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漫画『はたらく細胞』なら、本庶佑博士のノーベル賞受賞テーマも理解できる

10/21(日) 6:00配信

ダイヤモンド・オンライン

 【おとなの漫画評 vol.7】 
『はたらく細胞』清水茜
既刊5巻 2018年10月現在 講談社

 『はたらく細胞BLACK』初嘉屋一生、原田重光原作、清水茜監修
既刊2巻 2018年10月現在 講談社

 コミックス(単行本)を店頭で見たとき、「はたらく自動車」のようなタイトルだから、おそらく細胞の機能をやさしく説明した小学生向けの教育漫画だろうと思っていた。しかし実際は、免疫系の細胞を擬人化した物語で、おとなが読んでも分子生物学の勉強になる。講談社の「月刊少年シリウス」で2015年3月号から連載しているそうだから、この雑誌の性格からしてSFファンタジー系の物語なのだ。

 細胞の擬人化はおそらくこれまでも漫画作品にあったような気がする。『火の鳥』のどこかで手塚治虫も細胞や遺伝子を擬人化していたかもしれない。

 しかし、本作に独自性があるのは、免疫系の細胞が人間そのものとして描かれている点だろう。擬人というより、人間そのものなのだ。ただし、姓名はない。細胞名だけである。

● 主人公は宅配便少女の「赤血球」 彼女の成長物語が軸に

 第1巻の冒頭から登場する赤い帽子とジャケットの宅配便少女が赤血球で、この物語の主人公の1人だ。このかわいらしい少女が酸素を運ぶ赤血球の機能を十分に発揮できるようになる成長物語が軸になっている。

 免疫系は、分子生物学と医学の主要な舞台でもあり、現実世界でも数々のドラマが生まれている。今年のノーベル賞受賞テーマもそうだ。

 免疫系にはT細胞(リンパ球)の機能を抑制する「免疫チェックポイント機構」がある。どうして抑制する必要があるかというと、リウマチなどの自己免疫疾患を抑えるためだ。ところが、がん細胞の増殖に対するT細胞の働きも抑えてしまう。この「免疫チェックポイント機構」を阻害する薬剤があれば、免疫を抑制するメカニズムが解除されて、がん細胞をたたく機能が飛躍的に増強されることになる。2018年のノーベル医学・生理学賞を受賞した本庶佑氏は、このメカニズムの解明と薬剤の開発が評価されたのだ。

 細胞は生命の単位であり、本作によるとヒトは37兆2000億個の細胞で構成されているそうだ。そのうち赤血球が26兆個を占めている。酸素を運搬し、人体のあらゆる組織、器官に供給しているのだから重要だ。

 体内に侵入する細菌やウイルスなどの「他者」を認識し、排除するために登場する白血球の数は110億個しかないのだという。本作の主人公、赤血球少女を冒頭で救う白血球は、若干狂気をはらんだ青年労働者として描かれていて面白い。やみくもに「他者」を追い、時に食いちぎって血まみれになる。白血球の機能は獰猛だというわけである。

 単行本第5巻ではアレルギーの仕組みが語られている。マスト細胞(肥満細胞)は、アレルゲンに対抗する免疫グロブリンに反応してヒスタミンなどの化学的伝達物質を分泌し、血管を広げる。ところがヒスタミンは正常な細胞にも作用してアレルギー症状を起こしてしまう。

 ここでマスト細胞は、ときどきヒステリーを起こす若いお姉さんとして描かれている。白衣の美女だが、ときどきヒスタミンを過剰に流して細胞たちを困らせる。

● スピンアウトした作品も続々 『BLACK』ではボロボロの体が舞台に

 『はたらく細胞』は今のところ免疫系の物語だが、膨大な細胞が機能しているわけだから、テーマは無限にある。これから美少女や美少年の細胞が次々に登場してくるだろう。「他者」である細菌やウイルスも多種多様で、本作では怪獣というか、異形の化け物として描かれ、人間型の細胞と対比されている。

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