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中国で出版された「トンデモ本」の数々

10/12(金) 12:24配信

Wedge

巨大なプロパガンダ国家の中国では、共産党中央宣伝部によるメディアを総動員しての教育・洗脳・宣伝工作は一貫して続く。習近平世代も、そして次世代も、次々世代も、共産党独裁政権が続く限り止むことはないだろう。児童・青少年を標的とする出版物を読み、習近平世代以降の中国指導層の”柔らかかった脳”に刻み込まれた思想を探り、彼ら権力者の振る舞いの根源を解読したいと思う。

 プロパガンダの戦いでもあった文革において、毛沢東派は劉少奇派を“圧倒的に圧倒”した。新聞、雑誌、単行本、児童書、絵本などの印刷物、京劇や地方劇などの演劇、相声(おわらい)や説書・評書(語り物)などの大衆芸能……ありとあらゆるメディアを総動員しての絨毯爆撃である。毛沢東思想が「百戦百勝(絶対不敗)」であることを全土に向けて宣伝し、老若男女にかかわらず全国民を教育し洗脳しようと仕掛けた毛沢東派の大攻勢は、遂には医療・健康から料理、さらにはミシン修理にまで及んだ。

毛沢東思想なくして「医学の進歩」はありえない?

 毛沢東が「偉大な勝利の大会」と自画自賛し文革の勝利を総括した中国共産党第9回全国代表大会が開かれた1969年、『快速針刺療法』(人民解放軍空軍潘陽医院 人民衛生出版社)が出版されている。

「海は沸き立ち、山は喜び笑う。中国億万軍民は激情のうちに中国共産党第9回全国代表大会の開催を寿ぎ祝う。我われの心の中にある限りなく紅い太陽である毛主席の万寿無窮を千遍歓呼し、万編歌い慶祝する」と異様なまでに興奮した調子で書き出された「出版説明」は、「2年余のプロレタリア文化大革命の戦いを経て、医薬衛生戦線における革命派は毛沢東思想を高く掲げて反徒・内奸・労働匪賊である劉少奇の反革命修正主義医薬衛生路線を激烈に批判し、毛主席の『医療工作の重点を農村に置け』という指示を固く守り、労働者・貧農下層中農のために奉仕する。医療技術の統帥に当たっても毛沢東思想に学び、ブルジョワ階級による外来の教条主義、古い枠を大胆に打破し、医学史上空前の奇跡を永続的に創りだす」と続ける。

 毛沢東思想を活学活用したことで、従来には見られなかった無痛・無刺激の画期的な「快速針刺療法」が考え出されたというのだから、まさに医学も政治であり、毛沢東思想がなかったなら医学の進歩はありえないとでも言いたげである。

 この“文革式針治療”に関する技術解説書の巻末には、毛沢東思想によって「大衆の病気を全治させることができた」という「典型的な治療実例」が示されている。

「精神分裂の治療例」で示されている「潘さん、女、46歳」だが、彼女は「夫の突然死によって精神に変調を来たし『精神分裂症』となった。泣いたり笑ったりで家事も不可能」。そこで「毛沢東思想によって潘おばさんの頭脳を武装したあと」、直ちに針刺治療を施した結果、現在に至るまでずっと安定しているとのことだ。

 この本は「我われは共に心の中の限りなく紅い太陽、我われの最も敬愛する偉大な領袖である毛主席の万寿無窮(バンバンザイ)を、偉大なる領袖毛主席の親密な戦友である林副主席の永遠なる健康を共に強く祈りたい」と、医学書らしからぬ高揚感で結ばれる。

 ところが、である。この本の出版前後から「偉大なる領袖毛主席」との間で最高権力をめぐる暗闘が始まり、「親密な戦友林副主席」は敗北した果てに1971年9月にモンゴル領内で謎の死を遂げてしまったのである。

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最終更新:10/12(金) 12:24
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