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痛恨のお漏らしを「排泄予測デバイス」に結実させた男の執念

10/12(金) 6:01配信

ダイヤモンド・オンライン

 5年前の2013年、中西敦士は30歳を目前にして、道端で大便を漏らした。米カリフォルニア大学バークレー校留学中のことだった。

 その日、引っ越し先に徒歩で荷物を運んでいた。前日のキムチ鍋と当日朝の辛口ラーメンが腹を刺激し、急な便意に襲われた。押し寄せる便意の波を何度か乗り切るも、抵抗むなしくズボンをはいたまま便が解き放たれてしまった。

 「大人になって漏らすなんて……」。ショックから立ち直れずにいると、高齢化社会に突入した日本でメーカーの大人用おむつの売上高が子供用を上回ったことを報じる記事を目にする。

 自分だけじゃなかった。いつ排泄するのかが分かれば幸せになる人は多いはず──。調べてみても、排泄前の尿意や便意、排泄のタイミングに着目した研究開発はほとんどなされていなかった。

 子供のころから起業家になりたかった。大学卒業後に会社勤めを経て、青年海外協力隊に参加。その後にビジネスを学ぶために米国へ留学した。そこでのお漏らし体験から事業化のテーマが決まった。ベンチャーキャピタルでのインターンを終えて14年5月、排泄を予測するデバイスを開発する会社を米国で立ち上げた。

● 「漏らしたくない」思いが 惑う同世代を巻き込んだ

 慶應義塾大学商学部卒業の文系男子。コンサルティング会社勤務時代にヘルスケア事業の立ち上げなどに携わったが、技術者ではない。便がたまる場所が分かれば排便のタイミングも分かるだろうという感覚で、妊婦健診で胎児の様子を診る超音波診断装置を小型化して身に着ける発想が浮かんだ。

 一人でやれるのはそこまでだ。

 超音波で腸内の便のたまり具合を測定、排泄時間を記録し、排泄のタイミングを学習する。この繰り返しでタイミングの正確性を高めていくことになる。実験や試作を経て商品化していくには、専門的な知識を持つ人材や資金が必要だった。

 そこで、内視鏡大手での開発経験を持つ、学生時代の親友を巻き込んだ。中西が米国でビジネス化に奔走する一方、親友は協力者たちと日本で実験を進めた。

 日本のチームは自らを実験台にした。親友は直腸の位置を画像で把握するために自分の肛門にソーセージを挿すなど、まさに体を張った。無給のボランティアにもかかわらずだ。

 資金を出してくれる友人もいた。なぜ彼らは協力したのか。自身がそれほど魅力のある、信頼するに足る人物なのかと中西に問うと、「私というより、テーマ性だろう」と返してきた。

 「漏らしたくない」といった排泄の悩みを解決すること。さらに言えば、世界中が正解を出せずにいる「社会保障の最適化」という社会問題を技術で解決するテーマに、周囲が引き寄せられたというのだ。

 「例えば脳梗塞のリハビリにも使ってほしくて」と中西。脳梗塞後は要介護になりやすい。自力の排泄がこれを減らし、社会保障の最適化につながると説く。

 周囲の協力は「年齢的なものもあったのかな」とも言う。30歳前後は勤務先でのキャリアが見え始め、結婚の決意を固める前であることが多い。このまま流れに乗るか、新たな挑戦をするか。友人たちも思いを巡らせる時期だった。

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