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トルコ・エルドアンの困難な選択

10/28(日) 12:11配信

Wedge

 トルコは中東の大国であるが、現在、通貨リラ不安をはじめとする経済問題、米国、ロシア、シリア、EUとの関係などで、困難な選択に直面している。

 まず、経済情勢については、奇跡的に小康状態を保っている。トルコのロシア接近、イラン制裁違反、米国人牧師アンドルー・ブランソンの拘束に怒った米国による経済制裁が、この経済不安の大きな引き金となった。しかし、9月に中銀が大幅な利上げに踏み切ったことによりリラは持ち直している。リラ下落により輸出は大きく伸び、輸入は大きく縮小、経常収支は黒字に向かっているとの報道もある。政府は大型インフラ計画の中止を発表した。しかしインフレは進行している。基本的な問題は解決していない。

 米国との関係では、10月12日のアンドルー・ブランソン氏の解放は一つの進展ではある。ブランソン氏は2016年のクーデター未遂事件に関与して拘束され、米国がその解放を強く求めていた。ただ、本件だけで米国とトルコの関係が一気に改善されるとは考え難い。イラン制裁、クルド人への対応(米国はクルド人支持、トルコ政府は反クルド)、クーデター未遂に関与したとされるギュレン師のトルコへの引き渡し問題など、難問は山積している。エルドアンは、ロシア、中国、EUとの間で反トランプ同盟を目指しているとの指摘もある。

 ロシアとの関係でも、問題がないわけではない。シリア内戦では、お互いに反対側に立って介入を始めた(トルコは反乱軍を支持、ロシアはアサド支持)が、プーチンがアサド支援の空爆を開始して以後トルコはロシアに接近し始めた。プーチンの了解を得て初めてエルドアンはシリア北西部をトルコの保護地域にすることが出来た。その基本的な目的はシリア国土の4分の1を支配し米国の支援を受けるクルド勢力に対抗することだった。その矛盾がいつ露呈するか分からない。

 シリアのイドリブ県(反乱軍最後の砦)への攻撃は、エルドアンとプーチンのソチ合意により今は何とか抑えられている。しかし、イドリブはエルドアンにとり引き続き深刻な問題である。イドリブが流血の大惨事になれば、トルコは共犯者とみなされ、2015-16年のようにジハード勢力による報復テロに見舞われることになるだろう。他方クルド勢力は掌握した領域を確実にすべくアサドと話し合いをする構えを見せている。

 エルドアンは最近訪独し、EUとの関係修復を試みた。エルドアンは欧州からの投資やEUの支援(トルコは350万の難民を受け入れている)を期待している。更にエルドアンは外交的緊張の緩和を狙っている。エルドアンにとっては、EUとの連携強化に努めるとともに、政権の改革を進めることが望ましいように思われる。

 そして今、中東を揺るがすような事件が起きている。サウジ・アラビアの政治を批判してきた同国ジャーナリストのジャマル・カショギが行方不明になっている事件である。エルドアンも、同氏の行方不明には当惑させられると述べている。トルコ当局は同氏が在イスタンブール・サウジ総領事館で殺害されたとの見方をしており、サウジ側に説明を求めているという。事実であれば、強権化するサウジのムハマッド皇太子の政治自体が問題とされるだろう。トルコ・サウジ関係も緊張を増し、更に皇太子を支援してきたトランプ外交の問題にもなる。

 トルコの治世は、本来的に難しいものである。この点は同情を禁じ得ない。トルコは、イスラムであるがアラブではない。アラブとは微妙な関係を運命づけられた国(孤立したともいえる国)である。栄光の歴史と文化を持つ中東の大国なのだが、アラブのような所与の同盟グループは存在しない。常に流動的である。NATOの一員ではあるものの、欧州の一部にはなかなか入れて貰えないなど、複雑な立場に立たされている。

 いずれにせよ、トルコは中東の地政学を占う上でカギとなる国である。トルコが抱える問題をよく吟味し、注視していく必要がある。

岡崎研究所

最終更新:10/28(日) 12:11
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