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なぜ農家は小倉優子さんに耳を傾けるべきなのか

8/3(金) 17:15配信

日経ビジネスオンライン

 今回取り上げるのは、オイシックスが宅配で提供するミールキット「Kit Oisix(キットオイシックス)」だ。ミールキットは野菜や肉、魚などの食材と調味料をレシピ付きのセットで届け、調理時間を短縮する食の新分野。欧米で先行して普及している。

【関連画像】「20分で作れる」が売りのキットオイシックス。

 ふつう新聞などでは、特定の商品だけで特集を組んだりせず、似たような例をいくつか集めて記事にする。「1社もの」だと、宣伝っぽく見えてしまうからだ。だが、日本ではまだミールキットがあまり普及していないことを踏まえ、その先導役であるキットオイシックスに絞って紹介したいと思う。そこに、この連載のテーマである「農業再生のヒント」があると思うからだ。

 オイシックスは、オイシックス・ラ・大地(東京都品川区)の宅配ブランドの1つ。有機野菜の販売の草分け的存在である「大地を守る会」と事実上のその分派である「らでぃっしゅぼーや」、2000年創業の新興勢力の「オイシックス」が最近、統合と買収を通してできたのが、オイシックス・ラ・大地だ。顧客層と戦略が違う3つのブランドはそのまま残すことになっており、キットオイシックスは引き続きオイシックスのブランドで提供している。

 キットオイシックスは、安全で安心な食材を使い、主菜と副菜の2品をそろえ、時間をかけずに調理できるのが基本コンセプト。調理時間の目安は20分以内。ここで強調すべきなのは、総菜やレトルト食品と違い、短時間とはいえ、自分で調理することが前提になっていることだ。

 百聞は一見にしかず。オイシックスのホームページを見ると、キットオイシックスの様々な商品を目にすることができる。例えば、人気ラーメン店とコラボした「一風堂監修 豆乳仕立てのベジラーメン」。豆乳を加えた豚骨スープにローストしたアーモンド、様々な野菜をトッピングした1品だ。一風堂のラーメンのたんなる代理販売ではなく、オイシックスが本業とする野菜と組み合わせてメニューを作っている点に特徴がある。

 メニューは常時15種類くらいあり、3~4つの定番商品を除き、原則毎週入れ替える。利用者がメニューの内容に飽きないようにするためだ。2013年7月に発売し、今年5月には累計の出荷数が1000万個を超えた。キットオイシックスを買うために会員になるほどの主力商品になっている。

 ここまでが商品の概要。ここから先は、ミールキットが食生活や農業のあり方を変革する可能性について考えてみたい。

 強みの1つは、メニュー開発の多様性にある。キャベツやニンジン、豚肉、牛乳といった食材をそのまま販売したり、レトルト食品などを販売したりするのと違い、調理という一手間が入るために様々な「切り口」を設けることが可能になる。例えば、「1人で食べる」「2人で食べる」「子どもと食べる」「子どもと一緒に調理する」などだ。一風堂とコラボしたラーメンは、「ママのひとりランチ」というコンセプトで開発した。

●小倉さん提案による「時短を優先しない選択」

 タレントの小倉優子さんの監修で発売したチキンカレーは、母親と子どもが一緒にバターを作り、それを使ってカレーを調理する商品だ。バターは生クリームの入った容器を振ればできる簡単なもの。カレーのスパイスや具材もセットになっている。

 この商品のポイントは、バターを作る時間を調理時間に含めていないところにある。小倉さんの「『子どもと楽しむ』『子どもと学ぶ』という工程を入れたい」という提案を受けたものだ。ミールキットの最大の特徴は調理時間を短縮する点にある。だが、この商品に関しては「休日の昼に子どもと一緒に作る」というシチュエーションを想定し、あえて時短を優先しないことにした。

 ちなみにオイシックスによると、小倉さんは決して形だけの監修者ではないという。こう書くといかにも広報的に感じるかもしれないが、実際、小倉さんはオイシックスから届いたたくさんのサンプルを家で試してみて、納得がいかないと改めて別のサンプルを求めることもあるという。

 ではオイシックスはなぜ小倉さんをメニュー開発のパートナーに選んだのか。理由を聞くと、「憧れの存在というよりは、キットオイシックスがターゲットにしている層の1人というイメージ」という。コアのターゲットは「働いているお母さん」。「頑張ってるママたちを応援する活動をしよう」という目標を掲げ、メニュー開発に取り組んでいる。

 オイシックスは「働いているお母さんは、育児に関して何らかの罪悪感を抱えていることが多い」と説明する。「子どもと過ごす時間が足りないのではないか」「きちんとしたものを食べさせていないのではないか」といった思いだ。こういう悩みは、いくら周囲には「十分頑張っている」ように見えても、本人が「不十分」と感じてしまえばどうしようもない。

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