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日米貿易戦争は回避?米国と全面衝突は中国のみか

10/12(金) 12:16配信

Wedge

 9月の国連総会に際して、日米首脳会談が開催された。日本の貿易赤字を問題視し、たびたび強硬な発言をしてきたトランプ大統領に対し、日本側として如何に踏みとどまることができるか注目されたが、「日米物品協定」(TAG)締結に向けた交渉を開始するということで、先送りに近い形となった。首脳会談において発せられた共同声明は、日本外務省の発表によれば以下の通り。

1. 2018年9月26日のニューヨークにおける日米首脳会談の機会に、我々、安倍晋三内閣総理大臣とドナルド・J・トランプ大統領は、両国経済があわせて世界のGDPの約3割を占めることを認識しつつ、日米間の強力かつ安定的で互恵的な貿易・経済関係の重要性を確認した。大統領は、相互的な貿易の重要性、また、日本や他の国々との貿易赤字を削減することの重要性を強調した。総理大臣は,自由で公正なルールに基づく貿易の重要性を強調した。

2. この背景のもと、我々は、更なる具体的手段をとることも含め、日米間の貿易・投資を互恵的な形で更に拡大すること、また、世界経済の自由で公正かつ開かれた発展を実現することへの決意を再確認した。

3. 日米両国は、所要の国内調整を経た後に、日米物品貿易協定(TAG)について、また、他の重要な分野(サービスを含む)で早期に結果を生じ得るものについても、交渉を開始する。

4. 日米両国はまた、上記の協定の議論の完了の後に、他の貿易・投資の事項についても交渉を行うこととする。

5. 上記協定は、双方の利益となることを目指すものであり、交渉を行うに当たっては、日米両国は以下の他方の政府の立場を尊重する。

-日本としては農林水産品について、過去の経済連携協定で約束した市場 アクセスの譲許内容が最大限であること。

-米国としては自動車について、市場アクセスの交渉結果が米国の自動車産業の製造及び雇用の増加を目指すものであること。

6. 日米両国は、第三国の非市場志向型の政策や慣行から日米両国の企業と労働者をより良く守るための協力を強化する。したがって我々は、WTO改革、電子商取引の議論を促進するとともに,知的財産の収奪、強制的技術移転、貿易歪曲的な産業補助金、国有企業によって創り出される歪曲化及び過剰生産を含む不公正な貿易慣行に対処するため、日米、また日米欧三極の協力を通じて、緊密に作業していく。

7. 日米両国は上記について信頼関係に基づき議論を行うこととし、その協議が行われている間,本共同声明の精神に反する行動を取らない。また、他の関税関連問題の早期解決に努める。

  今般の首脳会談で決まったことは、TAGという新たな協定への交渉を開始し、その交渉をしている間は、報復関税のようなことは慎むということである。この構図は、7月の米国とEUとの間の合意を想起させる。米=EU合意も、「大掛かりな貿易協定の交渉」(関税ゼロ、非関税障壁ゼロ、自動車産業以外の製品への補助金ゼロを目指す)で双方が合意し、交渉期間中は関税戦争をしないとする内容であった。米国からのLNGの輸入を拡大することで合意した点も、日米、米欧で共通している。

 新たな交渉を開始するということでトランプのメンツが立ち、中間選挙に向けたアピールができた一方、日本側としても、受け入れることのできないFTAではなくサービス貿易や投資などを除いたTAGに落ち着いたこと、また、農産品の関税についてはTPPで合意済みの水準を限度(上記共同声明中「日本としては農林水産品について、過去の経済連携協定で約束した市場 アクセスの譲許内容が最大限」とある)とすることができた。なお、トランプが貿易赤字について言及する際はreciprocal(相互主義的な)という語を使うのが常であるが、共同声明ではmutually beneficial(互恵的な)という語を使っている。まだ楽観視はできないが、態度の軟化を示しているかもしれない。

 通商をめぐるトランプ政権の大きな立場は、次第に明確になりつつあるように思われる。米国は、日欧とは全面衝突を回避し、NAFTA見直しをめぐってもメキシコに続いて9月30日にカナダとの間でも合意した。今や、大きな経済ブロックで、米国と真正面から衝突しているのは中国だけと言える。米国は「経済戦争」の対象を中国に絞ったと見てよいのであろう。上記共同声明の第6パラグラフは、非市場志向型の政策や慣行、知的財産の収奪、強制的技術移転、補助金等を挙げているが、当然これは中国が念頭にあるものと思われる。ルールに基づいて中国の不当な行為を正していくのが本来あるべき姿である。しかし、そうではなく、むき出しのパワーの衝突という形で、通商分野においても米中対立が進む可能性がある。世界は、その余波を受ける覚悟をする必要があるのかもしれない。

岡崎研究所

最終更新:10/12(金) 12:16
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