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LGB「T」をのけ者にする芸能界の“暗黙の了解”

8/2(木) 7:00配信

東洋経済オンライン

映画産業の中心地アメリカ・ハリウッドで活躍する女優スカーレット・ヨハンソンが、生まれたときに割り当てられた性別から移行する「トランスジェンダー」の男性役を降板する騒動があった。ライターの鈴木みのりさんが、自らの経験を交えて2回にわたって考察する。後編は「トランスジェンダーが活躍できない日本」(参考:前編「トランスジェンダーが躍動するハリウッド」)。

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 生まれたときに割り当てられた性別から移行する「トランスジェンダー」に対し、移行しない人を「シスジェンダー」という。そして、この社会ではシスが「一般」、トランスは「例外」とされている。

 こうした状況でシスがトランスを演じると、「トランス女性(男性)って元男性(女性)でしょ」というステレオタイプが強化される懸念が生まれる。ヨハンソンのトランス役へのキャスティングが批判されたのも、この懸念が理由の1つだろう。

■トランスを特殊と価値づける視線

 筆者は2016年、高知県に住む演出家からの打診で、「利賀演劇人コンクール」で演劇作品に主演した。筆者がトランス女性であることは、その際、わざわざ観客に明かしていなかった。

 課題戯曲の『お國と五平』(谷崎潤一郎作)で筆者が演じたお國は、シス女性だと考えられる。観客は一般的に、いわゆる女らしい高い声で演技すると思っているだろう。だが、筆者はそうはしなかった。

 そのため、セリフを聞いた観客に対し、「シスではない」という情報が送られるのでは、と懸念した。

 実際、コンクール前に高知県立美術館で公演した当時、観客から「女性よりきれいでした」「どうやったらそんなに女性らしく動けるのか」といった、作品自体の感想以前に筆者の容姿や所作に関する言及を多く耳にした。

 観客の感想の前提には、筆者への「元男性なのに女として振る舞えることがすごい」という特殊と価値づける視線が伺えた。

 事実、多くのトランス女性が日常において、「女より女らしい」という言葉をよく投げかけられると聞く。

 繰り返しになるが、わたしたちの生きる社会は「シスが一般的、トランスは例外的な存在」という価値観に支配されている。

 多くの人が「女/男」と言うとき、「シス女性/シス男性」を指しているし、人を見るときにその人が「女か男か」とジェンダー属性を判断する。テレビ、映画、舞台芸術作品に「女優/男優」が出るときは、基本的にそれは「シス女優/シス男優」が想定されている。

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