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会社と地位に「しがみつくおじさん」たちの悲しい末路

8/16(木) 17:00配信

文春オンライン

 日本ボクシング連盟の山根明前会長や日大の田中英寿理事長の「田中・山根コンビ」のスキャンダルが世間の関心を集めている。ごうごうたる非難を浴びながらも、恋々と、権力に固執する姿には、呆れるばかりだ。山根氏は退任を発表したが、「妻から『私がどういうことがあっても会長を死ぬまで面倒見ていくから今、楽になってください』と言われて、腹が決まった」という趣旨の発言に、噴き出さずにはいられなかった。「男山根」と強がりながら、「妻に面倒を見てもらう」ことに何の違和感も感じていない様子がなんとも喜劇的で、徹頭徹尾、「ちゃぶ台返し」の昭和のおやじキャラのようである。

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「三種の神器」を失いたくない

 こうした「しがみつくオジサンたち」は、経済界にも政界にも山といるが、働き続けなければならないほど金銭的に困っているわけではないだろう。仕事など辞めて、趣味でもなんでも、悠々自適、自分の好きなことを楽しめばいいのに、と思うのだが、そうもいかないようだ。

 アメリカなどではある程度の成功を収めたエグゼクティブは、退職後、その有り余る財産で、慈善事業にいそしみ、名誉欲を満たしたり、贅沢なリゾートライフを送ったりと、人生のもう一つのステージを楽しむが、日本では、そういった華やかなリタイヤメントライフの話を聞くことはあまりない。代わりに、相談役や顧問、財界活動などを通じて、何とか一年でも長く「現役」を続けたいと思う人が多いようだ。 ある調査 によれば、1071 社中、62.4%にあたる668社が相談役や顧問制度を設けており、30人以上の顧問や相談役を抱える企業もあった。報酬だけが目的ではなく、「黒塗りの車」「秘書」「個室」の「三種の神器」を失いたくないという動機もあるらしい。

就労を希望する高齢者の割合は71.9%

 こうしたおじ様たちの高い「勤労意欲」はエグゼクティブレベルの話だけのものではない。内閣府の調査で、60歳以上の高齢者に何歳まで収入を伴う仕事をしたいか聞いたところ、「働けるうちはいつまでも」が28.9%と最も多く、次いで「65歳くらいまで」「70歳くらいまで」と、就労を希望する高齢者の割合は71.9%に上った。「仕事をしたいと思わない」という人はわずか10.6%に過ぎなかった。もちろん、経済的理由で働き続けなければいけない人も多いし、精神的にも肉体的にも働き続けることのメリットは大きいだろう。政府の進める「働き方改革」においても、「高齢者の就業促進」が課題として掲げられており、人出不足の折、退職した人が、再び生き生きと仕事を楽しみ、活躍できる環境は望ましい。一方で、「会社や地位にしがみつく」メンタリティには問題も多い。

 男性の就業希望者は女性よりはるかに多く、独立行政法人労働政策研究・研修機構のレポートによれば、「男性の引退年齢が女性よりも高い一つの要因は、『仕事人間』『会社人間』とも呼ばれる仕事中心的な現役時代の職業生活にある。仕事以外にすることがないから高齢も継続して働くというわけである」と分析されている。一方で、「女性は現役時代から家庭だけでなく、地域の活動や趣味など、仕事以外の生活領域と幅広く関わっているため、仕事に固執する必要がない」わけで、「仕事しかない」という日本のオジサンたちの生きざまが浮かび上がってくる。

 同レポートによれば、就業希望理由としては、「収入が欲しい」(46.8%)が最も多かったが、「働くのは体によい、老化を防ぐ」(26.4%)「仕事が面白い、自分の活力になる」(19.2%)という人も多い。仕事があることで、自分が役に立っている、必要とされているという「自己有用感」を与えてくれている側面もあるだろう。窮屈なサラリーマン生活に辟易とし、文句を言いながらも、実際には、オジサンたちにとっては、仕事が「レゾンデートル」(存在理由)や「生きがい」となってしまっているところは否めないのだ。

 オジサンたちが失いたくないのは実は「仕事」だけではなく「名誉」と「名刺」、そして、「生きがい」「自分の存在価値」「居場所」でないだろうか。趣味や職場以外のコミュニティを持たない日本人男性にとって、仕事を失うということは、人の根源的欲求である「人として認められたい」「必要とされたい」という承認欲求を満たす場がなくなることを意味する。仕事に様々な不満を持ちながらも、職場で認めてもらうこと、評価されることが、人生の大きな駆動力になってきた部分は否定できないだろう。

 また、仕事における肩書や地位こそが自らのアイデンティティであり、「名刺」という「ドアノックツール」がなければ、知らない人とどう話すのかわからない、という人もいるかもしれない。「〇〇会社元専務」などという「昔の名前」名刺を持って回る人がいる、という「都市伝説」もまことしやかに伝わる。

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最終更新:8/17(金) 10:09
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