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【連載 名力士たちの『開眼』】横綱・琴櫻傑將 編 九回二死からの逆転満塁ホームラン!――[その2]

10/12(金) 12:31配信

ベースボール・マガジン社WEB

 果たしてオレは、この大相撲の世界で大成できるのか――。
 周りのライバルたちとはもちろん、自分の心の中に渦巻く不安との闘い。そんな苦しい手探りの中で、「よし、これだっ。こうやったら、オレはこの世界で食っていけるぞ」と確かな手応えを感じ取り、目の前が大きく開ける思いがする一瞬があるはずです。
 一体力士たちは、どうやって暗闇の中で、そのメシのタネを拾ったのか。これは、光を放った名力士たちの物語です。
※平成4~7年『VANVAN相撲界』連載「開眼!! 相撲における[天才]と[閃き]の研究」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

【前回のあらすじ】警察官だった父の反対を押し切り、鳥取から角界入りした琴櫻。順風満帆な出世を続けたが、幕下時代にどうしても勝てない力士が目の前に立ちはだかった。新十両優勝時も敗れたが翌場所、思い切りのいいぶちかましで宿敵を突破する――

日の出の勢いから十両へ転落

 そのときは、大損した、と思っても、実は得していた、ということが人生にはよくある。

 十両を4場所で通過、一度は幕内の壁に跳ね返されたものの、昭和38年(1963)名古屋場所に再入幕を果たした琴櫻の出世は急ピッチだった。秋場所、前頭9枚目で12勝して敢闘賞を獲得し、次の九州でも、東の筆頭で8勝7敗と勝ち越して殊勲賞を受賞している。そして、琴櫻の力士生活の中で大きな試練の場所となった運命の39年初場所を迎えた。

 この場所、小結に昇進した琴櫻は、序盤の5日間を3勝2敗と上々の成績で乗り切り、6日目の相手は横綱柏戸だった。前場所の2日目、横綱初チャレンジ戦では一蹴されているが、生きのよさが売り物だけに怖い者知らず。この日も、琴櫻は頭から突っ込んでいった。

 しかし、相手の柏戸も、横綱になって2年目の元気盛り。これをなんなく受け止めるとたちまちモロ差しになり、得意の出足を生かして一気に寄って出た。もうこうなると、勝負は柏戸のもの。だれもが横綱の楽勝を予想し、気の早い観客は腰を浮かせて帰り支度を始めた。

 ところが、琴櫻は土俵に詰まり、おしりが土俵につかんばかりになりながらも必死に抵抗し、左に打っ棄ったのだ。このまさかの粘りで柏戸の左足が俵の外に飛び出し、同時に琴櫻もいったん座るようにして崩れ落ち、その拍子に、足元から、

「ボキッ!」

 という体中から戦慄が走るような、なんともいえないイヤな音が聞こえた。庄之助の軍配は琴櫻に上がり、すぐ物言い。協議の末、柏戸の足が飛び出したとき、すでに琴櫻の体は死に体だった、と判定されて「行司差し違い」で柏戸の勝ち、となったが、たとえ同体で取り直しになっていても、琴櫻に勝機はなかった。

 というのも、土俵に倒れた琴櫻は右足の感覚が麻痺して自分では立てず、救急車で上野・池之端の「金井整形外科」に運ばれて、右足踵の骨折、右ヒザ脱臼で全治3カ月、と診断され、そのまま同病院に入院する羽目になってしまったからだ。

 このため、琴櫻は、翌日から休場となり、次の春場所も全休。4カ月後の夏場所、やっと廻しを締められるようになったが、まだ右足にはまるで力が入らない状態で、この場所も5勝10敗と大敗。当時はまだ公傷制が確立されていなかったこともあって、琴櫻はあっという間に、日の出の勢いの新小結から幕内を滑り落ち、3度目の十両生活を経験することになった。

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