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iPS細胞治療の最新フェーズ 「がんを殺す」細胞を無限量産、腎臓まるごと再生で「人工透析」不要に

9/9(日) 8:02配信

デイリー新潮

不治の病に「iPS細胞治療」の最新フェーズ(2/2)

 iPS細胞を使った再生医療への研究が本格化し、今年は大きな進展が幾つもあった。神経細胞をiPS細胞によって増やすパーキンソン病治療、iPS細胞を応用した“シート”を用いた心臓病治療の例を前回紹介した。

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 iPS治療で一筋の光明が射した心疾患は、日本人の男女の死亡原因2位だが、1位は国民病といわれる「がん」である。

 そんな「がん治療」にもiPS細胞が応用できる可能性を示した論文が、今年5月に米国の科学誌に発表された。

 iPS細胞を介して、がん細胞を攻撃する細胞を作ることに成功したというのだが、

「希望も含めた言い方をすれば、将来的にはどんながんでも、iPS細胞技術で治療ができるようになると思っています。高齢者の方で手術に耐えうる体力がなく、抗がん剤も効かず諦めている患者さんにも、治療が提案できるようになるのではと期待しています」

 そう語るのは、論文を発表した京都大学iPS細胞研究所の金子新准教授だ。

「元々は白血病など血液のがんの免疫治療に向け研究をしていたのですが、特にがんを認識するT細胞を治療に応用できないかと研究してきました。このT細胞の中には、分裂すればするほど、がんを殺す攻撃力が強くなるものがある。けれど、この細胞は分裂を重ねることで『若さ』を失い、一度でもがんを攻撃したら死んでしまう前衛隊のような存在になるんです。この強力なT細胞を、どうにか死ぬ前に捕まえて増やせないかと考えていたのです」

 がん患者は免疫力が低下し細胞の働きも弱い。そのため、攻撃力の強いT細胞を持っていても、体内でがんに対抗するまでの数をもつには限界があるのだ。

iPS細胞で「若返り」

 そこに現れたのがiPSだったと金子氏が続ける。

「10年ほど前に、山中先生の論文を読んで刺激を受け、それが今回の研究にもつながっています。iPS細胞は、体のどんな細胞にもなれるという点も凄いですが、その過程で細胞の『若返り』が起こるんです。例えば、攻撃力が強いT細胞は、本来は分裂を繰り返しているのですぐ死にますが、iPS細胞から新しく作ると『若返り』効果で、がん攻撃の後もすぐ死ぬことはない。しかもiPS細胞の時点でたくさん増やせるので、体外で無限に量産できます」

 今は動物実験を続けているが、がんのマウス10匹に作ったT細胞を投与した結果、60日経っても生存した。一方、投与しなかったマウスは5匹中1匹しか生存しなかった。

「できるだけ早く治験を行って安全性・有効性を確認し、新たな治療法として患者さんに提供できるよう精進します」(同)

 最後に紹介したいのは、iPS細胞によって、腎臓をまるごと再生してしまおうという、世界初の試みだ。

 腎臓病患者は全世界で8億5千万人。中でも透析療法や腎移植を必要とする患者は最大1050万人、日本だけで33万人いる。その原因は高血圧や糖尿病などの生活習慣病で、欧米人に比べ日本人は腎機能が弱いことも分かってきた。

 重篤な患者になれば、体内の老廃物を排出できなくなり、結果として生涯にわたり病院通いを余儀なくされる。週3回、1回4時間かかる病院での人工透析が必要で、患者は年間で1人約12万円、国は全体で1兆5千億円の医療費を負担しているのだ。

 腎移植をすれば透析の必要はなくなるが、心臓病と同じくドナー不足で患者の待機年数は平均15年と言われている。かような足枷を一掃するのが、腎臓再生プロジェクトである。

 昨年11月、熊本大や明治大と共に、英国の科学雑誌に論文を発表し、臨床の準備を進める東京慈恵会医科大学腎臓・高血圧内科の横尾隆主任教授が解説する。

「これまで、腎臓は非常に複雑で機能がたくさんあるので再生は難しいと言われてきました。元来、人間は生まれる10カ月前は1つの受精卵に過ぎませんが、細胞が分化していく過程で様々な臓器が形成されます。腎臓になる基が『ネフロン前駆細胞』ですが、それをiPS細胞で作れば、3つのステップを経て腎臓を再生できるのです」

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最終更新:9/9(日) 8:02
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