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酒井宏樹はネイマールにも負けなかった。マルセイユで築いた地位、日本代表最高ランクの実力者【西部の目】

6/14(木) 10:32配信

フットボールチャンネル

 天性のスピードと恵まれた体躯でサイドを制圧する酒井宏樹。豊かな才能を持ち、努力も怠らない彼は、サイドバックとしての能力を引き上げてくれる優秀なパートナーと出会ってきた。ロシアワールドカップが目前に迫る中、状態は少しずつ上向いている。海外組屈指の実力者に成長した28歳は、満を持して世界の大舞台に立つ。(文:西部謙司)

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●日本代表最高位の実力

 オーナーが代わる? 代わるだろ、代わるらしい、という時期に酒井宏樹はマルセイユへやって来た。オーナーはまだ代わっていない。しかし体制が変わるのは確実な状況での開幕だったから、補強にお金はかけられない。監督が代わって起用されなくなったとしても最小限の被害ですむようにしたい。そんな状況でハノーファーから獲得した酒井への期待感はさして高くはなかった。

 だが、米国人オーナーが来て、リュディ・ガルシアに監督が代わってからも酒井はレギュラーとして出場し続けた。新体制でスタートしたマルセイユは大物ディミトリ・パイェを獲得し、モルガン・サンソン、ルイス・グスタボといった実力派も加わる。スケールアップしていくチームの中で、酒井は依然として右SBとしての地位を確保していた。

 2年目は負傷者続出のせいで、左SBとしてもプレーした。右利きの酒井の左SB起用はさすがに本人も不自由そうだったが、ガルシア監督もそれは承知で使っていたのだろうから、逆にいえば酒井への信頼がそれだけ厚かったということだ。シーズン終盤に負傷してしまいEL決勝には出場できなかったものの、ロシアワールドカップには何とか間に合いそうである。

 日本代表には多くの海外組がいるが、酒井はその中でも現在最高ランクの選手である。ポジションがら華やかさはないかもしれないが、リーグ・アンの強豪でポジションを確保していること、ELファイナルへ進む過程での貢献、ネイマールやムバッペらと渡り合って負けていなかった実力からいって、長谷部誠と並ぶ最もステータスの高い選手といえる。

●恵まれた才能と最高のパートナーとの出会い

 SBに必要な才能はスピードだ。速さは筋繊維の割合で決まるのでほぼ遺伝である。こればかりは後で足すのは難しく、その意味でSBは天性の才能の持ち主のためのポジションといえる。

 速い選手は小柄であることが多い。背の低さはSBとして不利ではない。ただ、逆サイドからのクロスボールを競り合うときだけは弱点になる。ストライカーはそこを狙ってSBとのマッチアップをわざと作ることもある。酒井は185cmの長身で体重も75kgとCB並みだ。実際、CBとしてもプレーしたことがあり、空中戦は強い。速くて上下動するスタミナがあり、そのうえ大きくてパワーもあるのだからフィジカル的にはパーフェクトだ。右足から繰り出すクロスボールは独特で、インサイドキックで押し出すように蹴る。正確で速く、横回転がかかっているのでストンと落ちる。迎撃しにくい球筋である。

 ただ、才能でプロにはなれても、そこから先は努力と運も必要になる。酒井にとって幸運だったのは柏レイソルでレアンドロ・ドミンゲスとコンビを組んだことだろう。Jリーグ史上でも最高クラスのライトインナーだったレアンドロ・ドミンゲスと近くで連係することで、いつ、どのようにプレーすべきかを学んだ。

 マルセイユではフロリアン・トバンと組んでいる。トバンは左利きでレアンドロ・ドミンゲスとタイプは違うが、こちらも名コンビになった。トバンはフランス代表に選ばれるまでに成長している。レアンドロ・ドミンゲスのおかげで代表入りした酒井は、マルセイユでトバンのフランス代表入りに一役買ったわけだ。

●物騒な街に似つかわしくない酒井の佇まい

 フランスのメディアが“リーグ・アンのイケメン”的な特集を組んだとき、酒井はイケメンの中に選出されていた。1998年ワールドカップのときは川口能活がアップで映るたびにテレビのコメンテーターが「美男子!」を連発していたフランスは、けっこう守備範囲が広いのだ。

 マルセイユとはどんな街か。タクシーのドライバーに聞いたら、「マフィアの街」と即答だった。映画「フレンチ・コネクション」の舞台にもなっている。ジーン・ハックマンとロイ・シャイダーが麻薬捜査官に扮した傑作は実在の事件を元にしているという。

 マルセイユは「サッカーの首都」を自認していて、ファンは熱狂的というか、よく暴走することで知られている。メディアが集中しているパリはメディアのプレッシャーが強いが、マルセイユは不甲斐ないプレーをした選手の車が破壊されるなど実力行使による直接的なプレッシャーが凄いといわれている。

 そんなちょっと物騒な街に酒井宏樹は全く似合わない。しかし、逆に物静かで品が良く、真面目にしっかり働く日本人に、一種のあこがれを抱く人々も多い。エゴを通すのではなく、自然体で存在感を示す。そうした佇まいに東洋の神秘を感じるのかもしれない。

(文:西部謙司)

フットボールチャンネル編集部

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