ここから本文です

鈴木愛理がアイドルの新たな未来を照らす “異例”のソロデビュー作『Do me a favor』を考察

6/11(月) 15:02配信

リアルサウンド

 昨年6月12日、さいたまスーパーアリーナでのラストコンサートをもって惜しまれつつも解散したハロー!プロジェクトのアイドルグループ、℃-ute。そのメンバーだった鈴木愛理が一年の期間を経て、ソロシンガーとして再デビューを果たした。6月6日に発売された彼女のデビューソロアルバム『Do me a favor』は、ハロプロを卒業したメンバーとしては極めて異例の好待遇でのリリースとなっている。

 ハロプロの全グループが所属する事務所・アップフロントグループでは、ソロシンガーとしての再デビューとなると、過去にほとんど前例がない。安倍なつみ、後藤真希らモーニング娘。の全盛期を牽引したエース級のメンバーがソロ楽曲をヒットさせた過去もあるものの、それはグループ卒業後もソロとしてハロプロに在籍した期間中のことだった。また、今は女優をメインに活躍する真野恵里菜はソロアイドルとしてハロプロからデビューしているが、彼女もハロプロ卒業後の音楽活動はファン向けの小規模なイベントのみに留まり、楽曲のリリースやツアー等は一切行っていない。

 近年のハロプロ卒業生で、楽曲リリース、ツアー開催など、積極的に音楽活動を行っているメンバーとしては、田中れいな(元モーニング娘。)や夏焼雅(元Berryz工房)らが挙げられる。ただ、彼女達もソロではなく、ガールズバンド・LoVendoЯ、ガールズグループ・PINK CRES.として新しいグループを組んで活動。ハロプロ卒業後のキャリアにソロシンガーとしての再デビューを選んだ鈴木愛理は、その事実だけでも十分に異例の存在であり、それだけアップフロントグループの期待を背負っていると言える。

 実際、ハロプロ卒業後にソロシンガーへ転向という、ほぼ前例のない選択を成功に導けるのは鈴木愛理しかいないというのが、多くのハロプロファンの総意だろう。彼女がもともと在籍していた℃-uteは、2005年の結成から12年の活動期間で培った高次元のスキルで、アイドル界最高のパフォーマンス集団とも言われていた。その中でも、鈴木愛理はデビュー時から一貫して、中心的存在としてグループを牽引。彼女はパフォーマンス集団=ハロプロ内においても突出したスキルを誇る絶対的エースだった。ブレのない伸びやかな歌声、すらりとした体躯を活かしたしなやかなダンスと、滑舌の悪さやコミカルな挙動など、ステージの外で見せるギャップとアイドル性を持つ。そんな彼女の名前を憧れの存在として挙げるアイドルや女性ファンも多く、2015年から女性ファッション誌『Ray』の専属モデルも務めている。

 今年3月から『鈴木愛理 1st LIVE ~Do me a favor』と題した公演を行い、5月には音楽フェス『ビバラポップ!』に出演。ライブ先行でソロ活動をスタートさせる中で、ついに届けられたのが1stソロアルバム『Do me a favor』である。

 5月27日放送の『HOT WAVE』(テレビ埼玉)での本作に関するインタビューで、鈴木愛理は「アイドルが憧れるアイドル」という自身のアイドルとしてのキャリアを出発点にする「アイドルを全肯定しての再出発がテーマ」だと語っている。その言葉が象徴するように、アルバムは℃-uteの系譜に位置するエレクトロニックなダンスナンバーと、℃-uteと並行して夏焼雅、嗣永桃子(共にBerryz工房)と活動していたロックユニット・Buono!の流れを汲むバンドサウンドの楽曲で構成されている。まさしく、アイドルとしての経歴の中で培った音楽性の発展形と言える内容だ。

 オープニングを飾る「DISTANCE」は、今井了介が作詞作曲・プロデュースに参加した、アップテンポかつクールな楽曲。ボーカルやダンスのパフォーマンスには安室奈美恵や三浦大知といった先達からの影響がうかがえる。グループでの活動を経てソロでのポジションを確立したアーティストという点で、鈴木愛理は彼らに一つの理想形を見ているのだろう。<いつかは誰かが私の背中を追うようになるかも それでもペースは落とさずにRun to you, Baby>という歌詞には、憧れの存在の後を追い、自身も後進に道を示そうとする彼女の決意が刻まれている。

 バンドサイドの1曲目である「未完成ガール」と8曲目「君の好きなひと」、10曲目「いいんじゃない」で作曲とサウンドプロデュースを務めているのは井上慎二郎。彼はBuono!の「Kiss!Kiss!Kiss!」「ロッタラ ロッタラ」といった人気曲を作曲した音楽家で、Buono!路線のバンドサイドでは彼の端正なポップロックが一つの軸と言えるだろう。「未完成ガール」は作詞面でもBuono!の楽曲でお馴染みの岩里祐穂が参加。

 アルバムはダンスサイドとバンドサイドが交互に展開される構成になっているが、その音楽性はバラエティ豊かだ。ジャズボーカルテイストのメロウな立ち上がりからエレクトロスウィングへと展開する「Good Night」、トランス的なシンセサウンドとブレイクビーツで構成されるミドルテンポのEDMポップ「Be Your Love」、Jazzin’ Parkの手によるJ-POPバラード「Moment」、音数の極端に少ないクールなR&B「perfect timing」など、特にダンスサイドに並ぶ楽曲はエレクトロニックなサウンドが基調にしながらも、多彩なサウンドが揃っている。

 統一感よりも多彩さが優先されているのはおそらく意図的なものだろう。ソロキャリアのスタートとなる本作で、彼女のシンガー/アーティスト像を無理に一つの型にはめる必要はない。実際、彼女自身もこのアルバムを「カメレオンのよう」とも言っている。

 多彩な音楽性とも関連するもう一つの特徴は、鈴木愛理と公私で親交の深いアーティストの参加だろう。「光の方へ」でコラボしているバンド、赤い公園はハロプロ好き、℃-ute好きとしても有名で、特にメインソングライターである津野米咲(Gt)はこれまでにモーニング娘。、こぶしファクトリー、つばきファクトリーにも楽曲を提供している。また、「STORY」のコラボ相手であるSCANDALは2016年10月に開催された『日テレ HALLOWEEN LIVE 2016』で鈴木愛理と共演し、今ではプライベートでも仲が良いという。それぞれの提供楽曲もバンドの個性が存分に発揮されたロックチューンとなっている。その他、慶応義塾大学の先輩でもあるシンガーソングライターの山崎あおいが「君の好きなひと」で作詞作曲を担当している。

 公私で繋がりを持ってきたミュージシャンが“今の鈴木愛理”をイメージして当て書きを行うことで、ソロキャリアの第一歩を踏み出した鈴木愛理の多彩な表情が立体的に浮かび上がってくる。本作は鈴木自身が初めて作詞に挑戦した「#DMAF」を経て、こちらも安室奈美恵を彷彿させる曲調の「start again」で締めくくられる。これまでの活動を支えてくれたファンへの思いを真っすぐに歌い、次なるスタートを力強く宣言するフィナーレは、まさしく“アイドルを全肯定しての再出発”というテーマに相応しい。

 アルバムの内容が力作になっているのはもちろんのこと、ライブ面やリリース形態においても鈴木愛理のソロデビューは異例の体制が取られている。まず、7月9日には、ソロとして早くも日本武道館公演を開催予定。チケットはアルバムデビュー前に発売されたが、全席即完売となった。また、この『Do me a favor』は、CDやデータ販売と並行してサブスクリプション型のストリーミングサービス・Apple Musicでも配信が開始されている。アップフロント系列でストリーミング配信が解禁されたのは史上初めて。鈴木愛理の作品は、アップフロントグループにとってもストリーミングサービスへの参加の可否を決める試金石と見られているのだろう。これが成功を収めれば、近いうちにハロプロやアップフロント所属アーティストの楽曲もストリーミング解禁ということになっていくはずだ。

 様々な点で異例尽くめとなっている鈴木愛理のソロデビューだが、最も重要なのは、彼女の成功が後進のアイドルに新たな可能性を示すことができるか否かという点だろう。ハロプロでは、来年春にアンジュルムを卒業することを発表している和田彩花が卒業後も歌やダンスで表現を続ける“アイドル”でいたいと未来の展望を語っている。復帰の目途は未定ではあるが、鈴木愛理と並ぶ2010年代ハロプロの絶対的エースだった元モーニング娘。の鞘師里保もソロデビューを待望される存在だ。さらに視野を広げて言えば、グループ卒業後のキャリアをどうするかは、ハロプロに限らず全アイドルが直面する悩ましい問題だろう。鈴木愛理のソロデビューは、全てのアイドルに新しい未来を指し示す、希望の光なのである。

青山晃大

最終更新:6/11(月) 15:02
リアルサウンド