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11月にかき氷屋を開いて超速閉店。人気の料理研究家は何を学んだのか?<栄光なき起業家たち#2>

2018/11/4(日) 8:40配信

HARBOR BUSINESS Online

「99%のスタートアップは失敗する」

 よく、そんな事が言われます。だから、失敗を恐れずに挑戦すればいいよ、とベンチャーキャピタリストは言うのでしょう。

 しかし、いつだってメディアに出てくるのは、1%の方ばかりです。大抵の「失敗談」すら、きらびやかな成功者の口から語られます。「あんなこともあったけど、大変だったよね」という「今はいい思い出」として。

 しかし、本当の失敗、取り返しの付かないような失敗こそが、一番大きな学びになるはずではないでしょうか?

 本連載は、「成功しなかった起業家」に焦点を当て、何をすべきだったのか、何を学んだのかを聞き取ることで、後に続く起業家に「学び」を残すことを目的としています。

◆「11月にかき氷屋をオープン」

 新井薬師前にあるオフィスで、料理研究家の五十嵐豪さん(@gogoigarashi)に話を伺いました。穏やかで、いつも笑顔を絶やさない人です。

「しかない料理」などを開発し、Twitter のフォロワー数も3万人を超えている大人気の料理研究家ですが、オープンした店舗を2か月で閉店させた、という経験を持っています。

 その理由を聞いたところ「かき氷屋を十一月にオープンしてしまった」からだそうです。

 どう考えても明らかに失敗しそうな、「十一月のかき氷屋」をオープンさせてしまった五十嵐さんは、その失敗から一体何を学んだのでしょうか?

――五十嵐さんは、20歳から料理研究家として活動されていますが、きっかけはなんだったんでしょう。

五十嵐:もともと公認会計士になろうと思って勉強していたんですけど、俺本当に公認会計士やりたいんだっけ、ということで一日だけ考えてみようと思ったときに、わーっとあこがれの職業、かっこいい職業書いていって、バリスタとか、俳優とか、ミュージシャンとか。

――いろいろありますね。

五十嵐:全部やろうと思って。全部やるなら、カフェの中で俺は全部やろうと。

――なるほど、店で演奏したりとか出来ますからね。

五十嵐:ただ、ちょっと料理人は違うなと思った時に、料理研究家という職業を知って。お店もなく、自分のやりたいことを自在にできると。

――ということは、今の職業の出発点もカフェだったんですね。

五十嵐:そうなんですよ。なので、自分の中ではカフェは完了していたんですが。ときどき出てくるんですよ(笑)。

――かき氷屋を開くことになったのは、どういうきっかけだったんでしょうか?

五十嵐:あるレセプションパーティーで、カフェバーをやってるビルオーナーの方と話をしている時に、「僕もカフェ作るのが夢で、今の仕事をやってるんですよね」みたいな話をしたら、「やる?」って思いがけない軽さで言っていただいて(笑)。

何度か打ち合わせして、その方の持っているビルの二階を家具、内装をそのままで、やらせてもらうことになったんです。

――その時は「来た!」って感じだったんでしょうか?

五十嵐:来ましたね(笑)。でも、飲食のオペレーションとか、立地選びとか、内装とか、全然わからないんですよ。これが。意外と料理研究家と飲食店経営者って、遠いんです。

――料理を作る方ですもんね。

五十嵐:しかも、立地が選べる状況でもないので。

 飲食店をスタートする人にとっては、多分立地ってすごく重要な情報だと思うんですけど、僕はそこはもう考えなくて、その場所で何が出来るかしか考えなかったんですよ。しかも人通りが割と少ないところで。

 最初、オープンもなるべく早くしたいし、店も結構狭くて、そんなにキャパシティがないので、どういう業種がいいかなと考えていたんです。でも、たまたまその夏にかき氷をプロデュースする仕事があって、業務用のかき氷機を買ったんですが、全然使わなかったんですね。行き場をなくした業務用のかき氷機があるので、これを使おうと(笑)。

――たまたま来た立地の話と、たまたまおいてあったかき氷機が合体して、かき氷屋さんが出来ちゃったんですね。

五十嵐:そしたら、いろいろ手間取ってるうちにオープンが冬になったんです(笑)

――それにしても、なんでそんなに遅れたんですか?

五十嵐:そもそも、この話があったのが8月だったんですよ。準備して9月か10月に、と思っていたら、11月になってしまって、結局2か月で店を閉めたという話ですね。

◆おカネだけでなく時間や信用力も重要

――そもそも、どんなに頑張っても9月じゃないですか。勝算はあったんですか?

五十嵐:多分、勝算という感覚ではやってなかったんですよね。もともと料理研究家という仕事も、所持金四万円で未経験の時に始めたので、勝算あってやってないんですよ。

 やりながら改善して最適化していくのは得意なんですが、そのための時間とか信用力がまだなかったんですよね。

――小さく始めすぎたということでしょうか?

五十嵐:収容力がもっとあれば、リソースを投下すればリターンがあるんですが、14席くらいの小さな店舗だったんです。営業時間も6時スタートで23時までだったので、そんなに大きく儲けられるわけじゃないんですよね。

 オープンした後に、カレー屋をやってる友達に来てもらったんですけど、後から聞いたら家賃比率も高く、その時点で「あれは厳しいだろう」と思ったらしいです。

――プロから見たら「これは駄目だな」とわかったわけですね。

五十嵐:見えないラインがあるんでしょうね。

――かき氷、利益率は高そうですけどね。

五十嵐:利益率は高いですよ。それから、客単価も、一杯千円位では出してたので、そんなに悪くなかったんですが。人が入るような導線とか、設計ができてれば、かき氷ってかなりいいと思うんですよね。

――今だったらうまくいくんですかね?五十嵐さんの Twitter もフォロワーが増えてきましたし。

五十嵐:うーん、どうかなあ。普通に個人経営なら余裕で暮らせる収益は出てましたが、貸主と目標を決めていたんです。売上月200万円で、家賃を20万円納めるというところだったのですが、売上が2か月目に月に70万円だったんです。

 ただ、キャパシティを考えるとあの場所で月200万円の売上は現実的ではなかったかもしれません。事務所にしたほうがいいよね、ということで貸主と話し合って解散しました。

――立地が変なところに人が集まってるレストランもあるじゃないですか。熱狂的なファンがいるところとか。ああいうところはどうやって集客しているんでしすかね?

五十嵐:知ってもらっているということが重要ですよね。前の店からのファンがいたり、インフルエンサーがブログに書いてくれたり、メディアで取り上げられたり。

 最近は美容室なんかも、奥まった場所にあっても結構集客できるじゃないですか。飲食店でも、しっかりと地に足をつけて集客すればかなり伸びると思います。

◆「人に任せられない仕事」もある

――本業のお仕事をやりながらだと難しかったんでしょうか。

五十嵐:そうですね。六時に仕事を終えて店に向かって、十一時まで働いて帰って、また朝から会社の仕事をする、という形だったので、企画して何かを仕掛けたりする余裕がなかったんです。

 結果として、本業の方も余裕がなくなってしまって、店の方も上手く行かなくなってしまって。スタッフを入れても、全部任せられるわけじゃないですから、結局見ていなければいけないんですよね。

――小さい店舗だと、オーナーが接客もすることになりますよね。

五十嵐:そうですね。でも、友達とか知り合いが来て、話をしていたりすると、アルバイトから「オーナーは私が働いているのに、遊んでばっかりだ」と言われちゃったりね。難しいんです。

――結局、損害はあったんですか?

五十嵐:金銭的な損害はそれほどなかったですね。というより、儲かっていないのを知った貸主の方が家賃を払わなくていい、とおっしゃってくださったんです。総合的に見れば、リターンのほうが大きいですね。貸主の方には本当に感謝しています。

――いい経験、ということですかね。

五十嵐:ネタは一生話し続けられますからね(笑)。こういう話は飲食店の方だったら言いづらいと思うんですけど、私は本業が料理研究家なので、話せるんです。

 それから、経営として飲食を経験したことも、料理研究家としては大きかったです。

――実際にやってみてわかったことはありますか?

五十嵐:事前のリソース注入量は確保しないと駄目だな、というのはよくわかりました。プロモーションも含めて仕込みがものすごく重要なんだな、と。

――もう一回やるとしたらどうしますか?

五十嵐:同じような条件なら、お店のキャパシティをもう一回確認しますね。小さい店舗って、一人で生活していくにはちょうどいいと思うんですよ。ただ、他に任せられる人がいないという状況だと、ちょっとやらないですかね。

 個人事業が推奨の規模があるんだなっていうのはわかりました。投資したものに見合うキャパシティがないと、投資過多になっちゃうか、全然投資が出来ないんです。

――客単価が凄く高いか、ある程度席数が多くないと厳しいんですね。

五十嵐:席数が少ないと、何かしらの付加価値がないと厳しいですよね。そうなると、やっぱりアルバイトの学生にやってもらうわけにはいけないんですよ。私が本業をやりながら、という想定に、そもそも無理があったんです。

 売上的には結構頑張った方ですけど、店をやってる間に会社の案件を進めたほうがいいですよね。想定していたよりも膨大な時間がかかりました。

――他に気がついたことはありますか?

五十嵐:飲食店の採用の難しさですかね。アルバイトの方は紹介してもらったんですが、常勤の方は取れなくて。都内だと本当に採用は大変ですね。

――後輩の起業家や、飲食を志す方にメッセージはありますか?

五十嵐:とりあえず「やってみたほうがいい」とは思います。得るもののほうが多いですから。自分が体験したことのほうが、意見として強いので、それが営業の強みにもなるんです。

 ただ、身の丈に合わない投資をして倒れるのは、少し考えたほうがいいと思います。最近は間貸しの飲食店なんかもあるじゃないですか。夜はバーで、昼間は別の店、みたいな。そういうことを経験してからやったほうがいい。

――リスクの少ないところから経験を積んだほうがいい、と。

五十嵐:儲からなくても絶対にやったほうがいいです。

 状況とか立地とか、場所によってもぜんぜん変わるので、リハーサルだと思って、そういうことをやってから、飲食の世界に飛び込まれたほうがいいです。

――他になにかありますか?

五十嵐:FXで会社のお金をほぼ全部溶かした話とか、会社を週休五日にして大失敗した話とかありますけど、聞きます?

――いや、今日はやめておきます(笑)

起業家の教え #2

●挑戦するときは段階を踏んで!リスクを少なく挑戦しよう。

●投資するときは、その投資に見合うキャパシティがあるかを確認しよう。

●付加価値が高いことは人には任せられないかも。何が委任できるか見極めよう。

◆「栄光なき起業家たち」#2

<文/遠藤結万 Twitter ID:@yumaendo>

えんどう・ゆうま●早稲田大学卒業後、グーグル株式会社(現グーグル合同会社)に入社。中小企業向けセールスとアジア太平洋地域の分析を担当。退社後、スパーク株式会社を設立し、インハウス化やマーケティング戦略支援、マーケティング教育などを手がける。デジタルマーケティングについてのブログ「エッセンシャル・デジタル・マーケティング」を運営中。著書に『世界基準で学べる エッセンシャル・デジタルマーケティング』(技術評論社)

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最終更新:2018/11/4(日) 8:40
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