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山本KID41歳 「ヤバい、カッコ良すぎる、オレ」を貫いた人生

9/22(土) 17:00配信

文春オンライン

 見上げられているのに、見下ろされている――取材で山本“KID”徳郁に会うたび、いつもそんな不思議な感覚に襲われた。身長は163cmと日本人の平均を下回るが、太い首と異常なまでに盛り上がった肩まわり、そしてタイヤのような密度を感じる隆起した分厚い体。爛々とした好戦的な瞳で見つめられ握手をすると、いつ引っこ抜かれて床に叩きつけられてもおかしくないと思ってしまう。もちろん、そんなことはなくKIDはフランクに優しい笑顔で接してくれるのだが、肉体には素人でも分かるぐらいの凶暴性が潜んでいるように思えた。とにかく実体以上にKIDは大きく見えるのだ。

【写真】子どものために髭を伸ばした山本KID

「ヤバい、カッコ良すぎる、オレ」

 格闘技マンガ『グラップラー刃牙』の作者である板垣恵介氏は、KIDの鍛え抜かれた肉体を「セクシーを超えて獰猛に見える。スポーツカーやレース用のバイクがカッコいいと思うのと同じように、機能的に研ぎ澄まされている」と語っていた。つまり肉体に説得力があり、言葉を持っている。ゆえにKIDの発言は、多くを語らずとも誰をも魅了する力があった。

 2006年5月、格闘技イベント『HERO’S』において元五輪代表のレスラーである宮田和幸を跳び膝蹴りにより開始わずか4秒でKOした際、KIDはリング上で「ヤバい、カッコ良すぎる、オレ」と自画自賛をした。とんでもない上から発言だと思うが、衝撃ともいえる試合内容によりこれが見事にハマり、KIDのカリスマ性を高めるに至った。

 また自ら「格闘技の神様の子……神の子」と言って物議を醸したこともあったが、あのインパクトは今も忘れられない。

 切れのある言葉についてKIDは「ボキャブラリーがないからいつもどうしようかなって。だから短めに」と笑っていたが、その体の中から出てくるような言葉は、彼という存在をより輝かせた。

「僕は勉強よりもっと大変なことをやってきた」

 記録より記憶に残る選手だったことは間違いない。ただ格闘技エリートとして多くの実績を残しているのも確かだ。1972年ミュンヘン五輪レスリング日本代表だった父親の郁榮氏の影響で、KIDは幼稚園のときからレスリングを始めた。幼稚園から中学生まで試合においては2回しか負けておらず、高校時代はアメリカのアリゾナ州に留学し州のチャンピオンに君臨した。そして山梨学院大時代はインカレで優勝を遂げ、プロ格闘技の世界でもいくつものタイトルを獲得している。ただ惜しむらくは山本家の夢であったオリンピックに出場できなかったことだ。

 才能はもちろん、気質として、どんな事であってもKIDの目標を設定したときの努力と集中力は半端ではなかったという。以前、郁榮氏は、以下のような幼少期のエピソードを教えてくれた。

「あまり勉強をしない子でね。それが突然小学校6年生のときに受験をしたいから塾へ行かせてくれと言ったんです。家から近く帰ってすぐレスリングの練習ができるという理由で桐蔭学園中学を受けたいと。桐蔭といえば進学校ですから無理だと思ったんです。けど、息子はレスリングの練習を少し休んで1年間、朝から晩まで勉強して受かっちゃったんです。遊びたい盛りだというのに、本当にビックリしてねえ。で、息子が卒業式のとき登壇し“6年間を振り返って”という話をすることになり、『この6年間は、ずっと息の上がるような厳しいレスリングの練習をしてきました。入試のために6年のときから塾にいくようになり、まわりは“勉強大変だろう?”と言うのですが、僕はもっと大変なことをやってきた。勉強は息が上がらないからキツイことありませんでした』と言ったんですよ(笑)」

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最終更新:9/23(日) 0:54
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