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トランプ大統領の使い走り ポンペイオ国務長官

7/10(火) 8:39配信

Japan In-depth

【まとめ】

・ポンペイオ国務長官の訪朝はとても成功とはいえない。

・北朝鮮は「朝鮮半島の非核化」を実現する為、米の核放棄を要求しても自分の核放棄はコミットしないはず。

・トランプ氏にとって中間選挙まで北朝鮮との交渉は進展している必要がある。

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=40929でお読み下さい。】



今週は先週訪朝したポンペイオ米国務長官の話を取り上げる。正直なところ、筆者はこの本来保守強硬派ながら、北朝鮮の理不尽な態度に席を立つことも出来ない哀れな国務長官に深い同情を禁じ得ない。トランプ氏の信頼は厚いだろうが、所詮彼は中間選挙まで対北交渉継続を最重視する大統領の「使い走り」でしかないからだ。

同長官は訪朝を「極めて生産的だった」と評価、「北は完全で検証可能、不可逆的な非核化(CVID)にコミットすると再度約束した」とまで言い切った。これに対し、北朝鮮外務省報道官は「実に遺憾だった」と強く反発しただけでなく、「一方的でギャングのような非核化要求だった」とまで述べた。およそ「訪朝成功」とはいえないだろう。

これまで北朝鮮と米側の間で如何なるやりとりがあったのだろうか。色々調べている内に、2年前ではあるが興味深い公式声明を見付けた。といっても、元韓国大統領府国家安全保障室次長、駐豪大使、外務第1次官、六者協議の韓国首席代表でもあった趙太庸氏(現在慶応大学)に教えてもらったことなのだが、これが意外に面白い。

この文書、日付は2016年7月6日、(北)朝鮮政府代弁人の発表だ。この中で北朝鮮は自国が「主張する非核化は朝鮮半島全域の非核化であり、これには南の核廃棄と南朝鮮周辺の非核化が含まれている」と述べつつ、「朝鮮半島の非核化」を実現するための諸条件につき次の通り述べている。(参考まで【】内に筆者のコメントを付す。)

● 米国と南朝鮮当局が朝鮮半島の非核化に一抹の関心でもあるなら、次のようなわれわれの原則的要求から受け入れるべきだ。

【これは2016年7月の話だから、恐らく今回も北朝鮮は米国に似たような要求をしている可能性が高いだろう】

● 第一に、南朝鮮に引き入れて是認も否認もしない米国の核兵器からすべて公開すべきである。

【北朝鮮は米国が韓国に核兵器を隠し持っていると思っているらしい】

● 第二に、南朝鮮からすべての核兵器とその基地を撤廃し、世界の前で検証を受けなければならない。

【ありもしない韓国内の米核兵器を検証せよとまで言っている】

● 第三に、米国が朝鮮半島とその周辺に随時展開する核打撃手段を二度と引き込まないという保証をしなければならない。

【B52戦略爆撃機やSLBM搭載原潜などを朝鮮半島に持ち込むなと言っている】

● 第四に、いかなる場合にも核で、核が動員される戦争行為でわれわれを威嚇、恐喝したり、わが共和国に反対して核を使用しないということを確約しなければならない。

【北の核兵器放棄前に米国による対北朝鮮核兵器不使用を確約せよと言っているのだから、余程米国の核兵器が怖いのだろう】

● 第五に、南朝鮮で核の使用権を握っている米軍の撤退を宣布しなければならない。

【更に、在韓米軍の撤退にまで言及しているのだから、誠に恐れ入る】

● このような安全保証が実際に遂げられるなら、われわれもやはりそれ相応の措置を取ることになるであろうし、朝鮮半島非核化の実現において画期的な突破口が開かれるであろう。

【米韓がこれだけのことをしても、北朝鮮は「それ相応の措置」しかとらない、つまり北朝鮮は核兵器廃棄について最後までコミットしていないのだ】

ポンペイオ長官からすれば、フザケルナという話だろうが、それを言ってしまえば交渉は決裂する。そうなればトランプ氏は躊躇なくポンペイオ氏を外すだろう。大統領にとっては少なくとも中間選挙まで北朝鮮との交渉は進展している必要があるからだ。読者はこんな国務長官をやってみたいと思うだろうか。筆者はまっぴらご免である。

〇 欧州・ロシア

日本ではポンペイオ訪朝の話ばかりが注目されたが、今週の欧米の関心事はトランプ氏が出席する11-12日のNATO首脳会議と13日の米英首脳会議だ。更に、来週16日にはヘルシンキで米露首脳会談も予定されている。これ以上、米欧州関係が悪化すると取り返しが付かなくなるという声が欧州には少なくないので要注意だ。

そんな中で、11日に日・EUのFTAが署名される予定だった。ところが、日本での記録的豪雨災害を受け、安倍首相はベルギー、フランス、サウジアラビア、エジプト訪問を取りやめたそうだ。残念ではあるが、災害規模の大きさを考えると、致し方ないというべきだろう。



〇 中東・アフリカ

9日に米国務長官がアラブ首長国連邦を訪問する。14日から海上自衛隊の訓練船がサウジアラビアを訪問するが、それに合わせてか、日本の首相は予定していた15日のサウジ・エジプト訪問をキャンセルした。残念だが、折角準備をしても、上手く行かない時は上手く行かない。関係者の苦労を思うと胸が痛む。



〇 東アジア・大洋州

北朝鮮以外にも東アジアでは動きが少なくない。米国の国務長官は訪朝後、日本、ベトナム、UAEからブラッセルに抜けるそうだ。何と忙しい人だろう。11日には日本の海上保安庁艦船がインドネシアと南シナ海で海賊対策の合同パトロールを行う。これも目立たないが、極めて重要な仕事である。



〇 南北アメリカ

9日にトランプ氏が引退する最高裁判所判事の後任を指名する予定だ。引退するのは保守系の判事だから、トランプ氏にとっては絶好のチャンスだろうが、保守なら誰でも良いという訳ではない。議会共和党も一枚岩ではないので、後任がすんなりと決まる保証などないのかもしれない。



〇 インド亜大陸

11日に韓国大統領が訪印する。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

最終更新:7/10(火) 8:39
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