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チャック・ノリスが共産主義を倒した? 東欧の衝撃作『チャック・ノリスvs.共産主義』 佐々木健一「TVクリエイターのミカタ!」

8/7(火) 12:00配信

日経トレンディネット

映画で「自由」を知った大衆が独裁政権を倒す

 本作の主人公は、海賊版VHSテープを命がけでルーマニア全土に流通させた謎の人物、テオドール・ザムフィール。そして、一人で吹き替えを担当していたイリーナ・ニスターという謎の女性だ。当時、彼らが何をして、どのように振る舞っていたかが、映画さながらの再現映像でドラマチックに描かれていく。

 当然、彼らにも身の危険が及ぶ。絶体絶命のピンチに襲われたとき、まるで映画のような驚きの展開が待っていた。思いもよらない人物によって命を救われたザムフィールは、その行為に「高潔さを感じた」と語る。彼らが命を懸けて行った行為は、やがてルーマニア国民にある行動を起こさせる。

「自由を! 自由を! 打倒、共産主義!」

 映画によって「自由」を知った大群衆が通りに出て叫んだ。1989年12月、ルーマニア革命によって、チャウシェスク政権は倒された。その影の立役者・ザムフィールが当時を振り返る。

「1989年の革命時、みんな通りに集まった。外(西側)にはいい生活があると知っていたからさ。どうやって? ……映画からさ」

 この映画のタイトルは、内容に即していえば『ハリウッド映画vs.共産主義』だろう。われわれが幼いころから慣れ親しんできたハリウッド映画に代表されるエンターテインメント作品は、自由を描き、希望を大衆に与えてきた。そして、チャック・ノリスに象徴される80年代アクションスターは弱きを助け、強きをくじき、決して諦めない不屈の男として描かれてきた。本作は、そうした作品の影響力を改めて感じさせてくれる一作である。



佐々木 健一(ささき・けんいち)

1977年、札幌生まれ。早大卒業後、NHKエデュケーショナル入社。ディレクターとして『ブレイブ 勇敢なる者』シリーズ(NHK)、『ヒューマン・コード』(フジテレビ)などの特別番組を企画・制作。『ケンボー先生と山田先生』で第30回ATP賞最優秀賞、第40回放送文化基金賞優秀賞、『哲子の部屋』で第31回ATP賞優秀賞、『Dr.MITSUYA』で米国際フィルム・ビデオ祭 2016ドキュメンタリー部門シルバースクリーン賞、『Mr.トルネード』で科学ジャーナリスト賞2017、『えん罪弁護士』で第54回ギャラクシー賞選奨などを受賞。書籍では『辞書になった男』(文藝春秋)で第62回日本エッセイストクラブ賞、『神は背番号に宿る』(新潮社)で第28回ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。最新刊は『Mr.トルネード』(文藝春秋)。詳しくはインタビュー記事「『辞書』から『えん罪』まで ドキュメンタリー界の“異端児”佐々木健一とは何者か?」「ベッキーの『勘』、清水富美加の『才』 異能のテレビマンを驚かせた『ふたりの天性』」を参照。

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