野はこう説明する。

「昨年から続いている結果や試合内容を見ての西野さんの考え、だと思います。これから戦っていくうえで点を取りにいきたい、ポゼッションをしたいという意味で、できるだけ中盤と前線の選手のところで攻撃に厚みを加えたい、という意図がこの3枚にあると思っているので」

 勝利をもぎ取るためには、言うまでもなくゴールが必要になる。そのためには分母となる決定機を、可能な限り多く作り出すしかない。ならば、攻撃に厚みをもたせる青写真を具現化させるためには何が求められるのか。槙野の説明からは、西野ジャパンが目指す3バックにおける「3ヶ条」が伝わってくる。

 1つ目は「5バックには極力しない」ことだ。3バックで戦うチームが相手ボール時になると、左右のアウトサイドの選手も最終ラインに下がり、5バック状態で守るシーンがJリーグの試合でもよく見られる。西野監督はミーティングの席で、3バックを堅持してほしいと要望した。

「中盤のワイドの選手ができるだけ最終ラインに吸収されないようなやり方をしたい、できるだけ高い位置でプレスをかけていきたい、というのが西野監督の狙いだと思いますので、今日で言えば吉田選手と僕がやっていたポジションはかなりの運動量が求められ、頭も使ってプレーしなければいけない。

 僕たちが90分間を通してどれだけ相手にプレスをかけられるか、そしてワイドの選手たちをいかに前へ押し出せるかが、日本の生命線になると思いますので、自分のマークだけではなく、周囲の選手への気配りと全体のオーガナイズはしっかりしていかなければいけないと思っています」

●3バックにおける長谷部誠の重要性

 5バックになれば、必然的に中盤や前線における味方の人数が減る。防戦一方の戦況を招きかねず、ワールドカップのレベルになれば、たとえ人数をかけて守っていても、守備網が決壊してゴールネットを揺らされるのは時間の問題となる。

 だからこそ3バックが横方向へのスライドを絶えず繰り返し、存在感を示し続けることによって、左右のアウトサイドの選手が下がらない状況を作り出す。背後には頼れるストッパーがいると、中盤や前線の味方たちへ伝える意味でも、真ん中で長谷部が統率することで生まれる変化に槙野は声を弾ませた。

「初めて(一緒に3バックで)やりましたけど、所属クラブでも経験のある選手ですし、ラインの設定と指示のクオリティーの高さというものはプレーしていてすごく頼もしかったというのはあります。練習のなかでいろいろなバリエーションを増やし、さまざまな状況でのコンビネーションも高めていきたい」

 2つ目は「デュエルで勝利すること」だ。ハリルホジッチ前監督がキーワードとして掲げていた、和訳すれば「1対1の決闘」となる「デュエル」を全面的に否定する必要はない。むしろ局面では率先して挑んだうえで、勝利しなければならないと槙野は覚悟を決めている。

「僕たちストッパーのところのマッチアップが、かなりポイントになると思っています。そこで相手の選手を潰すこと、自由にさせないことができれば日本の攻撃も活性化させられる。空中戦と地上戦における『デュエル』でしっかりと勝ち切り、ボールを奪う場面を増やしていければと思っています」

 ハリルジャパンの発足時から常に名を連ねてきた槙野は、前指揮官に何度も突きつけられたダメ出しを愛のムチと受け止め、歯をくいしばりながら食らいついてきた。ハリルホジッチ前監督も、槙野の体に搭載されながらも、すべてが解き放たれていなかったフィジカルの強さを高く評価していた。

 両者の思いが合致した結果が、30歳を超えてから遂げた槙野の覚醒と言ってもいい急成長であり、昨年10月から射止めたレギュラーの座となる。ハリルホジッチ前監督の解任を受けて、ロシアの地で『デュエル』を制し続けることが最大の恩返しになる、と力を込めたことがある。

「いままで育ててくださった方や、もちろん浦和でのプレーや指導者の方のおかげもありますけど、プレーの考え方も大きく変われたのは、ハリルさんの厳しい言葉があってこそだと思うので。感謝していますし、だからこそ一緒にワールドカップに、という思いはすごく強かったので」

●攻撃を意識した守備。W杯で勝つために

 最後の3つ目はすべてが「ボールを保持する時間を長くする」に通じている、という考え方を共有することだ。ハリルホジッチ前監督が描いたコンセプトとは対極の位置にあるが、だからといって4年前のブラジルワールドカップで喫した惨敗とともに粉砕された、いわゆる「自分たちのサッカー」を復刻させるわけでもない。

 ロシアワールドカップへ向けた強化策の一環だった昨年11月のヨーロッパ遠征で、日本はブラジル代表に1‐3、ベルギー代表には0‐1と優勝候補国に連敗した。その際に覚えた違和感が、マリ代表と引き分け、ウクライナ代表には1‐2のスコア以上の実力差を見せつけられた今年3月のベルギー遠征で増幅したと槙野は神妙な表情で振り返る。

「自分たちがボールを保持する時間が、間違いなく短かったですね。相手に押し込まれる時間帯が続いたなかで、味方のボランチがスライドする距離も長くなってしまった。いざ自分たちのボールになったときに、やっぱり疲労という点でボールを保持する時間がなかったので、まずはボランチの選手たちができるだけ、最終ラインに吸収されないようにすること。

あとはトライアングルとよく言われますけど、ボールを持っている味方に対して常に2人以上がサポートできるように、ボランチの選手が近い距離にいることが一番大事かなと思っています」

 グループリーグを突破するうえで極めて重要なウェイトを占める、6月19日の初戦で対峙するコロンビア代表の前線には、左ひざの大けがから復活を果たしたラダメル・ファルカオ(モナコ)、そして前回大会の得点王ハメス・ロドリゲス(バイエルン・ミュンヘン)が脅威を放つ。

 ワールドクラスの2人に2人のセンターバックで対峙すれば、異次元のストレスを感じるはずだ。長谷部を余らせる3バックで臨む形は理にかなっており、強力アタッカーのフアン・クアドラード(ユベントス)が右サイドから仕掛けてくる状況を踏まえれば、3バックでも対応が難しくなるかもしれないのである。

●4バックと3バックの併用を完成させられるか

 数的不利の状況を数的同数に、さらには数的優位にもっていくことが守備の鉄則と考えれば、人数をかけてブロックを形成する必要性も生じてくるかもしれない。そうした場面に直面しても、長谷部の経験値と統率力の高さが武器なると槙野は全幅の信頼を寄せる。

「ブロックを敷く位置にもよると思いますけど、自分たちのゴール前で人数をかけて守るよりかは、これに関しては長谷部選手がラインを設定すると思いますけど、1つ、2つ高い位置にブロックを作ることで大きく変わってくると思っています。

まだ(3バックを実戦で)やったことがないので、練習のなかでいろいろなことを感じながらいろいろな失敗をして、その結果としてたくさんの課題が見つかることは、いま現在のチームにとってはポジティブな要素になると僕は思っています」

 西野監督も来たるロシアワールドカップで3バックだけにこだわる、と選手たちには伝えていないという。4バックに関してはすでに習熟している、という考え方のもとで、対戦相手の形や出方によってもうひとつの戦い方が確立されていれば、選手たちの気持ちにも余裕が生まれる。

 実際、3月の国際親善試合ではグループリーグで対戦するセネガル、ポーランド両代表も3バックをテストしている。ほんのわずかでもいいから、対戦相手を上回るために。残された時間をフルに活用し、23人の正式メンバーに生き残るためのプレッシャーとも戦いながら、槙野をはじめとする26人の代表選手たちは3バックを熟成させるための「3ヶ条」も突き詰めていく。

(取材・文:藤江直人)

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