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書評『新・贈与論』:お金の役割を問い直す

10/12(金) 15:26配信

オルタナ

『新・贈与論 ――お金との付き合い方で社会が変わる! 』(林公則著、コモンズ)

お年玉をもらって「無駄遣いしないように貯金しなさい」と言われたことは誰しもあるだろう。だが、銀行に預けることは、本当に良いことなのだろうか。預けたお金がどのように利用されているのか、考えたことはあるだろうか。本書『新・贈与論 ――お金との付き合い方で社会が変わる! 』では、長年ドイツの社会的銀行GLS銀行の研究をしてきた明治学院大学の林公則准教授が、ドイツの事例を挙げながらお金の意味を根本から問い直している。(独ハノーファー=田口理穂)

ドイツのGLS銀行は、1974年の創立当初からESG投資(環境・社会・ガバナンス)をしている社会的銀行だ。GLS銀行はルドルフ・シュタイナー(1861-1925年)の思想に基づいていており、協同組合方式で運営されている。 シュタイナー学校をつくろうと保護者有志が寄付を募ったのがきっかけで、寄付を扱うGLS信託財団が1961年に誕生し、そこからGLS銀行が生まれた。持続可能な社会を目指して銀行業務をしており、融資先をすべて公開しているのが特徴だ。

シュタイナーは日本でも教育分野で知られているが、人智学(アントロポゾフィー)を樹立し、哲学や農業、経済などさまざまな分野で多大な功績を残した。お金や経済活動について考察し、お金がお金を生み出すのはおかしい、パンや車など物は時間が経てば価値が減るのに、お金の価値が減らないのはおかしいと考えた。

さらに、お金の貸与や条件付き贈与でなく、無条件での贈与が人々や社会に大きな可能性をもたらすと提唱した。条件がないときこそ、人は自分の興味と関心により行動し、その人独自の創造性を発揮するからである。人々はそれぞれの役割を社会で担っており、強制でなく各人が自分の分野で活躍する社会が理想だとしていた。

本書ではGLS銀行の理念だけでなく、融資先である団体や会社を紹介している。例えばチェルノブイリの原発事故をきっかけとした反原発運動から生まれた「シェーナウ電力会社」や、有機農場「ドッテンフェルダー」など志を持つ市民グループにとって、事業を開始するための初期の融資がどれだけ大きな意味を持つか分かる。

同銀行はエネルギーや農業、教育など公共の利益に寄与するが、普通の銀行からは支援されない団体や人々に融資しており、昨年は30億ユーロを融資した。本書では当時GLS銀行設立にかかわった人物や、融資を受けた人たちに話を聞き、お金本来の役割が実感として迫ってくる。シュタイナーは条件なしの贈与(寄付)が一番社会を豊かにするが、融資もまた人々の自己実現において役に立つとする。お金についての新しい視点をもたらす本書は、一読の価値ありである。

最終更新:10/12(金) 15:26
オルタナ

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