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マンチェスター・シティと偽サイドバックとメンディ。 ペップの戦術探求は終わらない

10/23(火) 23:04配信

footballista

勝ち点100でプレミアを独走した昨季、一方でCLでは16強止まりの前年に続いて準々決勝で涙を呑んだ。自身10-11以来の欧州制覇を目指すシティ3年目、稀代の名将の次なる「革新」には、“ほぼ新戦力”の左SBが大いに関わっている。


文 結城康平


 スペインとバルセロナのフットボールを根本から支えていたポジショナルプレーという原則が、ドイツに輸入されたことを契機に「再解釈」されるようになったことは、現代フットボールにおける分岐点となった。戦術的なパラダイムシフトは、指揮官の世界においても「世代間の格差」を生み、ポジショナルプレーという原則を基盤としたチームがヨーロッパ諸国で増加している。

 “サリーダ・ラボルピアーナ(Salida Lavolpiana)”と呼ばれる、中盤の底に位置する選手が開いたCBの間に下がってくるシステムで「数的優位」を保ったビルドアップを志向し、GKをビルドアップに参加させることで相手のプレッシングを回避。両翼のウイングは積極的にハーフスペースへと侵入し、相手の4バックが対応するのが難しいゾーンを狙った崩しを仕掛ける。現代的なフットボールにおける攻撃方法は、ポジショナルプレーという原則の理解を通して「模倣される」ようになった。そのように自らの戦術を支える原則を明らかにしても、ペップ・グアルディオラの圧倒的な実力は揺らがない。

 完成度を高めたチームは昨季リバプールに敗北した雪辱をモチベーションに、欧州の舞台でも躍進を狙う。彼はバイエルン時代から相性の悪いユルゲン・クロップ、宿敵と位置づけられるジョゼ・モウリーニョと競い合いながら、プレミアリーグというハイレベルな戦場を最高の「実験室」に変えようと企んでいる。

■偽SBの採用から見えるペップの特異性

 グアルディオラの特異な能力は、おそらく圧倒的な「革新への意志」にある。ポジショナルプレーを一つの基盤として、「1トップが中盤の位置まで下がってくることで、中盤に数的優位を生み出す“ゼロトップ”」や「SBが中央のスペースに移動することで、組み立て時に中央を厚くする“偽SB”」をチームの戦術に組み込んだ実績を有するグアルディオラだが、そうした試みが常に効果を発揮するわけではない。

 リオネル・メッシの能力を最大限に発揮しつつスペースを守ろうとするCBに迷いを生み出したゼロトップは最高の成功例であったものの、偽SBは「実験」としてのスタートに近かった。特にサニャ(現モントリオール・インパクト/カナダ)やクリシ(現バシャクシェヒル/トルコ)が偽SBに起用されたマンチェスター・シティ1年目のシーズンは、選手が適応に戸惑う場面も多かった。カウンターの局面におけるリスク管理になった一面もあるが、中央でポゼッションに絡むような動きには慣れておらず、円滑化には繋がらなかったのも事実だ。逆にサイドからのカウンターに脆いこともあり、諸刃の剣となってしまった。

 前任地のバイエルンではアラバが「ハーフスペースにアンダーラップする形」を多用していたが、彼はユップ・ハインケス時代から偽SB的な起用に慣れていた。さらに、もともと中盤もこなせるマルチロール。偽SBは選手に求められるハードルが高いという問題も影響し、採用するチームは少なかった。しかし偽SBを諦めるかと思われていたグアルディオラは、シティ2年目のシーズンに改善を施す。本職MFのデルフを左SBとして使いながら、左右不均等の形に選手を配置することで、幅を出せないという問題を解決したのだ。

 デルフ起用時は、縦パスを受ける位置にダビド・シルバやデ・ブルイネを置き、左サイドの外のレーンはサネが担当。スピードに優れたアタッカーは1対1の局面で積極的に縦に突破する動きを繰り返すことで、SBが幅を取れないシステムを補完した。逆サイドでは、右SBのウォーカーが3バックの一角に近いポジションで組み立てに参加する動きと、外のレーンをオーバーラップする動きを状況に合わせて柔軟に使い分ける。偽SBというシステムを、11人のシステムと選手の特性に合わせて組み直したグアルディオラの能力こそ、ポジショナルプレーの解釈に支えられた特異な武器なのだろう。他の指揮官が「偽SBのアイディア」を取り入れることに興味を持っている間に、彼はトライ&エラーを繰り返していく。そして、SBを中盤に動かす形が機能しないと把握すれば、「中盤をSBに置く」という思考の転換によって状況を一変させる。

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最終更新:10/24(水) 10:41
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