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宇佐美定満~主君・上杉謙信のために湖中に沈んだ伝説のナンバー2

10/12(金) 12:15配信

PHP Online 衆知(歴史街道)

乱れきっていた戦国時代の越後

※本稿は、童門冬二著『戦国武将に学ぶ 名補佐役の条件』より一部を抜粋編集したものです。

上杉謙信は、のちに、いまでいえば新潟県、富山県、石川県、それに長野県の一部まで領地とするような戦国大名になるが、若いころはいろいろと苦労した。それは、これらの国々の中に、小さな豪族がたくさんいて、なかなかまとまらなかったからである。それもまた厄介な分立状況で、飛び抜けた豪族がなく、これらの国々をまとめられるという実力者がいなかった。そのためにこれらの豪族は、誰か力のある大名の下について、自分の安泰をはかろうとしたのである。そういう意味では、彼らは「地域のトップ捜し」に狂奔していたといえる。戦国豪族の多くはろくに字も読めないし、また自分の名も書けないような人物が多かった。それだけに、一致して考えるのは、次のような条件である。

・家柄がいいこと
・名誉職に就いていること
・財力があること
・自分たちの持っている領地を保証してくれる能力があること

などである。現代に即していえば、よく政治家が選挙のときにいう「地盤・看板・鞄」の三つのことだ。地盤というのは、地域に根を張った実力のことであり、看板は名誉であり、鞄は財力であることはいうまでもない。だから戦国時代も、多くの豪族たちが求めるものは、現代とあまり変わっていないといえる。

若い日の上杉謙信は、これらの「三つのバン」をなんとかして手に入れて、これら小豪族たちを取りまとめようと苦心していた。彼の敵は外にもあったが、それ以上に彼を苦しませたのは親戚である。まだ上杉という姓に変えない前の彼の家は長尾といった。が、この長尾という姓を持つ豪族が、たくさんいた。そして、互いに争っていた。一族の中で誰かが飛び抜けることを嫌って、いつも足を引っ張りあう。武力を行使する。別に他人をおとしめたからといって、自分のポストがあがるわけではないのだが、他人を引きずり下ろすと、自分が何か偉くなったような錯覚を起こすらしい。こういうドロドロとした争いがずっと続いていた。

なかでも、越後の上田庄坂戸の城主、長尾政景は、そういう野望に満ちた豪族であった。上杉謙信とは親戚になる。というのは、謙信の姉である綾子を妻にしていたからだ。また、なかなか武勇の誉れ高い武将だった。この長尾政景と、謙信の姉綾子との間に生まれた景勝は、のちに謙信の養子になり、さらに謙信の跡を継いで上杉家の二代目の当主になる。名参謀直江山城守兼続と組んで、徳川家康をキリキリ舞いさせたことは有名だ。

勇猛だったのは、何も坂戸城主の政景だけではなかった。当時上田一帯の武士たちは「上田衆」と呼ばれて、越後の国でも勇猛をもって鳴り響いていた。したがって、この主人と家臣が一体となった上田軍団は、越後の国内でも無敵の名をほしいままにしていた。それだけに、長尾政景の自信も人一倍強かった。彼は、若い上杉謙信の下風に立つのを嫌った。そして、
「おれが長尾家の当主になって、この国を統一したい」
とかねがね思っていた。こういう野望は、いくら隠しても態度に出る。まして、政景は自信いっぱいの男だから、あまり隠さない。噂がちらほら流れはじめた。

これをきいて心配したのが、上杉謙信のそばで仕える家臣の宇佐美定満(定行)であった。定満は、この噂をきくと、
(あの政景様なら、やりかねない)
と思った。そこで、すぐ謙信のところに行って、
「こういう噂があります。政景殿をなんとか始末しないと、いまにえらいことになります」
といった。謙信は疑うような表情をして、
「馬鹿なことをいうな。あの政景殿がそんなことをするわけがない。政景殿は、おれの姉の夫だ。つまりおれの義兄にあたる。そういう立場の人が、そんな馬鹿なことをするはずがない。おれはあの人を信じている」
といった。

小さいときからお寺に入ったりして、宗教心の厚い謙信のことである。宇佐美定満は、そのことをよく知っていた。だから謙信の魂はきれいであり、容易に人を疑わないことも知っていた。しかし、同時に、長尾政景が持っている野望も事実だろうということを定行は疑わなかった。

定満は、謙信の前から退がると、ひとりで考えた。
(放っておけば、越後の国はえらいことになる。長尾家でゴタゴタが起これば、虎視眈眈とねらっている油断も隙もならない豪族たちが、すぐまた反乱を起こす。そうなると、越後の国は乱れに乱れてしまう)
なんとかいい方法はないだろうか、と彼は考え続けた。やがて深夜、彼はひとつの決意をした。それは、
(おれが、謙信様に殉じよう)
ということであった。つまり、自分の身を犠牲にして、上杉謙信の安泰をはかろうということである。

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