ここから本文です

建設中に決壊したラオスのダムは、日本の資金によるものだった――韓国叩きに終始するメディアが報じるべきこと

8/21(火) 15:40配信

HARBOR BUSINESS Online

◆ダム建設に韓国企業が加わっていたことで、韓国叩きの“燃料”に

 今年7月、東南アジアのラオスで起きたダム決壊事故。メコン河の支流セコン川水系に建設中のセピアン・セナムノイ・ダムの貯水池に設置した補助ダムが崩壊し、あふれ出た膨大な水が下流の6 の村を直撃。のべ13の村が浸水する大惨事となった。

⇒【画像】ラオスの人々は長年、小規模漁業などメコン河の恵みで生計を立ててきた。しかし、ダムによる水位の変化が生態系にも悪影響を及ぼしている(写真/Big Brother Mouse)

 現地報道によれば、数十人が死亡、約100人以上が行方不明、約6000人が家を失ったとされるが、調査も困難であるため詳しい状況は確認されていない。このセピアン・セナムノイ・ダム事業を実施している合弁会社にはSK建設などの韓国企業が加わっていたため、日本でも保守系メディアが大きく取り上げ、韓国企業を批判した。

 ネット上でも、韓国叩きの“燃料”としてネット右翼たちが大いに盛りあがった。だが問題のダムには、日本の公的機関や民間企業も資金面で関与しているのだという。

◆決壊したダムは日本の資金によるものだった

 日本の資金がどのようにセピアン・セナムノイ・ダム事業に関わっているのか。東南アジアでの開発と人権について政策提言を行うNPO「メコン・ウォッチ」の木口由香事務局長がこう解説する。

「同事業を実施しているのは、タイと韓国の民間企業、ラオスの国営企業による合弁会社です。この合弁会社に協調融資するタイ銀行団のうち、クルンシィ・アユタヤ銀行は現在、2017年末の時点で株式の76.88%を三菱UFJ銀行が保有し、三菱UFJフィナンシャル・グループの傘下にあります。融資決定は統合前となりますが、現経営陣には最高経営責任者(CEO)をはじめ多数の日本人が加わっています」

 GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)もセピアン・セナムノイ・ダム事業に関わっている。

「GPIFは、クルンタイ銀行の株を時価総額で約14億8265万円の株を保有しています。また、GPIFは、合弁会社を構成するラオス国営企業に融資をしている韓国輸出入銀行の債権も時価総額で約62億6814万円を保有しています。つまり、私たちの年金が金融機関などを通しこのような企業活動を支えているのです」(木口さん)

◆日本の支援で造られたダムが契機となり、急ピッチで進むラオスのダム開発

 現在のラオスでは、タイなど国外への売電を目的とした大規模水力発電事業が急ピッチで進められている。しかしラオスは一党独裁のもと、人々が自由に発言したり、集会を行ったりすることもできない国だ。

「事業が行われる現地の人々の安全や権利を軽視した性急なダム開発が、今回の決壊事故につながった」と木口さんは見ている。そして、ラオスがダム開発をその経済成長戦略の柱とした背景には、日本の影響も色濃くあるというのだ。

「日本政府が世界銀行(世銀)やアジア開発銀行(ADB)を通して支援を行い、『ラオスの貧困削減と環境保全につながる持続的な開発のモデル』として2005年に着工し、2010年から創業を開始したのがナムトゥン2ダムです」(木口さん)

 この事業を契機に、ラオス政府は急速なダム開発へと本腰を入れた。同事業の前に操業されていた1MW以上の水力発電事業はわずか10基だったが、現在は操業13基、建設段階が22基、MOU(了解覚書)段階39基、事業開発合意の段階は23基、という水力発電ダム計画が進んでいる。

 「しかしナムトゥン2ダム建設では、強制移住させられた約6200人の住民の生計回復が困難であること、ダム下流の水量の変化による洪水悪化などの問題が起きています。今後建設されるダムでも、同様の問題が起きる恐れがあるのです」(木口さん)

◆大規模ダム建設に依存するラオスの開発政策と、援助国や融資機関の役割を見直すべき

 木口さんは「今回の悲惨な事故に多くの人びとを巻き込んだのは、一義的には関連企業の責任です。ともかく、被害にあった人々のことを第一に考えて行動してほしい。しかし、企業のダム建設を可能にした融資機関、さらには大規模ダム建設に依存するラオス政府の開発政策とそれを後押ししてきた援助国・融資機関の役割についても検証する必要があります」という。

「昨今の予測不能な天候に対応できない可能性の高い既存のダムは、運営の停止を。環境・社会影響に比して収益の見合わないダム計画について、融資機関や援助国は中止を検討するよう求めること。大規模ダム建設を推進する、対ラオス開発援助政策自体を改めるべきでしょう」(木口さん)

 セピアン・セナムノイ・ダムの決壊を、格好の「嫌韓ネタ」として消費するのではなく、自国の政府や企業の姿勢も問われている問題として取り上げることが、日本のメディアに求められている。

<取材・文/志葉玲>

ハーバー・ビジネス・オンライン