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ベルギーは日本戦を“糧”に。ブラジル撃破の周到な計画と爆発した『個』。王国は必然の敗戦【ロシアW杯】

7/7(土) 9:30配信

フットボールチャンネル

 ロシアワールドカップ準々決勝が現地時間6日に行われ、ベルギー代表がブラジル代表を2-1で下した。エデン・アザール、ケビン・デ・ブルイネ、ロメル・ルカクらを擁し黄金世代と称される今大会のベルギー。日本戦で得た教訓を生かしつつ、王国を破るためのプランも実践。主力を累積警告で欠くブラジルも全てを出し尽くした。ベスト4進出に相応しいのはベルギーのほうだった。(文:青木務)

【2018年ロシアW杯】決勝トーナメント日程・結果

●日本戦で露呈した弱点を消し、ルカクを右に

 一人ひとりの高い技術に裏打ちされた、流れるような攻撃。局面を打開する個の突破力、相手の心をへし折る鋭いカウンター。相手を打ちのめすための術をいくつも持っているのが、サッカー王国たる所以だった。しかし、カザンアリーナでそれらを見せたのは赤い悪魔と呼ばれるチームだった。彼らは戦前からあった勢いに加え、この試合で本物の強さを肉付け。敗戦に呆然とした様子のカナリア軍団を力強く踏み越えていった。

 ロシアワールドカップ準々決勝、ベルギー代表は2-1でブラジルに勝利。グループリーグ初戦以外は無失点で勝ち上がってきたブラジルに対し、ベルギーはここまで12得点を稼いできた。決勝トーナメント1回戦では日本に2点を先行されながら、選手交代で流れを得ると最後は高速カウンターで仕留めている。

 ベルギーにとってこの日本戦は意味のあるゲームとなった。ウイングバックの裏、センターバックの脇を使われた反省を生かし、もしくはそこがウィークポイントだと改めて確信し、ブラジル戦では守備時に4バックになる形を採用している。日本に破られるのだからブラジルには粉々にされるに違いない、と。

 また前線はロメル・ルカクが右サイドに張り、対峙するマルセロをけん制。この試合で復帰したブラジルの左サイドバックは、ネイマールとコウチーニョを最良の形で輝かせられる。マルセロが攻撃に絡むことによる不利益を最小限に抑えるためにも、ルカクをぶつけ、裏のスペースに注意を向けさせた。また、マルアン・フェライニを先発させ、ケビン・デ・ブルイネを前に置いた。システム上の泣き所を潰しつつ、前線の配置も変えることで速攻の威力も担保した。

 それでも、最初の決定機はブラジルに訪れた。8分、左CK をネイマールが二アサイドに蹴りこむと、ミランダが頭ですらしてチアゴ・シウバが合わせる。しかし、うまくミートできずポストに阻まれてしまう。これをモノにできなかったことが、ブラジルにとって大きなダメージとなる。

●ブラジルにカゼミーロがいたらどうなっていたか

 最終的にブラジルは相手の2倍となる8本のCKを得ているが、最初のチャンスを決められず。残りの機会でもティボー・クルトワの牙城を崩せなかった。『あれしかない』という形だったからこそ、ネットを揺らしておかなければならなかった。

 その5分後、ベルギーが先制に成功する。同じように左CK、ニアにヴァンサン・コンパニが走りこむと、フェルナンジーニョに当たってオウンゴール。ベルギーが1点リードを得た。カゼミーロが累積警告のため出場できなかったこの試合、代わりにスタメンに名を連ねたのはフェルナンジーニョだった。ここまで全試合で途中出場しており実力に疑いの余地はない。オウンゴールは不運だったが、データサイト『whoscored』によればインターセプトは両チーム最多タイの5回と、90分通してやれることはやったと言える。カゼミーロであってもこの試合の結果を変えることはできなかったのではないか。

 ベルギーの選手たちはアンカーに捕まらないポジションに立って攻撃を展開していた。先制のCKに繋がる攻撃がそうだった。まず左のシャドリがフリックでルカクにつける。チアゴ・シウバに詰め寄られるもルカクはボールを失わない。そして、アザールがミランダを引き連れ、ルカクの後ろに流れる。ミランダと左SBのマルセロとの距離が空き、そこにフェライニが待つ。ルカクはパウリーニョにも寄せられるも、フリーのデ・ブルイネにパス。フェルナンジーニョの脇をデ・ブルイネが通し、フェライニがフィニッシュに持ち込んだ。

“アフロマン”のトゥーキックシュートはミートしておらず、CKからフェルナンジーニョがオウンゴールを献上したのもアクシデントと言える。だが、ベルギーが試合を動かすのは時間の問題だった。局面でフリーになるための動きとボールワークを繰り返すベルギーを止めるのは容易ではない。

●ブラジルをも破壊した伝家の宝刀

 そして31分、ブラジルが後手を踏んでいる間にベルギーが追加点を奪う。相手CKをクリアすると、ルカク収めて前を向いてカウンターが発動。追いすがる相手を尻目にグイグイと運ぶと右へパスを出す。自陣ゴール際から走っていたデ・ブルイネが右足を振り抜き、弾丸のようなシュートを突き刺した。日本戦の3点目のような電光石火のそれではなかったが、それでもブラジルは全く対応できなかった。

 ベルギーのカウンターはその威力もさることながら、不発に終わらないから相手に脅威を与え続けることができる。62分、シャドリが相手のパスを奪うと、粘ってパス。デ・ブルイネは持ち込みながら左右を味方が走っているのを確認し、左のアザールを使う。10番の左足シュートは外れたが、フィニッシュに持ち込んだ。また、たとえシュートで終われなくても相手を裏返し、自陣に引き戻している。そして、無理に打たずに作り直して相手を焦れさせることもできていた。

 とはいえ、後半はブラジルのペース。頭からウィリアンを下げてロベルト・フィルミーノを投入し、58分にはガブリエル・ジェズスを諦めドウグラス・コスタを送り込んだ。ミランダがルカクの監視を強め、その恩恵を受けたマルセロが高い位置を取れでゲームに関わるようになる。そして76分、コウチーニョの浮き球に反応したレナト・アウグストが頭で決めて1点を返した。[4-3]で作られたベルギーのブロックを無力化するようなコウチーニョのアイディアとレナト・アウグストの抜け目ない動きだった。

 だが、もう1点が遠い。ネイマールが仕掛けて相手を出し抜こうとするも、ホイッスルは鳴らない。倒れるたびに何度もレフェリーにアピールしたが、「立て」のジェスチャーをもらうだけ。VARも助けてくれない。そのうちチーム全体にパスミスが見られるようになった。こじ開けてくるブラジルを目の当たりにしたことで、ベルギーにも隙はなくなっていった。

●ブラジルは出し尽くした。ベルギーの勝利に不思議なし

 アディショナルタイムは5分と表示された。ブラジルは最後の猛攻に出たが、ドラマを生み出すことはできなかった。シュート数26:8、枠内シュートでも9:3と大きく上回りながら決め手を欠いた。個々のクオリティも層の厚さも、集団としての強さも今大会への並々ならぬ思いも、優勝候補筆頭と呼ぶに相応しいものだった。オウンゴールでビハインドを背負ったのは誤算かもしれないが、運が悪かったということにはならないだろう。

 王国を倒すためにプランを用意し、個の質でまったく劣らないベルギーが勝ったことを不思議に思う者もいない。ブラジルは全てを出し尽くした。優勝する可能性もあったが、ベスト8が限界だとしても納得の敗戦だった。

 この大会にかける思いではベルギーも負けてはいなかった。アディショナルタイム、アザールは残り少ないパワーを放出している。押し込まれる中、10番はボールを持ったらドリブルで前進。たった一人でキープし、相手はファウルで止めるしかない。そのドリブルはゴールを奪うためではなかった。時計の針を進めるための、味方に一息つかせるためのものだった。

 彼を筆頭とした“黄金世代”は大きな期待を背負いながら、2014年ブラジルワールドカップ、EURO2016ともにベスト8止まりだった。大会を席巻する力を秘めていながら、ダークホースの域を抜け出せなかった。そんな負の歴史を払拭するかのような、アザールの意地が凝縮されたラスト5分だった。

 そして今回、ついに歴史を動かした。ベルギーサッカー史上最も頂点に近いチームであることは間違いない。16年9月のスペイン戦を最後にこれで24戦負けなしだ。次の関門はフランス。カウンターの名手同士の対戦となる。

(文:青木務)

フットボールチャンネル編集部

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