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【ニューエンタメ書評】須賀しのぶ『夏空白花』柴田よしき『チェンジ!』ほか

9/25(火) 8:00配信

Book Bang

平成最後の夏、さまざまな“チーム”のドラマがありました。
夏の終わりに読みたい、胸が熱くなる6作品をご紹介します。

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 今年の夏は暑かった! 「高温注意」「屋外での運動はやめましょう」などというテロップが高校野球中継の画面に表示されるシュールさと来たら! そろそろ高校野球も、開催時期をずらすか開催地をドーム球場にするか真面目に検討すべきではないか──という声は毎年あがる。伝統あるイベントは総じて柔軟な対応が不得手なものだが、やってやれないことはないんじゃないかな。だって高校野球には熱意が現状を変えた前例があるから。

 須賀しのぶ『夏空白花』(ポプラ社)は、昭和二十年八月の終戦直後から、高校(当時は旧制中学)野球復活に向けて尽力した人々の物語だ。

 戦時中、野球は敵性スポーツとされ、甲子園大会も中断された。戦争が終わった翌日、学生野球の重鎮が朝日新聞大阪本社を訪ねて「甲子園を復活させよう」と提案する。早急に子どもたちの心を立て直さなくちゃならない、と。今日食べるものもなく、明日どうなるかわからない、道具は焼けてしまい、そもそも四年間の中断で子どもたちも野球をきちんとプレーしたことがない。こんな中での復活は無理だろうと記者の神住は考えるが、あることをきっかけに、彼は甲子園大会を復活させるべく走り回ることになる。

 神住と彼の周辺のドラマはフィクションだが、他はすべて史実である。野球に対する多くの人の熱い思いに感動する一方で、GHQが学生野球に冷淡だった一幕が胸に刺さった。楽しいものであるはずのスポーツをなぜ日本人は修行僧のように行うのか。なぜ技術も未熟な子どもの野球に、日本人はあそこまで熱中するのか。

 高校野球が開催されることは平和の象徴である。だが同時に最も軍国主義的なものが残っているのが、野球を始めとするスポーツの世界かもしれない。本書はただの感動物語ではなく、大きな問題提起を孕んでいる。これは大人の責任を問う一冊だ。

 野球といえばつきものなのが吹奏楽部の応援だが、吹奏楽にも野球の甲子園に匹敵する全日本吹奏楽コンクールがある。実はこれも夏の高校野球と同じ朝日新聞社の主催で、やはり戦時中は中断された歴史を持つ。

 額賀澪『風に恋う』(文藝春秋)はこのコンクールを目指す高校の吹奏楽部の物語だ。主人公の茶園基は小学生の時にテレビで特集された地元の高校、千間学院の吹奏楽部に憧れてサックスを始めた。だが進学した千間学院はかつてのような強豪校ではなくなり、見る影もない。けれどそこに、全盛期のOBである不破瑛太郎がコーチとして現れ、なんと一年生の基を部長に任命した……。

 彼らは全国大会への予選を勝ち抜けるのか、というのが物語の主線だが、実は本書のテーマは「高校生にとっての部活のあり方」にある。不破は千間学院吹奏楽部の黄金時代のひとりとして、悔いのない高校生活を送った。しかしその後、吹奏楽以外の生き方を知らないことに気づく。その経験から、吹奏楽に傾倒するあまり勉強が疎かになる生徒や、逆に受験のために部活を辞める生徒への対応に悩むのである。

 これは作中にも登場する言葉「ブラック部活」についての物語と言ってもいい。高校野球と同じだ。頑張ることが正義になる。その視野の狭さが最も危険なのだ。野球の『夏空白花』と吹奏楽の『風に恋う』に、近いテーマが内包されていたのは決して偶然ではない。これもまた、子どもたちのために大人が考えていかなくてはいけない問題なのである。

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最終更新:9/25(火) 8:00
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