ここから本文です

巨大カタパルトで人工衛星を打ち上げる!? 謎の米国企業「スピンローンチ」

6/24(日) 8:50配信

HARBOR BUSINESS Online

 盛大な炎と轟音を巻き上げながら飛ぶロケット。古今東西、宇宙にものや人を打ち上げる際には、かならずロケットが使われてきた。むしろロケットは、宇宙にものを打ち上げる唯一無二の手段でもある。

⇒【画像】ロケットが地上から飛び立つ際には最も強力なパワーが必要

 宇宙にものを打ち上げるには莫大なエネルギーが必要で、それゆえにロケットはきわめて高価になり、小さな衛星を打ち上げるのにも億単位の金額がかかる。

 しかし、もしロケット以外の手段で宇宙にものを打ち上げることができれば、そのコストを大きく下げられるかもしれない。米国でそんな事業に挑む企業「スピンローンチ」が誕生した。

◆謎に包まれた「スピンローンチ」

 スピンローンチ(SpinLaunch)を立ち上げたのは、Jonathan Yaney氏という人物。彼自身はそれほど有名ではないが、彼の兄弟のMaximus Yaney氏は、成層圏に無人の飛行船を飛ばし、過疎地にインターネットをつなげることを目指した「タイタン・エアロスペース」を立ち上げた人物として知られ、Jonathan氏もこの企業に参画していた。

 タイタンは2014年にGoogleに買収されたが、その直後、スピンローンチが立ち上げられ、Maximus氏は同社のファウンダーのひとりにして、最初の投資家にもなっている。

 もっとも、最近まで同社の存在は謎につつまれており、いまなお、大部分は明らかになっていない。

 その一端が明らかになったのは今年2月、資金調達に成功したことをきっかけに、米国のテクノロジー系メディア「TechCrunch」の独占取材に応えたときだった。

 スピンローンチが目指すのは、宇宙へものを打ち上げるコストを、大幅に引き下げることにある。すでに、イーロン・マスク氏やジェフ・ベゾス氏なども同じ目的で宇宙企業を立ち上げているが、彼らがロケットそのもののコストダウンに挑んでいるのに対し、スピンローンチはそもそも、ロケットではない手段を使おうとしている。

◆巨大カタパルトで宇宙にものを打ち出す

 宇宙にものを打ち上げるには、莫大なエネルギーが必要になる。そのためロケットには、強力なパワーを出せるロケットエンジンを装備したり、機体をできる限り軽く、丈夫に造ったりしなくてはならず、それゆえにロケットはきわめて高価な乗り物となっている。

 現在、大きな衛星を打ち上げるのに数十億円、小さな衛星でも数億円の金額が必要。マスク氏の宇宙企業「スペースX」などはロケットの機体を再使用するなどして、さらなるコストダウンに挑んでいるが、それでも億の単位を切る見込みは立っていない。

 そこでスピンローンチは、巨大なカタパルト(投射機)を使う方法を考えているという。詳細は不明なものの、円形に配置したレールを使って小型のロケットを加速させる。そして猛スピードで打ち出され、大気圏を貫くように飛んで宇宙空間に到達。最終的に小型のロケットを使って、地球を回る軌道に乗るのだという。

 言い換えれば、ロケットが地上から飛び立ってしばらく飛行するまでの段階を、カタパルトによる加速で置き換える、ということになる。ロケットが地上から飛び立つ際には最も強力なパワーが必要で、エンジンや機体も大きくなる。だからこそスペースXなどは、その最初の段階で使う機体を回収して再使用しようとしているわけだが、スピンローンチはそもそもそれを不要にしようというのである。

 Yaney氏がTechCrunchに語ったところによれば、この仕組みを使うことで、打ち上げコストを従来の10分の1~200分の1にまで引き下げたいという。

◆実現には課題山積

 もっとも、このアイディアにはさまざまな問題がある。

 地上には濃密な大気があるため、カタパルトで加速するには膨大なエネルギーが必要になるし、なにより加速できるスピードには限界もある。大気中で加速するならいわずもがな、たとえば真空のトンネルの中で加速して打ち出すにしても、トンネルから出た瞬間に空気の壁にぶつかり、速度も落ちる上にかなりの衝撃が加わる。

 また、地球を回る軌道に到達するには、おおよそ秒速10kmの速度が必要になる。しかしカタパルトでは、空気抵抗やエネルギー変換効率などを考えると、どうやってもその15%程度までしか加速することができないため、あまり助けにはならない。

 さらに、それだけのエネルギーを投入することは不可能ではないかもしれないが、そのための設備や電力を考えると、普通にロケットで加速する場合と比べて本当にコストダウンができるかは疑問が残る。

 実際、これまでも米国航空宇宙局(NASA)などが、レールガンなどを使ってロケットを打ち上げるシステムの研究・開発を行ったことがあるが、どれも実用化には至らなかった。

 もちろん、スピンローンチにはなんらかの秘策があるのかもしれない。とはいえ、空気抵抗や重力など、この世の原理・原則となる現象が限界としてのしかかっている以上、ここ数年で技術革新は進んだとはいえ、それを打ち破ることはファンタジーに近い。

◆それでも集まる投資

 だが、Yaney氏によると、今年2月の時点ですでに1000万ドルの資金を調達。さらに6月14日にBloombergが報じたところによれば、Googleの親会社として知られるAlphabetや、欧州の航空宇宙メーカーのエアバスが出資する投資会社エアバス・ベンチャーズ(Airbus Ventures)などから、新たに総額4000万ドルを調達したという。

 新しいロケットを開発しようと資金集めに奔走している企業は世界中にいくつもあるが、その中でもこの額は比較的大きく、投資家からの期待の高さがうかがえる。

 もっとも、テック企業への投資という点から見れば、数千万ドルという金額はそれほど大きいわけではない。スピンローンチにしても、これだけの金額で実用化できるとは思っていないだろう。

 また、投資側にしてみれば、開発で生まれる可能性のある技術、たとえば大容量のコンデンサーや高効率のエネルギー変換技術を得ることが目的なのかもしれない。どちらも、スーパー・コンピューターや電動飛行機など、すなわち投資したAlphabetやエアバスの事業に役立つ技術である。

 いずれにしても、スピンローンチの今後に注目したい。

<文/鳥嶋真也>

宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

Webサイト: http://kosmograd.info/

Twitter: @Kosmograd_Info(https://twitter.com/Kosmograd_Info)

【参考】

・http://spinlaunch.com/(http://spinlaunch.com/)

・Stealth space catapult startup SpinLaunch is raising $30M | TechCrunch(https://techcrunch.com/2018/02/22/spinlaunch-2/)

・This Startup Got $40 Million to Build a Space Catapult – Bloomberg(https://www.bloomberg.com/news/articles/2018-06-14/this-startup-got-40-million-to-build-a-space-catapult)

・SpinLaunch raises $40M for space catapult – GeekWire(https://www.geekwire.com/2018/spinlaunch-raises-40m-airbus-google-others-space-catapult/)

・Stealth Startup SpinLaunch Raises $40 Million for Radical New Launch Strategy(https://www.space.com/40910-stealth-startup-spinlaunch-new-launch-method.html)

ハーバー・ビジネス・オンライン

Yahoo!ニュースからのお知らせ