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ハッブル宇宙望遠鏡の夢の後継機、開発が大幅に遅れて、コストも天文学的に

7/9(月) 19:56配信

ニューズウィーク日本版

宇宙の始まりが見える宇宙望遠鏡、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の開発が遅れに遅れている。それでも開発が続く理由とは

米国航空宇宙局(NASA)は2018年6月28日、新型の宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」について、開発の遅れを理由に、打ち上げを2021年3月まで延期すると発表した。

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2002年に開発が始まったこの望遠鏡は、幾度となくスケジュールの遅延を繰り返しており、コストも超過。それでも開発が続けられるのにはわけがある。

■ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope、JWST)は、NASAを中心に世界が共同で開発している新型の宇宙望遠鏡で、かの有名な「ハッブル宇宙望遠鏡」の後継機にあたる。

ハッブルというと、遠くの宇宙にある星雲や銀河の写真を数多く送り届けていることでおなじみである。その光景は天文学者でなくとも息を呑むほどに美しい。

ハッブルは、私たちでも買えるような天体望遠鏡を大きくし、宇宙に打ち上げたような衛星で、人間の目で見える可視光や、人間には見えない赤外線、紫外線などを使って宇宙を観測している。

JWSTはその後継機と位置づけられているものの、ハッブルとは異なり、可視光で観測する能力はもたず、赤外線による観測のみに絞られている。

ただ、もちろんこれは「JWSTの性能が低い」というわけではない。これまでの人類の宇宙観測の中で、「宇宙は必ずしも人間の目で見えるものが真の姿ではない」、あるいは「赤外線を使えばもっとさまざまな宇宙の姿が見える」ということがわかり、そこで赤外線による観測に特化した高性能な宇宙望遠鏡――JWSTが求められたのである。

その証拠に、JWSTは宇宙の誕生後に初めて誕生した星の観測や、太陽系外にある惑星の探査などに使えると考えられている。

■ 大きく遅れた開発と増加するコスト

しかし、その開発は困難を極め、大幅なスケジュールの遅延とコスト増加を招いた。

計画は1996年に立ち上がり、2002年に製造会社としてノースロップ・グラマンが選ばれた。この時点で打ち上げは2010年、コストは約25億ドルの予定だった。

ところが開発を進める中で、数々の技術的課題にぶち当たった。

たとえば望遠鏡の大きさは、ハッブルでは直径2.4mだったが、JWSTは直径6.5mととても大きくなっている。機体全体もテニスコートほどの巨体でもある。

さらに、ハッブルのような筒の中に鏡が入った望遠鏡とは違い、JWSTは18枚の六角形の鏡を折りたたんだ状態で打ち上げ、宇宙でそれらを展開してひとつの大きな鏡を作り出す、という複雑な構造をしている。この鏡がきちんと展開し、それぞれの精度も許容範囲に収まらないと、研究者が計画しているような観測ができない。

また、赤外線を観測するために機体を冷却したり、太陽や地球からの光を遮る必要があったりと、ハッブルにはない、そればかりかこれまでに前例のないような技術や装置が必要になった。

6月28日に明らかにされた調査資料などによると、こうしたJWSTそのものの複雑さに加え、開発や試験におけるヒューマン・エラーや、組み立てミスも起きたことも影響しているとされる。これらは技術者らの経験不足からきているという。さらに、こうした遅れの可能性などを見誤ったために、スケジュールもコストも大きく遅延する結果となったという。

■ 2021年3月に打ち上げへ

こうした経緯から、JWSTの開発と打ち上げ予定は年々遅れ、現時点では2021年3月30日を目指すという。

コストも増大し、現時点で96.6億ドルと見積もられている。物価が変わっているため単純比較は難しいが、これは当初の見積もりの4倍以上にもなる。こうしたことから、「自身が“天文学“的コストに」や「James “Wait“ Space Telescope」などと揶揄されている。

当然、これまでも何度か、他の分野の科学者や政治家などから中止を求める声が上がっている。

しかしそのたびに、JWSTにかかわる科学者らは、「天文学の多くの分野にとって、JWSTによって得られる観測結果は絶対に必要」、また「JWSTなしでは、人類はいま以上の宇宙に関する知識は得られない」と主張し、その意義を訴えてきた。NASAも、「何十年にもわたって、世界中の何千もの天文学者が酔いしれる、世界最高の天文台」と謳っている。

スケジュールの遅延とコスト増は大きな問題ではあるものの、JWSTが計り知れないほどの成果をもたらすであろうこともまた事実であろう。

もちろん、今後さらに遅れる可能性もありうるが、無事に完成し、打ち上げられ、そして教科書が書き換わるほどの大きな成果をもたらしてくれることを願いたい。

鳥嶋真也

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